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2.トカラ列島のひとつ、悉平島へ

◆◆◆◆◆


 八月上旬に、咲希さきの父の訃報が舞いこんだ。

 北九州の高速道路で玉突き事故に巻きこまれ、死傷者七人を出した事故がニュースに流れた。そのなかに父、かずら 友之ともゆきの名前があがったのだ。

 そんなわけで、咲希は家出同然に飛び出してきた故郷へ帰らなければならなくなった。七年ぶりだという。


 しかもトカラ列島である離島の一つ、悉平島しっぺいとうの出であることを打ち明けた。

 交野かたの 直哉なおゆきには彼女が故郷を捨て、なぜ東京で暮らすようになったのか、あえて詮索せずいままですごしてきた。つき合うようになってから三年経ったとはいえ、これまで島の話を避けてきたからには、よほど口にしたくない過去を胸に秘めているにちがいない。


 今晩の通夜にかけつけるのは物理的に無理として、明後日の告別式に間に合わせるには、鹿児島からトカラ列島――鹿児島の南の海に広がる南西諸島。屋久島と奄美大島の間にならぶ有人島七つと、無人島五つからなる南北一六〇キロメートルに点在する島々のこと――の各島を経由する『フェリーとしま』に乗船しなくてはならないという。

 このフェリーの運航頻度は三日に一便しかない。海が時化ていると出航できないことがめずらしくないため、時刻表などあってないようなものなのだ。


 十島村役場に問い合わせたところ、運よく今夜遅くの、十一時五十分に出る便をつかまえることができた。もっとも鹿児島港へは、羽田から二時間かけて空を突っ切らねばならないのだが。

 突然の父の死に、烈しい動揺にとらわれた彼女を一人行かせるわけにもいかない。交野も会社を休み、付き添うことにしたのだった。


 汲々(きゅうきゅう)とした生活に追われ、とても結婚どころではなかったものの、籍を入れ、人並みの家庭を築きたいと咲希が思っているのは知っていた。せめてひと目、母親ぐらいには顔を見せておくべきだ。彼女も三十をすぎた女だ。


 夜遅く、二人は船上の人となった。

 当然のことながら、交野が悉平島を訪れるのは初めてのことだ。

 聞けば、悉平島では本土では考えられないような古めかしい土着信仰が根付いており、なかでも葬送儀礼の風習における自然葬はほかに類を見ないという。


 外界を閉ざされた離島とは、ひとつの国家といっても差し支えない。

 すべてが島のなかで完結される空間では、島民の思考は内向がちになり、本土とはかけ離れた文化に傾いてしまっても、なんらふしぎではない。その異文化は脈々と受け継がれ、かんたんには軌道修正しがたいものとなる。

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