5.勇者はまだ来てません(5)
今回は長くなりました。
びしょ濡れの状態で通り過ぎる人たちに指を刺されながら歩くこと10分。ついに温泉に到着した。
そしてこれまでの疲れを癒そうと俺たちはゆっくりと温泉に使っていたのだった。
俺は冷静になって考えていた。
よくよく考えてみるとリーベルって神様だったんだよな。
見た目は幼いけど、全体的にエメラルドグリーンの髪と目をしていて、パーツに関していえば目は少しタレ目の癒し系だし鼻は全体のバランスをうまくとっていて高すぎず低すぎずこぶりな口が愛らしさを増長している。
ただ、幼女ルックスにツインテールで決めているところはちょっとあざといかなとは思っていたが。
なんかめっちゃ対等感出してたけど良かったのだろうか。
まあリーベルがそうさせてきたのだからしょうがないということにしておこう。
色々考えていたら少しのぼせきたので温泉から早めにあがり、俺がしばらく涼んでいると、やたらと元気で若干危ない表情をしているリリーとゲッソリとして死んだ魚のような目をしたリーベルが出てきた。
リリーお前はどうやったら敬うべき神様をこんな状態に出来るんだ!
そして俺たちは最初にすべきだったことをすっかり失念していることに気がついた。
「あっまだまともな神様にあってないな。どうしよう。これじゃあ力をもらうことが出来ないぞ!」
「おいおい私がいるのを忘れてないか?」
「「えっ?」」
「こんなにも近くにいて優しい優良物件の神様がれほらここに!」
「・・・・・・」
「お願いだから目をそらさないでくれ。私にも可愛い人間の子供たちに力を与えたいと思ってるんだよ!あと最近は酔いを覚ますために一人でデコピンするのが悲しくなってきたところなんだよ」
リーベルの訴えはそれからも続いた。
それらはすべて割愛させていただくが結論、俺らが思ったことを言おう。
「いや、ないから。」
「そこをなんとかお願いできないかグスン」
もはや顔をもうかまれたあとのティッシュくらいクチャクチャにしながら神様としての矜持もかなぐり捨てて懇願してくる。
「もう1回酒で酔っ払ってもっともーっとめんどくさい奴になってやろうか!」
「困ったものだな。どうしたらいいんだ」
「だったら私がいい神様を今日中に見つけられなかったらリーベル様に力を与えてもらうことにするよー!」
リリーがいつまでたっても泣き止まないリーベルを見ながらそんな妥協案を口にする。
「おぉ、女神が現れた。」
感動のあまりそれだけ言って機能停止するリーベル。
ただ俺は一言だけ……いや、二言くらい言いたい。
まずお前自身が女神だろうが!
そしてこいつ残念なやつだな。その上ちょろすぎるだろ。ベストオブチョロインの座を与えてやりたいと思うぞ。
俺は黙ってリーベルを息子が隠してたエロ本を見つけた時の母親が息子に向けるくらいに生暖かい目線を向け続けていた。
そうして俺とリリーは彫刻となってしまったリーベルを置いて新たな神探しに出かけるのだった。
ほんとにリーベルの扱い雑になったな。
「そういえばリリーはリーベルのこと気に入ってたけどいいのか?」
「うーん、最後にやっぱり行ってあげようかなって思ってるよ。あの可愛さはたとえ性格がどれだけ残念だったとしても、神様(笑)だったとしても尊いものだよー!」
「もしかしてもしかしてだけどもりりーさんよ。
これからも神様は神様というだけあって美人やイケメンが多いんですけどどうなさるおつもりで?またリーベルの時のようになるんじゃならないよね?」
「そんなのなるようになるんだよー」
まあいいか。
最悪リーベルさんは残念枠だからな。
ということで俺が力をもらう神様を本格的に探すためにメインの通りを離れて一本はいった道を歩いていく。
歩いていても神様が見つからないことは無い。
というかさっきの騒動を見ていた神たちが俺から私たちから力を貰わないかと自分を売り込みに来られる始末だ。
神様ってそんなに暇なのかな。
俺が特例なだけか。
彼らがいうにはリーベルはいつも一人でいて仲のいい神も少しいるもののあまりいないらしく、そんなリーベルと仲良くしゃべる人の子たちがいるはずもないと思っていたところでのあの騒動だったらしい。
実際のところ、どの神様からもらっても力は変わらないと今まで説明してきたが、力は変わらないが本当はあるものが神によって変わってくるのだ
それは加護である。
神様たちはそれぞれが司る事象があり、その分野に対しては人では到達することは成しえない領域へと彼らは足を踏み入れている。
