8.父との再会
広大なマンゴー農園を突っ切ると、山際に民家が寄り添う形で見えてきた。
なんの特徴もない二〇〇戸ほどの集落が、時をとめられたかのように陽だまりのもと、うずくまっていた。
ここが咲希の実家がある町だという。過疎と高齢化が進んだ限界集落であることは、家屋の古さと活気の希薄さから察することができた。
バスは中央通りに入った。
ちっぽけな郵便局や薬局、診療所などが軒をつらねていた。とはいえ、主だった店舗以外はほとんどシャッターを閉ざしており、道行く人も数えるほどしか見当たらない。
バスは中央通りを突っ切ったところで停車した。咲希はここで降りるから、と言ったので交野は荷物を手にした。
二人はバスから降りた。
休むことなく歩き出し、石垣の多い狭い路地を幾度となく曲がってたどり着いたのが咲希の生家、葛家であった。
L字の形をした平屋の曲がり家で、裏手は竹藪が自生した雑木林になっていた。敷地内には野放図に育った夾竹桃が開花の時期らしく、薄紅色の花を咲かせ、バニラアイスにも似た甘ったるい匂いを漂わせていた。
葛家では告別式に向けての段取りが執り行われていた。
玄関を開けると、親類縁者たちがせわしなく屋内を行き来していた。
七年ぶりに母と再会した咲希は、かるい抱擁をかわした。母親は夫の突然の死もあってか、満足に食事もとっていないような不健康ぶりで、しなびて見えた。目もとが咲希と瓜二つで、厳しい日差しにさらされて労働してきたのだろう、よく日に焼けていた。交野が自己紹介するまでもなく、彼女は察してくれた。
すぐに九畳の和室に通された。事故死した父、友之の亡骸を伏せてあるのだ。
祭壇が組まれ、そのまえに白木の棺が置かれていた。
棺のふたを取ってみた。
友之は安らかな表情だった。眼は閉じられ、苦悶にゆがんだ色はみじんもない。
高速での大型車両をふくむ衝突事故だったので、てっきりふた目と見られぬ惨状ではないかと思いきや、案に相違してきれいな姿であったのが、せめてもの救いだった。
咲希は座りこんだまま、眉根をよせて唇をふるわせていた。ほどなく冷静さを取り戻し、友之の身体を見つめた。白装束の襟からのぞく素肌には、包帯が幾重にも巻かれていた。
「お父さん、家出したこと、ゆるしてね。もっと早く帰ってくるべきだったけど、なかなかふんぎりがつかなくって、こんなに遅くなっちゃった……」と、涙声で言い、包帯をなでた。