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24.運命の初七日法要の日

 それからというもの、初七日までは遅々たる歩みで時間がすぎていった。交野は所在なくあちこちを散策したり、港で釣竿をさし出したりして時間をつぶした。島での暮らしはあまりにものんびりしすぎていた。だが、片時も大猿のことが頭から離れなかった。


 そして、ついに初七日法要の日が訪れた。

 午前十時まえ、空は厚い灰色の雲がうねり、海は不穏さを感じさせる白波が立ちつつあった。

 なにもかもがモノクロで、禍々(まがまが)しくゆがんで見えた。


 漁港に着いた交野と咲希、みすずは曳網漁船『第一渡海丸』をさがした。みすずは風呂敷に包まれたものを抱えていた。からの骨壺が包まれているのだ。

 船はすぐに見つかった。

 平泉はエンジンをかけたまま待機していた。すでに防水エプロン姿で、腰にはブッシュナイフがおさまったさやをぶらさげていた。




「さあ、早いとこ乗って。この雲行きじゃ、じきに降ってくるでしょうからね。覚悟してください」

 みすずが頭をさげ、「すみませんね。また仕事の手をとめてしまって」と、言った。

 平泉がふなばたに片足をかけ、片手を岸壁にさし出した。みすずがその手を握り、漁船に移った。


「どうせ、ここしばらくは網の修繕しかやることがなかったんです。こんな天気が続いてりゃ、おいそれと漁にも行けやしない。お気になさらぬよう」

「時化はじめてるけど、大丈夫かしら。いざ、島に渡ったはいいけど、帰りそこねたりしないですよね」と、咲希。


「なに、これほどの波ぐらい、どうってことない。さ、乗った乗った。手早く終えて、引き返せば問題ない」平泉は白い歯を見せ、交野に向きなおった。操舵室に入るとかじにもたれ、上目遣いに、「よう、交野さん、気分はどうだい。こないだは、都会もんが見学するにゃあ、ちと刺激が強すぎたかなって心配してたところよ。咲希を嫁にもらうんだったら、島の風土になじんでおかないとな」


「ご忠告痛み入るね。おかげさまで、すっかり回復したさ。心身ともにね」と、交野は皮肉っぽく言うと、勢いよく船に飛び乗った。




 一行はふたたび猿噛み島めざして、船上の人となった。

 どうやって平泉に食ってかかるか手段を考える暇もなく、猿噛み島に着いた。

 島の波止場に横づけすると、一行は足早に石段をのぼった。

 そのころになると、はるか沖合で、トタン板を蹴りつけたような雷鳴が聞こえはじめた。急いだ方がよさそうだった。


 上はひっそりしていた。

 雑木林には猿の子一匹とて見当たらない。カツオドリが来たるべき嵐におびえ、神経質そうな声でさえずっていた。

 一枚岩の方を見るなり、交野は息を飲んだ。


 杭とロープでつながれた白骨死体が大の字に寝そべっていた。仰向けのままで、これといって各部位が散らばった様子もなく、きれいに骨のみとされていた。

 ただし骨は白いわけではない。わずかばかりの赤黒い筋繊維が付着した状態であるため、生々しい色合いを呈しているのだ。

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