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絶海の孤島! 猿の群れに遺体を食べさせる葬儀島【猿噛み島】  作者: 尾妻 和宥


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21.「妖怪なんてあるもんか。頭がお花畑じゃあるまいし」

「逃げていった」

「今後、あれがなんであるか、知ろうとするんじゃねえ。島には知られたくない過去の一つや二つはあるものさ。……くそっ、見られるなんて予想外だった」


「オス猿は四、五歳になると群れから離れ、オスだけの少数の群れに入るか、完全に孤立したハナレザルになると聞いたことがある。だとしても、あれはニホンザルにしては大きかった。ちょうど人間の成人ほどのサイズだったぞ。――まさかあれが、妖怪の狒々(ひひ)なんてことじゃ」


「黙らっしゃい。妖怪なんてあるもんか。頭がお花畑じゃあるまいし」と、平泉はぴしゃりと言った。「おい、そろそろ引きあげどきだ。さっさと片づけを済ませ、島から出よう。幸いにして、咲希と清彦は見ていないようだ(、、、、、、、、)。三人がかりで責められでもしたら、目も当てられないところだった」


「だったら、目撃してしまったおれはどうなる。このモヤモヤはどう解消すればいい!」交野は甲高い声をあげて、胸を叩いた。

「なんども言わせるな。おまえはなにも見なかったんだ。すべては気の迷いから生じた。だから害はない。それでいいじゃないか。万事解決だ」と、眉間にふかい溝をつくってまくし立て、交野の背中をどやした。「ほら、後始末を手伝え。さっさとずらかろう」


 焚火にくべた棺桶の残骸は炭化していた。モノレールでいっしょに運んできたバケツの水で火消しにかかった。

 咲希たちが相談を切りあげ、戻ってきた。




 平泉は両腕を広げて、二人を迎えた。

「猿葬の続きは彼らにまかせるとして、おれたちはいったんここを出よう。次に島に来るのは初七日の日だ。それまでなすがままにする。なにか忘れ物がないか、各自、確認してくれ」と、先ほどとは打って変わって、明るい口調で言った。


「その初七日の件なんだが」と、清彦が遠慮がちに口を開いた。「また島に渡り、親父の遺骨を拾いたいのはやまやまなんだが、急な仕事の都合で調整するのが難しくなった。納骨のときは咲希と交野くんにまかせたい。君だって仕事を抱えてるんだし、我がまま言うようで申し訳ないんだが……」


 咲希が交野の腕をとった。

「そういうわけで、直哉と会社には迷惑かけるんだけど、お願いできるかしら」

 交野はいささか面食らいながら、

「おれはべつにかまわないが。せっかくトカラ列島くんだりまで来てるんだ。咲希につき合うよ」


 じっさいは有給休暇を一週間以上行使するのはためらわれた。いったん東京に戻り、初七日のまえにトンボ返りすることも考えたが、それもしんどいと思った。『フェリーとしま』は三日に一便しかないうえに、海の状態しだいで必ずしも定刻どおりに出航するとはかぎらないのだ。

 くわえて今しがたの、猿噛み島のタブーを目撃してしまった手前、またここに戻ってくるのも気が重かった。


 交野は例の雑木林を見た。

 平泉のでたらめな投石により、一度は姿を消したはずの大猿らしき六匹の影が、ふたたび木の幹にしがみついていた。咲希たちは依然気づいていない。


 まさか狒々のはずではあるまい。

 かたや一枚岩の中央では、あいかわらずニホンザルの群れががっついていた。

 その輪に加われず、ひたすら遠巻きに、恨めし気に見つめているふうだった。あるいは猿たちがひとしきり宴を終えてから、おこぼれをいただくつもりだろうか?


 モノレールの荷台を先に下へおろさせ、そのあと四人は猿葬の広場をあとにした。石段をくだることにした。

 帰りの船の上では、誰もが口をつぐんだままだった。

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