神から例えば《剣術》というスキル(力の一部)をもらったところでどれだけ鍛錬しようと剣神へ届くことは無い。
だが、彼の加護を貰うということは彼のほんの一欠片にすぎないものではあるが彼の力を取り込むことと同義である。
流石に《剣術》のような力を与えられなかったものには不可能ではあるが、それらを持ったものが己の命のすべてを賭して剣の道につぎ込むことによって神の領域に踏み込むことができる可能性を得ることが出来るのだ。
つまり能力の限界値を底上げしてくれると言いかえても良いかもしれない。
また、形のないものを司る神でいえば幸運の神様であれば彼らの子どもを不幸なものを遠ざけやすくなったりする。
別に俺はそこまで特別な加護が欲しい訳では無い。だが、野次馬根性旺盛な有象無象の神からはもらいたいとはどうしても思えない。
しかも野郎の神様から加護なんてもらってほんとに誰得ですか?って話だよ。
できれば美人な神様でお願いしたい・・・
俺の神様に対するイメージがここに来る時と一変している気がするのだが気のせいだよなうん。
そんなことを考えながら神様たちを撒いて、路地裏でやっと一息つけると思ったその時に一人の新たな神が現れた。
見た目は黒いマントに半分が白くもう半分は黒く金色で縁取りされた仮面をかぶった怪しげな、いや、とってもイカした格好の神様?がいた。
「突然ですまないが私はオリーブという。神の一端だ。」
「私を弟子入りさせてくださいー!」
「おいリリー。リーベルはどうするんだよ……」
「すまないが私は人の子たちに力を与えることはできない。私はこのまちで人の子達と触れ合うことではなく、運営の方に携わっているものだ。」
「ではなぜオリーブ様がここに来たのでしょうか。」
「それを今から話そうと思う。」
俺はできるだけ丁寧な口調を心がけオリーブ様と話す。
流石にリリーは空気を読んで空気になっている。
「私は平和を司る神だ。そんな役割だからこそこのまちの維持や運営を任されていると言ってもいい。だが私は突然このまちの未来に暗雲がかかるのを幻視した。これはただの夢といった類のものでは無い。私は平和を犯すものの存在にいち早く気づくためのセンサーのようなものとしてこのまちにとって危険なものを感じることができるようになった。」
「で、オリーブ様がここにいらっしゃったということは俺のなにかが見えたと言ったところですか?」
「そうだ。今現在は落ち着いている感じがするもののその時は近づいている気がしてならない。しかもそれは避けられない運命というものらしい。ただ、平和を壊すことが必ずしも悪だとは限らないということを私はこれまでに何度も思い知らされた。だから私はそなたにその選択を託すことにした。最終的にどう落ち着いたとしてもそれは世界のお導き。不変の心理であったと思うことにさせてもらう。」
「お伝えくださりありがとうございました。ですが私は基本的に他者に干渉をするつもりはありません。例外として自分とリリーを狙った場合はどうなるかは分かりませんがたぶんあなた様が言うのはそのパターンの事なのでしょう。」
「わかってくれたならよい。最後に一つ忠告をさせてもらおう。
これからそなたは力をもらうであろうがそれは未知のものだ。神々でさえ見たことのないものである。その力を使いこなして見せろ。そうすればそなたに降りかかる災いというのだろうか。そいつを振り切ることが可能になるであろう。
おっとそろそろ時間だ。そなたたちの健闘を祈っておるぞ。」
そう言い残したオリーブ様はどこにもいなくなっていた。
横でずっと固まっていたリリーを見てこいつでも緊張することあるんだなとか少し思っていたところでやっと彼女が動き出す
「あのマントと仮面売って欲しかったー」
固まっていたのはただ感動に打ち震えていただけらしい。怪しいマントと仮面についての。
そんなリリーの言葉を聞いてほっとするのだが、あの神様の存在を改めて思い出してしまうのであった。
こうして神様との鬼ごっこも終わりを告げた事だしと思いふと空を見上げると太陽はもう一番高い位置まで昇っていた。
そのことを自覚するとお腹の空く感覚に襲われる。
リリーと相談し俺たちはメインのとおりに戻りなにか昼飯を食べることに決めた。
「これで今日のお昼までの行事も終わりだね」
…………うん。サラッとフラグを建てないで欲しかったな。りりーさんよ。
