#2ウツミシンダ
なんとなく、窓の向こうの空に左腕を伸ばす。
綺麗な緑色の小鳥が飛んでいる。
暖かそうな空だ、春だろうか。
腕を伸ばしたまま空を眺める
空を見ていると次第に意識が吸われていく気がした。
伸ばしているはずの左腕の感覚も、掛け布団がかかっている胸の感覚も吸われていく。
こんな感覚は何年ぶりだろうか。
幼い頃、小学校の低学年くらいのときかな、芝の生えた公園でよくこうして空を見ていた。
徐々に何も考えなくなっていく……
どれくらいそうしていただろうか(実際はそんなに経っていないと思う)。
「あ、」
声がした、幼い女の子の声だ。
意識が覚醒する。
声のした方を向いたときには既に[バタン!]とドアが勢いよく閉められた後だった。
左腕を下げ、起き上がろうとする
まず、右手に違和感
「いっ、」
直後、胸に刺すような痛み
掛け布団が上半身から落ちる
胸、というより上半身には包帯がしてあった、血が滲んでいる。
刺すような痛みの正体はこれか
そうだ、シロクマに襲われて……
避けたと思ったのに胸を裂かれていたらしい。
違和感のあった右手も小指と薬指が付け根から無かった。
「はぁ…」
溜め息を一つ
こりゃぁハードモード異世界生活の始まりだな
……
なんとなく、他に何かをしようとは思わなかったので、3本しか残っていない右手で握ったり開いたりしていると(ズボンを穿いているかだけ確認した)、ドアの向こうから階段を上る足音がした。
大柄な男が入ってくる。顔が濃い、少なくとも日本人顔ではないな(髭も濃かった)。歳は30~40代くらいだろうか、ダンディーなおじ様といった感じだ。
「おぅ、やっと起きたぁ、みてーだな。」
渋い声だ。ゆっくりとした口調で話してくる。
何て言っているか全くわからない。
言葉がわからず、自分の顔を見ているだけの俺に男は再び声をかけた
「ん? もしかして、言葉が通じねぇのか?」
声を発したあと、男は考え込んだ。
部屋が静かになり視線を感じて男の脚の方を見ると、こちらも日本人顔ではない、10歳くらい? の女の子がいた。
どうやら男を呼びに行き、そのまま男を楯にして隠れていたらしい。
男が声を発した
そんなに時間は経っていない。
そして一言、自分に親指を向け
「エド」
と、だけ。
直感でわかる。名前だ。
男はエドというらしい
こちらも自己紹介しないとな
俺もエドを真似るように自分を親指で指差し言った。
そのときになってやっと自分の名前を思い出した。
「内海 秦だ」
「ウツミシンダ?」
あ、自己紹介のやり方ミスったな
なんて不吉なこと言いやがるんだ。
そうか、言葉が通じないからエドみたく簡潔にしないと。
「シン」
次は力強く自分を名乗った。