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26.「その方が、おれも寂しくないしな」

 骨壺は悉平島に持ち帰って墓地に埋葬し、納骨袋の方は猿噛み島島内にある専用の場所に捨て、分骨の形式をとるという。


「そこの丘を越えてしばらくおりていき、海沿いをまわったところに天然の納骨堂があるんだ。ちと寂しいが、見晴らしのいい場所さ。変な話だが、お猿さまに食べてもらって昇天してもいいし、この世に未練があるならば島にとどまったとしても、悪くない場所さ」と、例の小高い丘と雑木林を指した。


 ただし、道らしき道はないうえ、猿のテリトリーのさなかを突っ切ることになる。島のニホンザルは、生きている人間には手を出さないと平泉は請け負うものの、万が一のことを考え、遺族は同伴させないのが常だという。その間、先にプレハブ小屋か、船内で待機させておくのが習わしのようだ。


 平泉がひとりで納骨堂へ行ってくるとの発言に、交野はすかさず同行したいと告げた。

「個人的に納骨堂とやらを、じかに見学したい好奇心もあるが、それだけじゃない」と、交野は言い、丘の上の雑木林をあごで示した。「見たところ、丘の上は獣道しかなさそうだし、藪を切り開きながら歩かないといけないんじゃないのか。だとすれば」じっさい、この夏の勢力下で成長著しい草木は、ゲートを閉ざしたかのように行く手をはばみ、おいそれと進めそうになかった。有刺鉄線さながらのイバラのついた藪が茂っていた。「おれが友之さんの遺骨を運ぶから、平泉さんは藪を払うのに専念した方が楽になると思う。あんたひとりじゃ、作業も倍かかるはずだ」


 平泉は交野と眼をあわせると、にんまりと相好そうごうをくずし、顔じゅうしわくちゃにした。

「いいだろう。好きにすりゃいい。その方が、おれも寂しくないしな」と、言った。咲希に向きなおり、ウインクした。「咲希、小屋に入って左の座敷の戸棚にカセットコンロがある」

「はい」


「やかん、湯呑、お茶の葉にコーヒーもそろってる。水はおれの船にペットボトルに入ったのがあるから、遠慮なく使うといい。ゆっくりお茶でも飲んで、おれたちの帰りを待っててくれ。ちょっと遅くなるだろうから、気長によろしく。みすずさんも、のんびりくつろいでてください」


「そうね。せっかくだから親子水入らずで、おしゃべりしていますわ」と、みすずが頭をさげた。

「直哉、くれぐれも気をつけて」と、咲希が硬い表情で、小さく手をふった。

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