プロローグ:冷たい
ギャグは無いと思います……。
グロあり
性的描写は無いですが、言語は登場します。(凌辱等‥)
結構ひねくれた人物が登場します。
目が覚めて、最初にこの眼が写したのは誰もいない空虚な空間。現実に蘇生してまだわずかな脳が真っ白な天井を認識する。
起き上がってみた。いや起き上がって初めて、自分が仰向けに寝ていたという事実を知った。白いベットは不気味に心地よかった。
不意に肩に何かが触れる。それは自らの髪。あの時はまだ耳にも掛かっていなかったというのに、流し目で見た自分の肩には銀の髪が触れていた。
あの時――。不覚にも思い出してしまった。脳はそれを拒む自身の意思に反し、記憶のメモリーからそれを見つけ出し、自分の脳という小さな映画館でそれを上映する。
◇ ◇ ◇
冷たい、深海に堕ちていく自分という存在。冬の海は息苦しさより先に冷たさを訴えかけてくる。指先は痺れ視界は暗闇に誘われていくはずが、やけに純粋な白、白純に染まっていく。
最後まで感じていたのは――冷たい――。ただそれだけだった……。
◇ ◇ ◇
頭を抱えて呻いた。認めたくない現実が、再生したくなかった映像が、慈悲もなく、無情に脳内を駆け巡る。競走馬の荒々しさに似た、満月の面妖さに似た、喧噪。家族の笑い声が頭の中で木霊する。戻らないのに、帰ってこないのにそれは彼に語りかけていく。
やめてくれ――。脳内で機械的に記憶を再生する器官に制止を求める。だが変わらぬ速度で、変わらぬ精密さで、一度真っ白になった彼のページに、その軌跡を書き込んでいく。
やめてくれ――
やめてくれ――
やめてくれ――
一瞬の硬直の後、彼は体の芯から心の芯まで、冷え切った。
思い出してしまった冬の海の冷たさ。そして気づいてしまった孤独の冷たさ。脳裏に浮かんだ家族の笑顔でさえ、彼を冷やす氷塊でしかなかった。大切だったあの陽だまりは、もう凍ってしまっているんだと。彼はもっとも残酷な現実を認識した。
力なく、仰向けにベットに倒れこむ。白い布の不気味さんは一段と増し、温もりのあるはずのそれさえも冷たく冷え切っていた。
少年の銀の瞳は空虚を捉える。いや空虚しか捉えられない。孤独な彼には捉えるべき対象はなく、必然的に空虚をその瞳に写す。
哀れで悲惨な彼の体は例外なく、全てが冷たかった。
今回はこの小説をお読みくださり真にありがとうございます。
これは今まで僕が考えてきたストーリーの中で一番上手く出来ていて、自信作なので今後もよろしくお願いします。
※別サイトで更新しているものを加筆修正して載せているので、更新スピードは遅くなると思います。