7.「生まれついてのブッチャーだからよ」
二人はたっぷり切り身の入ったタッパーを受け取ると、平泉と六さんに別れをつげ、港をあとにした。
別れ際、
「咲希!」と、平泉が管理事務所の玄関から手をあげた。「出棺のときにゃあ、約束どおり港で待機しとく。もっとも、そのまえにちゃんと焼香させてもらいに寄るがな」
「ええ。よろしくお願いします」
「どうも」
交野も頭をさげた。咲希は肘のところまで手をあげてこたえると、極力関わりたくないといわんばかりに歩き出したので、交野はあわてて彼女の横にならんだ。
「港で待つとは」
「ここだけの話」咲希はそれには返事せず、「あの人が苦手だった。七年ぶりに会って、わたしにも変化があるかなって思ってたけど、やっぱり無理」
「世渡りがうまそうだからな。誰にでも愛想がいいんだろう」
「そうじゃなく」と、咲希は険しい顔をして、「生まれついてのブッチャーだからよ。生理的に受けつけないの」
「ブッチャー」とっさに一九七〇から八〇年代に日本プロレスで活躍した黒人レスラーの姿が思い浮かんだ。リアルタイムに観た世代ではないが、熱烈なファンの友人に教えられたことがあった。
「そのことについても、あとで説明するわ。とにかく順を追っていかないと、あなただって混乱するだろうから」
「なんのことやら、さっぱりだな」
と、交野は肩をすくめ、彼女にしたがうしかなかった。
◆◆◆◆◆
県道に出て、三十分ばかり時間をつぶしたのち、バスに乗りこむと、悉平島の山間部に分け入った。
山には抜きん出て背の高いアカマツが目立つ一方、南国特有のソテツが生い茂り、内地とは異なる趣をかもしていた。
こずえのすき間からのぞく空は快晴。蒸し暑いが陰気臭さは感じさせず、車窓から吹きこんでくる風には濃い山気がまじり、鼻をくすぐった。
十五分もバスの後部座席でゆられると、急に開けた土地に出た。
左右にビニールハウスが立ち並んでいた。なかではよく手入れされたマンゴーが栽培されていた。実はたっぷり太陽の光を吸収して緋色に完熟し、落下防止用のネットにひとつずつかぶせられていた。八月上旬のこともあってか、収穫のピークはすぎ、実の数は少ないながら、華やかな彩りが眼の保養になった。