表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/37

13.「仕事用兼霊柩車ならぬ、霊柩船ってわけさ」

 告別式はつつがなくことが運んだ。

 東京のそれとのちがいは規模が小さいだけで、さほど変わりはなかった。故人が事故死したわりには、湿っぽくない式だった。雨だけが泣いていた。


 喪主をつとめた咲希の兄、清彦があいさつを述べたあと、いよいよ出棺の時間となった。

 棺を運ぶため、親族や会葬者の男たちが名乗り出たが、どの面々も高齢者ばかりだった。見ているだけは忍びなく、交野も担ぐことになった。


 祭壇のまえに鎮座されていた白木の棺が男衆らによって送り出されて、縁側から外へおろされた。

 葬列を組み、敷地内を三周まわったあと、宮型霊柩車の棺室におさめられた。

 こぬか雨が降りそぼるなか、黒塗りの車が長々とクラクションを鳴らした。


 やがてエンジンがかけられ、発車した。助手席には母、みすずが同乗している。霊柩車の後続についた乗用車では、清彦がハンドルをにぎり、咲希と交野がうしろの座席についた。

 二台の車は、町へ来るときに通ったマンゴー農園の街道とは別の方向をたどる。

 車内では清彦と咲希が、このあとの打ち合わせをしただけで沈黙が落ちた。ワイパーが往復する音に眠気を憶えた交野は、わずかのあいだまどろんだのだった。




 山を三つ越え、つづら折りの山道をくだり、海岸線を走ると、ほどなく昨日の漁港に着いた。

 コの字に湾になった埠頭沿いをたどると、霊柩車がすでに到着しているのが見える。

 車内のドライバーと、外で傘をさした喪服姿の男が話しこんでいた。

 傘をさした方は平泉だった。平泉はくわえタバコのまま、手をあげてきた。


 かたわらには、曳網ひきあみ漁船『第一渡海丸』が灰色の凪いだ海上に停泊していた。

 操舵室のうしろの窓には忌中と書いた半紙が貼られ、主だった漁具は船からはずされていた。すでにディーゼルエンジンが回転しており、茶髪の若い漁師が二人、船室のなかで所在なく壁にもたれていた。


 交野たち三人は車からおりた。霊柩車のドライバーも出てきた。

 車窓をあけたみすずが顔を出し、

「平泉さん、あとはよろしくお願いしますね。子供たちにまかせますわ」と、言った。


 平泉はタバコを捨てると、傘をとじ、

「あいさつは抜きです。さっき済ませたばかりだしね。男どもがそろったことだし、早いとこ運ぼうか。あんたもよろしくな」と、早口で言い、交野を指さした。「まずは棺をおれの船に乗せる。おれの船は、仕事用兼霊柩車ならぬ、霊柩船ってわけさ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