もしかしてリリーさんは下手をするとそこら辺の神よりもタチが悪いかもしれないな。
行動は危ないのに対して外見完璧すぎるからな。
「今日あったまともな神様はオリーブ様だけだったか。」
「リーベルはー?」
「あれはもうお友達みたいなもんだろ」
「反論できない。」
会話を続けつつ俺たちはメインストリートへと向かっていく。
ここらの建物はレンガで出来ており、とても趣を感じる。それに店ごとに看板が出ていたり、通路には魔石灯で照らしてあるなどするためロマンティックな雰囲気が醸し出されている。
みなさんもここまでくれば次に起こることはなんとなく想像がつくかもしれない。
リリーと俺の・・・
フラグ回収だ。
ドンッ
曲がり角を曲がった俺はある女性とぶつかってしまったようだ。
「大丈夫ですか。」
そう言って俺は手をずっと倒れてしまった彼女に差し出す。
「ありがとうございます。」
なんかすっごいキラキラした目でこちらを見てくる。
まあまあまあ。流石にまだ何も無いだろ。
「お怪我はなされてませんか?」
俺は一応確認する。
「いえ大丈夫です。紳士でいらっしゃるのね。」
何故か俺の好感度がさらにぐんぐん上がっているらしい。
だが、彼女の立場にしてみればそれもそのはずであった。
この世界には娯楽というものが存在しない。
だが、この少女、否神様は知っていた。とある異世界にある『少女漫画』というものを。
そしてこの現実に起きている今の状況こそがそのてんぷれってやつだということを!
しかも助けてくれた男の子はなかなかかっこいいではないか。
これはもう女性の夢と言っても過言ではない白馬の王子様になってくれるのでは!?
そんな脳内お花畑の女神様であった。
だがもちろんこの世界に少女漫画は存在しない。
なので誰にも理解してもらうことは出来ない。
だがこの何度も何度も自分の頭の中でシュミレーションしてきた少女漫画の世界というものが現実に現れた今、私がヒロインであると。
つまりこの王子様を逃すなという神のお告げだ。神だけど。
なので彼女がここでいう言葉は今まで何度もこんなことが起きることを想像して妄想の中でしか言ったことのなかったこの言葉に限られる。
「ぶつかってしまったのは私も悪いのです。その謝罪の意を込めて一緒に昼食でもどうですか王子様?」
そこで今までは存在感薄めだったリリーが突如として出てくる。
「この女危険な気がする。」
「この女とは失礼な、私にはクロトという名前があるのです。」
「そうなんですかへーそうですか教えてくださってありがとうございました。さあところでカイトのことを王子様と呼んでいたことについてはどう釈明しますか?」
リリーの表情から一切の感情が今は抜け落ちている。どうしてなのだろうか。
彼女の後ろに前にも見えたことのあるような気がする何かがついてる気がするがやっぱり気の所為ということにしておこう。
「まあ王子様の名前はカイトさんと言うのねこれからはカイト様と呼ばせてもらおうかしら。」
「そんなぽっと出の女にカイトは渡さないからね。。私の大切な幼なじみは。私の機器感知レーダーがビンビンに反応してるよー!」
俺にはよく理解できないが、何故か前の女性ふたりの間では火花というのは生ぬるい、もはや目からビームレベルでお互いを牽制しあっている。
「二人とも落ち着いてくれ。何をそんなに争ってるのかわからないがまずはお昼ご飯でも食べようじゃないか。」
渋々納得するふたり。
そして何故だかそこにはいつもより距離が近く俺の片方の腕を包み込む彼女とそれを見て負けじともう片方にくるクロト。
……誰かこの状況を説明してくれ。
そうして近くの手頃なお店へと到着する。
そこで改めて
「私は女神クロトと言います。カイト様これから末永く宜しくお願い致します。」
一瞬にして場が凍る
隣にいるリリーからさっきが漏れていて物理的にこおりそうなくらい冷たい空気が流れる。
「カイトは私のものなんだよ。小さい頃私とカイトは約束したんだもん。私がカイトのお嫁さんになるってね!」
飛びっきりの笑顔で俺に向けていうリリー。
可愛すぎて逆に言葉が出なくて他のことに気を紛らわせないとやってられないぜ。
「昔など関係ないのです。今の私そしてカイト様こそが重要なのです。」
あれ、ちょっと待てよ。
「そういえばクロトっていう名前でよかったか?」
「はいそうです。カイト様に名前を呼んでもらえたなんてもう死んでもいいかもしれません。」
「じゃあ死ねば?」
