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黄昏のグリマー  作者: ビバリー・コーエン
第3章
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第12話 剣豪の系譜

 どうしてこんなことに気付かなかったのだろう?

 多分、『リース・アーズメン』という少女が、ドワーフ族だという先入観で、その可能性を考えなかったのだと思う。


 建国の英雄ゼルフの物語に登場する5人の英雄がいる。

 すなわち『勇者アルン・レウーラ』『大魔法使いセイラ・サラディ』『僧侶シビク・プリドーテ』『冒険家ダオール・ライバー』そして……『剣豪ミトール・アーズメン』

 リースによると、勇者アルンがゼルフに殺害された後、セイラ以外のアルンを崇拝していた3人の英雄たちは、それぞれイリスを出奔したのだという。

 ちなみに、このことについては、ゼルフの物語には書かれていない。おそらくヴァイハルト皇国によって都合が悪い話なのだからだろう。


 剣豪ミトールは、その足でドワーフ族を頼ったらしいのだが、無論、人間に駆逐されたドワーフ族だったのだから、ミトールはそれなりに迫害を受けたらしい。

 だけれどもミトールは、献身的にドワーフ族に尽くし、また、ドワーフの女性と恋に落ちたこともあって、徐々にだが彼らに受け入れられるようになったのだという。

 その辺、ドワーフ族というのは案外寛大な心を持つ種族なのかも知れない、と僕は思った。

 とはいえ、アーズメンの一族が、やはりドワーフ族の中で特殊な存在であることには変わりはなく、千年の間、色々と肩身が狭い思いをしてきたらしかった。

 今回のドワーフ・魔族連合軍の将軍をリースが拝命していることを思えば、あまり気にすることはないと思うのだけれど、本人曰く<<アーズメンの一族はいつでも追い出される瀬戸際で生きている>>ということであった。

「そっか、だからリースは剣を使うんだね?」

「そうさ。剣豪ミトールの技は受け継いでいかなければならないさ。ドワーフ族の主な武器は斧だからさ、剣を振るうことで、自分が特殊な存在であること目立たせちまっている気がして、嫌悪感もあったりするんさ」

「ジレンマだね?」

「そうさねぇ。どっちかを選ぶことなんて……できないさ」」

 リースは壁に立て掛けられている自分の剣をチラリとみて、小さく溜息をついた。


 リースの居所を後にし、連合軍の拠点へと戻った僕たちは、僅かばかりの休息をとって、再び連合軍の司令部に集まっていた

「と、いうわけでだ。恐らく本日、敵はこの森を抜けるだろう」

「ちくしょう! そうなってしまえば、魔族の侵攻の範囲がいよいよ拡大してしまうではないか!」

 モルドリヒが昨晩のことを説明すると、隊長格の騎士の一人が机を拳で叩きながら、痛恨に吠えた

「いや、まだ、そこまでの段階やあらへんやろ」

 アデルさんが、真剣な眼差しで、机の上に広げられた地図を睨んで言う

「ふむ。なぜそう思うのだ? アデルよ」

「敵さんが村長はんを先導にして進む先は……マラブの村やろ?」

 アデルさんは、敵の拠点から森を抜け、マラブの村へと地図上で指を滑らせる

「確立されるルートは、つまり一本の道や」

「そうなりますね。そのルートは何かしらの方法で奴らに記録されるでしょうから、今後は村長さんがいなくても、このルートは使われると思った方が良いでしょうね」

 バーニーさんが苦々しい表情で言う

「せやけど、逆に言えばやで? 村長はんさえ奪還すりゃぁ、この1本のルートしか使えんちゅうことや」

「それは確かに……」

「せやったら、今度はマラブの村に戦線を張りゃあええやんけ。そこをキッチリ防衛しときゃ、奴らはそれ以上進めへんで?」

「うむ。アデルの言う通りだな。かなり守るに厳しくはなるがな」

 モルドリヒが腕を組み、地図上のマラブの村を睨む

「もうその辺は割り切るしか無いやろ。そやろ? 大将」

「ああ、そうだな」

 モルドリヒを含み、隊長格の騎士たちも一様に頷いた

「ちょ、ちょっと待ってください! それではマラブの村に戦火が及ぶことになるじゃないですか!?」

 マラブの村に防衛戦を張るという流れに、僕は思わず気負い立って声を上げた

「カドー君……」

 バーニーさんは、申し訳無さそうな顔で、首を横に振る

「坊主、そいつはしゃーないってもんやろ……」

 アデルさんも珍しく、通念に顔を歪めている

「そ、総大将……!」

 モルドリヒに縋ってみたけれど、肩を押し返されてしまった。

 力が込められたモルドリヒの指が、僕の肩に食い込んで痛い

「全員よく聞け! この拠点は破棄する! 奴らに先んじてマラブの村に防衛戦を張るぞ! 一人とてマラブの民が犠牲になることは許さぬ! いいか……一人もだ!!」

 モルドリヒの号令を合図にして、司令部に集まった騎士たちが僕とモルドリヒを囲むように輪を作る。


 ダン!

「おおっ!」


 騎士たちが両の手に剣を握り、鞘ごと床に突き立てた。

 勇猛なる騎士たちの喊声(かんせい)が、幕屋を揺らす。


「先導はカドーだ! 一気に森を抜ける……()くぞ!!」


 ダン!

