4.勇者はまだ来てません(4)
不触世界には大規模な結界がはられている。
これは神の力による結界だ。
この結界はこの街にふさわしくないものをすべて弾くように出来ている。
例えばさっきリリーが言っていたいた事はあながち間違っておらずこの街はミクロのレベルまで浄化されている。
理由はひとえに結界の性能によりミクロ単位の塵まで弾くからだ。
それが生きていようとただのものであろうと変わらないので犯罪者が潜入しようとしてもまず入ることは出来ない。
結界を触っているだけでも彼らの体にとっては毒となり彼らの構造を原子単位まで遡りすべて分解し無かったものとされる。
但しこれらを使った自殺についてはこの結界情報の一部で例外と処理され阻止される。
そうなったものは自分が犯罪者であると言っているも同然なので秘密裏に牢屋へと連れていかれるのだ。
逆に犯罪者でないような人が結界を通れば、自身を浄化してくれることにも繋がったりする。
どこからがこの結界の判断する″ヨゴレ″となるかはこの結界を張っている本人のみぞ知ることである、
当たり前といえば当たり前だが俺とリリーはその結界を無事通過する。
大丈夫だとわかっていてももしかしたら……なんて考えてしまうのは人間の性だろうか。
「そう言えばこの街に人間ってどれくらい住んでるのー?」
「そうだな、神様1人につき3人までをこの世界で暮らすことが出来るって言うのを聞いたことあるぞ?」
「カイトは神様と一緒に過ごしたいとか思うー?」
「俺は安全で何事からも守られたつまらない世界よりかは危険があっても自分を高めてくれるような世界がいいなとは思う。
まあぶっちゃけそっちの方が稼げばもっとより良い生活できそうだし」
「身も蓋もない言い方するなー」
そんな話をしながら不触世界へと入っていく。
この街には門番なんてものはないのは当たり前だ。結界がどうにかしてくれるからな。
「ねえカイト、すごく可愛い。なにあの子」
「何って言われてもなんかの神様か?」
この街もたいして王都のつくりと変わらない。
高い中世ヨーロッパ時代を彷彿とさせるような家々がずらりと立ち並び通りを作れば、一本脇道にそれれば隠れ家的なお店のようなものがあったり、色とりどりの看板を掲げて道ではたくさんのテントによる簡易版ではあるが商店街が作られている。朝市の露店みたいな感じだ。
商業をする人は特別な許可がなくても商売は可能である。
その露店が続く通りの奥にはつきあたりにこの世界が崩壊しても溢れ出し続けると言われている噴水が存在する。
その前に小さな女の子が一人…………
酒を飲んでいる。
ぐでぐでに酔っ払った姿に隣のリリーはもうメロメロ。
「どうしてあんな小さい子がお酒飲むのは可愛いんだろうー♡」
「まず考えろ。小さい子がほんとにお酒を飲めると思うか?成人してないと飲んじゃいけない「うちはちっちゃい時から飲んでたよー」だろ」
えっ?
「私がまだ10才くらいの時にね、お父さんとお母さんが山へ芝刈りに行ってる時に私が川へ行くとどんぶらこーどんぶらこーってお酒のボトルが流れてきたんだー。家に持ち帰るとお母さんとお父さんが飲んじゃうから私それ飲んでみたんだよねー。」
………………
「そしたら次は私がどんぶらこーどんぶらこって流されちゃって。てへっ。」
「なんかよくわからないけど私ボトルに捕まって頬を赤く染めやばい幼女だったらしいんだけど、知らないうちに誰かが助けてくれたのか自分の村に戻ってたんだよね」
へー。でも俺は関係ないから知らなかったな。
リリーの酒を飲んで酔っ払った直後の状態とか見てみたいな。
「それからねお酒なんて一回飲んだら何回飲んでも一緒だろとかお父さんとお母さんが言い出してよく飲んでたんだよねー」
とんでもねーな。
その親あってリリーありって感じだな。
まあリリーの両親については俺も知ってるんだけどね。
一通り話し終えたリリーの目線はやっぱりお酒を飲んで酔っ払ってる幼女に釘付け。
するとその幼女、リリーの視線に気づいたのかこっちに寄ってくる。
でも多分シンパシーを感じて似た者同士ひきつけあっているように見える俺の目の方が正しいと思う。
「そこにょおみゃえ、にゃんでこっちをじろじろみてんにょ?」
普通に酔っ払いだ。
「見てりゅだけじゃにゃくおみゃえも一緒に飲みにゃ」
おっとこれ以上放置すると危ないことになってしまいそうだ。
一度止めるとするか。
「おいそこの幼女!俺の連れを酒で惑わそうとするなんてどうゆうことだ。こいつの理性が飛ぶととんでもないんだよ!」