いつもと違う空気をまとったリリーがいる。
いつもののほほんとした感じはどこへ行ったのやら今はただ鋭い眼光で周りを見渡し、クロトのことを睨んでいる。
「リリー、俺は今のリリーよりもいつものリリーの方が可愛くて好きだから戻ってくれないか?」
「はいー」
その言葉を聞き風船がしぼんでいくかの勢いでつきものがとれたかのように元のリリーに戻る。
ただリリーの頭の中ではさっきのセリフがエンドレスで流れ続けている。
可愛くて好きだよ
可愛くて好きだよ
可愛くて好きだよ
可愛くて好きだよ
リリーは壊れた。
どこかの世界へいってしまったリリーをひとまず置いといておれはクロと様と話を再開する
「それでクロト様は神様なんですか?」
「はいそうです。」
「それならば自分たち、いや、自分は力を与えてくれる神様を探しています。何かいい神様に心当たりはないですか?」
「それなら私でどうでしょうか。というか逃しませんよカイト様?」
突然目つきの変わるクロト様。
「私、もうカイト様なしでは生きていけない身体となってしまいました。」
よく分からないけどもう逃れられない気がする。
この店に入ってから飲み食いをしていたが、周りの人々の目までさっきの一言であつまってきてしまった。
退路を断たれてしまったのだ。
よーく見るとそこかしこに先程までいた野次馬神達が戻ってきているようでもある。
どうしてこの街にはまともな神様という奴がいないんだ。ほんとにオリーブ様しかまともな神はいないのか。
「分かりました。あなた様から力をもらいたいと思います。ただしリリーはほかの神からもらいます。」
「では今から力をさずけましょう。」
そう言いながらリリーはそのまんまに俺はクロト様に引きずられてこの店を出る。
そうしてしばらく引きずられながらある怪しげな店の前に着いた。
看板にはこう書いてある。
[1泊 5000レイ 2時間2000レイ]
さあさあどうぞどうぞと言いながら俺は逆らえないままに入ることしか出来ない。
だってこの女神様に力が全然叶わないからな!
そしてある部屋に入る。
そして彼女はこんなことを言う。
「さあ、私が人の子に力を与えるには……恥ずかしいけどカイト様なら♡」
「却下でお願いします。というか普通にやってください。」
確かに心惹かれなかったかと言われれば俺の心は惹かれまくりだった。
リリーとは異なるが同じように流れる金色の髪、鼻が少し高めとなっておりパーツごとのメリハリがしっかり出ている上にそれらが見事という他ないバランスで並んでいる。
そして彼女の穏やかな微笑みは見ているこっちをどきりとさせてくるようなものだ。
だが俺はリリーを裏切れない。
いくら女神様でもそこだけは譲れない。
「仕方ないです……またいつかの機会に。」
「そんな機会が無いことを祈っています。」
「そんな悲しい事言わなくてもいいのに」
なんだかんだ言いながら彼女は普通に俺の力の授与を行ってくれる。
冷静になって周りを見渡すと、派手な作りとなった部屋にある大きなベッドに二人で腰掛けながらやっているこの作業になんだか悪いことをしてないのに羞恥を覚えてしまう。
俺がそんなことを考えている間にクロト様は俺に力を与えてくれている。
そして彼女は不意にその動きを止める
「あとは最後の仕上げだね。」
そしてこっちをじーっと見てくる。
その直後
俺の唇に彼女の唇が重なっていた。
えっ、
えっ。えーーーーーーー!!!!!
「これが最後のおまじない女神様からの加護です♡」
落ち着け俺
落ち着くんだ。
落ち着けと
いうだけ暴れる
俺の鼓動
よし落ち着いてきたぞ。つまらないことを考えろ。よーし。
「では力の説明に入ってもよろしいでしょうか?」
俺は静かになんとかだが頷く。
「基本的には自分の力=ステイタスが見えるように念じることで自分の目の前に自分の本当の力が現れます。まず最初にやってみてください。」
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名前 カイト・シルバー(人族)
年齢 18才
職業 農民(暫定)、狩人
加護 運命の女神の加護
スキル・魔法スロット
・道化師の舞台
・理想世界
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こいつ運命の神様だったのか。
だからさっきから何か色々とねじ曲がっている気がしたんだな…………。
次回、勇者参上!