「おうっ!」


 モルドリヒは踵を巡らし、幕屋の出口へと足を踏み出す。

 一部の騎士が、モルドリヒが通るだけの道を開けるために半歩横にずれたけれど、騎士たちは僕を囲む輪を解くことはなく、直立のままに僕を見つめている。

 言葉は無くとも伝わってくるものがあった……。

 彼らは死を決する覚悟をもって、マラブの皆を守ってくれることだろう。

 だから、僕もそれに応えなくちゃだめなんだ……。

 僕はモルドリヒの後を追い、彼の横に並んで歩く

「頼むぞ……カドー」

「うん……頼むよ、モルドリヒ」

「任せよ」


 ***


「おわっ! 一体なにごとだべ?」

 バーニーさんの馬に乗せて貰ってプルタンの森を抜けると、村の衛士であるエルバが村の入口に立っていた

「エルバ! 緊急の話があるんだ。村の皆を広場に集めて欲しい!」

「そ、それはいいけどよぉ……一体なにがあったんだべよ?」

「ごめん! それを今から皆に話したい。だから、とにかく皆を集めてくれ!」

「わ、わかった……直ぐに集める!」

 エルバは曖昧にだが頷き、村の中へと走って行った。

 一旦、他の連合軍の皆には、村の外周を囲むように散ってもらって、モルドリヒ他いつもの隊長格のメンバーを連れ立って、僕らも村の広場へと向う。


「すまない!!」

 モルドリヒは馬を降り、腰を曲げて頭を下げた。

 村中の人たちが集まった広場に、モルドリヒの謝罪の言葉が響いた

「君たちマラブの村の村長殿を、敵に奪われてしまった。敵は術をもって村長殿を意のままに操っている。やつらが森を抜けるのは時間の問題となってしまった」

「お、親父が……」

 愕然とするエルバをはじめとして、驚きや恐れのざわめきが広場をつつんでいく

「どうか許してほしい。だが我々は、必ずここで魔族の軍勢を食い止めると約束する」

「ということは、この村が戦場になると……そういうことですね?」

 聞き覚えのある声に目をやれば、僕の母がモルドリヒの前へと出ていた

(はなは)だ遺憾ではあるが、そういうことになる」

 悲痛なるざわめきが、さらに広場を埋め尽くしていく

「みなさん! まずは落ち着いて話を聞きましょう。この方々は今まで、私達を守るために必死に戦ってくれていたのです。私達も出来ることをしなければなりません!」

 凛とした母の声で、村人たちは顔を見合わせつつ、落ち着きを取り戻していく

「今更ではございますが、モルドリヒ皇太子殿下とお見受けします。許可なく発言いたしましたこと、深謝いたします。罰はいかようにも……」

 母は、ゲリラ隊から、皇太子御自らが、連合軍の総大将をしていることを聞いているのだろう、村の皆を静めるためとはいえ、礼を失したことを平伏して詫た

「構わぬ。そんなことを言っている場合ではないからな。どうか(おもて)を上げて欲しい」

「ありがとう存じます。それで、私達はこれからどうすればよいでしょう」

 膝を折ったまま、母は顔を上げる

「うむ……。ここより南方に3日ほど歩くとアルカンという村があるな?」

「はい。あります」

「最低限の荷物を持ち、急ぎアルカンへと向かってほしい。道中の護衛、アルカンに滞在するための交渉などは、全て我々が責任を持って行う。安心して移動して欲しい」

「私達にアルカンの民になれと……?」

「そうではない……いや、それを含め、マラブの民の今後については、ヴァイハルトの名に誓って、このモルドリヒが君たちの望みにかなうようにしよう。しかし、しばらくはこの村に戻れないことを、君たちには覚悟して貰いたい」

「ありがたく…。承知いたしました」

 母は、もう一度だけ地に頭をつけると、広場に集まった村の皆に向けて、声をかけた

「皆さん! 聞いた通りにいたしましょう。最低限の私財を持ってアルカンへ向かうのです!」

 村の皆はそれに頷き、各々(おのおの)の家へと散っていく。それを見届けた母は、最後に僕の方を振り向いて言った

「カドー……あなたはここで頑張りなさい!」

「うん! 母さんも気をつけて……」

 一言だけ僕と言葉を交わし、母は振り返ること無く、僕らの家へと駆けていった。


「ふぅー。正直だいぶ揉めることを覚悟していたけれど、カドー君の母上のお蔭で助かったぜ」

 バーニーさんが額の汗を拭いながら大きく息を吐いて、僕の肩をポンっと叩いた

「ああ、助かった。良い母を持ったな、カドー。では村人の護衛と荷物分担に一部の隊を回せ。采配はバーニーに一任する」

 隊長格の騎士たちはモルドリヒの指示に従い散っていくが、アデルさんだけがその場に残っていた

「なぁ坊主。お前の母ちゃんの名前を教えてくれへんか?」

「え? ジーニーです。『ジーニー・スタンセル』ですね」

「親父さんの姓か?」

「いえ、母は実家と縁を切る形でこの村に外から嫁いできたんです。その時父が、せめて名前だけでも繋がりを持ったほうが良いってことで、僕の家では、母の姓を名乗ることになったと聞いています。それに父は未子で兄弟もいましたから」

「そうかいな。突っ込んだことを聞いてごめんやったな」

「いえ……」

「何故そんなことを聞くのだ? アデルよ」

 僕も?マークだったけれど、モルドリヒも不思議そうな顔をしている

「あぁ大したことやあらへんねや。気にせんといてください。そんじゃワイも働いてきますわ!」

 そう言い残して、アデルさんは駆けていってしまった。

 あ、そう言えばハントさんのこと、アデルさんに聞いてなかったなぁ。

 でも、広場にハントさんもアーシェもいなかったし……二人は何処に居るのだろうか?

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