「わぁたしはよーじょじゃにゃい。おしゃけにょ神様にゃのだ。」
「それで神様はどうしてそんなに可愛いんですか。頬擦りしていいですか?抱き上げてもいいですかー?」
「おいリリー……」
「そんにゃの有料に決まってるにょだ」
「金をとるのかよ」
「この位でどうでしょうかー」
そうして俺たちの全財産を自称酒の神様の前にかざして猫じゃらしみたいにしている。
神様はというと、
「いぇぇぇーぃ!あしたにょおしゃけだいにゃのにゃー」
お金に目移りしてほんとに猫みたいだ。
とりあえず二人とOHANASHIをしなければな。
そして数分後、噴水の周りの椅子に俺たちは座っていた。
さっきと違うところといえばすこーーしおしゃけの神様(笑)とリリーのおでこが赤くなってるような気がしなくもない。
だが問題ないだろう。
この神様ならば許されるという確信が何故か俺にはある。
なんて思っていたら。
なんとあのベロンベロンの飲んだくれ状態で立つことさえままならなかった自称おしゃけの神様(笑)が突然素面に戻ったのだ。
あとから聞いたところによると、額をデコピンすることによりのみ酔っぱらい状態から素面に戻れるらしい。
……家でひとりで自分にデコピンか。ブフッ
「じゃあまず丁度いいからそこの神様に聞くとするか。」
「私をヒレカツの横にあるキャベツのような扱いをするでない。」
「私ロースカツのほうが好きだよー」
この短い会話で悟った。
やばいこれ会話成立しないやつだと。
この状況を脱却するには、、、
「よしじゃあこのお金を渡すからリリー、何か買ってきてくれないか?」
「じゃあおしゃけの神様のほっぺをを買っていい?」
「あー喉が渇いたなー。お酒以外の飲み物が欲しいなーチラッ」
「もーカイトったらしょうがないから私がいってきててあげるよー」
なんとか厄介ばらゴホンゴホン俺のお願いを聞いてもらえるようだ。
そこで神様から一言
「私は『お酒』の神様だからな。だからな!」
もちろん俺とリリーはゆっくーりと目を逸らして・・・まって、このタイミングで飲み物買いに行かないで!リリーーーー!!!
ここで少しの誤算はあったものの俺はお酒の神様から話を聞くことにすした。
「俺たち2人は神様から力を受け取りに来たのですがぶっちゃけどの神様からもらうのがいいと思いますか?」
「それはもちろんわた……」
「あなたを除いてね」
俺と彼女の間で静かに火花が散る。
とんでもなくつまらない争いだ。
なのにいつまでたっても終わる気配がない。
周りにも面白がって集まるギャラリーまで出来始めるほどだ。
その殆どが神様なのだが。
神様に注目される俺スゲーなんて言ってる場合じゃないな。
そんなこんなしているうちにリリーも飲み物を持って帰ってきて俺とお酒の神を見つめる。
えーい
ぴちゃぴちゃっ。
気の抜けた声が聞こえるとともに俺たち二人の体はびしょびしょになっていた。
俺たちは呆然。
周りも騒然。
俺たち2人の上に小さな滝ができていたのだった。
「あー二人とも濡れちゃったね。よしこれは一度体を温めないとまずいねー。よし今から温泉にいこー!」
こいつただ、あの神と一生に温泉に入りたくてやっただけではなかろうか。
ジトー
釈然としない気持ちの俺だが不毛な争いを止めてくれたことと、濡れたままでいるわけにはいかないので渋々だかその提案に同意する。
結局肝心なことを聞けなかったが今回はよしとするか。
だがこの神様はまた関わりそうな気がするのでこれぐらいはして置かないとな。
「忘れてましたけどあなた様の名前はなんというんですか?」
「あぁ私の名は酒神リーベルだ。
ちなみにおまえの名前はなんだ」
「カイト、カイト・シルバーだ」
ライバルとの別れよろしく俺たちふたりは背を向けて歩きだそうとする。
「あのー目的地は一緒ですよー」
リリー、そこはスルーしてくれてもいいではないか。
「ちなみに私はリリー・ゴールドですー」
ちゃっかりアピールすることを忘れない。
こんな騒ぎを起こしたために俺たちは知らない間に神様たちからの注目度がうなぎのぼりになっていたらしい。
リリーの容姿を見てふらちなことを考えていそうな神様の顔は覚えたぞ。
絶対にお前のところにリリーは行かせないからな!
結局俺たちは一緒に温泉を目指すこととなった。
俺とリーベル様?は濡れたままだからいくら気温が上がってきてるとはいえきついものがある。
まあ明日風邪にならないことを祈ろう。
クシュン