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第七話 ギルドホーム

後書きに追記しました。

 ゲレオンの付き添いで魔人国から日本へと送り届けられてから数日後。

 アヒム様から「ホームの用意が出来たので受け渡しをしたい」と連絡が入った次の日に、私は指定された場所に向かうため、公共交通機関である魔導列車を乗り継ぎ、とある駅へと降りたっていた。


「えーと、確かこっちで良かったよね」


 過去何度か初詣で来たことがある駅舎には、大きく『鎌倉駅』と記されている。

 冒険者ギルド支部がある横浜から電車で一本のここは、アヒム様に提出した希望書にも書かれていた『もしも転移陣に不具合が起きた場合に行動しやすい場所が良い』という一文に沿ったチョイスだ。


 私やエルナ、リーンハルトと言った成人組はともかく、ラルフとジークリンデの学生コンビは『third life』が始まった今でも普通に学校に所属している。

 となれば平日は毎日学校へと登校するのだから、特にあの二人にとって魔導列車の重要度はかなり高いのである。


 まあ最悪は『フライ』で飛ぶという方法もあるのだが、悪目立ちすること必須なので可能な限り避けた方が良い手段だろう。


 そんなことをつらつら考えながら、通話口で伝えられた住所を思い出しつつ歩いていけば、進行方向から聞き覚えのある声で名前を呼ばれ苦笑する。


「そんな大声で呼ばなくても聞こえるんだけどなあ」


 大きく手を振りながら「おおーい! アデルさーん!」と叫ぶのは魔人国の文官であるエルマーだ。

 金色のベリーショートとエメラルド色の大きな猫目を持った彼は、私よりも遥かに年上の筈なのだが言動が妙に幼いところがある。


 彼にとっての上官であるアヒム様に聞いた話では、士官学校の成績こそ平均よりやや下というレベルだったが、実際に仕事をさせてみると予想以上に手際が良かったらしく、今では階級こそ持たないながら、アヒム様や事務長官殿からも目をかけられているらしい。


 だからこそ、アヒム様が用意したギルドホームを私に受け渡しするという今回の『お使い』に彼が選ばれたのだろう。

 上司と部下の関係が良好なようで何よりである。


「どうも。お待たせしました」


「いえいえ! ボクが早く来ちゃっただけなんで気にしないでください」


 笑顔を浮かべて首を横に振ったエルマーは、肩にかけていたビジネスバックからクリアファイルを取り出し、差し出してくる。


 素直に受け取れば、それは私たちが提出した希望書と、そのコピーだった。

 コピーの方には手書きで色々と書き足されており、アヒム様がホームを用意するために手を尽くしてくれたことが伺える。


 余談だが、どうしてエルマーがアイテムボックスではなくビジネスバックを愛用しているかといえば、アイテムボックスのスキルは元プレイヤーにとっては持っていて当然のスキルなのだが、それ以外の種族からすると結構なレアスキルだからである。


 確かゲレオンもこのスキルは所持していた筈だと思うが、まあそれは今は関係無いので置いておく。


「それであの……。ホームって、もしかして此処だったりするんですか?」


 もしかしても何も、指定された住所は間違い無く此処であるし、何より門前でエルマーが待っていたのだから間違い無い。

 間違いない筈なのだが、そうとわかっていても思わず確認してしまうほどに立派な建物なのだから仕方ない。


「はい! 我が魔人国の技術者を集めて超特急で建築した自信作ですよ!」


 キラキラとした笑顔で言い切られ、口から「おうふ……」と声が漏れる。

 確かにホームを用意してほしいとは言ったが、まさかゼロからホームを建てるとは思わなかった。

 ただまあ、私が提出したホームの希望書に書かれていた内容を思い返してみれば、こういう結果になるのも頷ける。

 下手に建売を購入してから諸々の改装を施すよりも、最初から全て計画した上で着工した方が効率は遥かに良いだろう。


 だが、しかし。

 だからといって、まさか建てると誰が思うのか。


「立派ねぇ……」


 見上げるほど大きな門の向こう側に見える青々と芝生が敷かれた前庭の、さらに奥。

 悠然と佇む洋館は、誰がどう見たところで、全員が等しく「豪邸だ」と表現するだろう外観をしている。


「さあさあ。こんなところで眺めていないで、是非とも中も見てください!」


 ずいずいと背中を押されるままに門をくぐり、洋館の扉の前で足を止める。


「こちらの本館の鍵は魔力認識になっています。五穀米の方々の魔力は既に登録してありますので、扉部分にある魔石に手をかざして少し魔力を流してもらえれば開きますよ」


「へえ。便利ですね」


 言われたとおりに魔石に魔力を流すと、一瞬だけ小さな魔法陣が浮かび上がり、ガチャリと音を立てて鍵が開く。

 扉を押し開けて中に入った先は玄関ホールで、両脇には下足箱だろう棚が設置されていた。


「あ、土足じゃあないんですね」


「ええまあ。ボクたちからすると室内も土足で動き回るのが普通ですけど、五穀米の皆さんは日本の文化に親しんでいるようですからね。室内ではスリッパに履き替える方式を採用してみました」


「なるほど。さすが、良くお分かりで」


 自慢げに胸を張るエルマーにパチパチと軽く拍手を送るというおふざけを挟んでから、エルマーの案内で洋館内を順番に確認していく。


 洋館は、一階にちょっとしたパーティーなら問題なく開けそうなホールとサンルーム、食堂、台所、配膳室と地下室へ下りる階段があり、玄関を入った正面には二階へと続く階段がある。

 二階にはメンバーの私室兼寝室が人数分の五部屋と、男女別に風呂場が一つずつ。廊下からはバルコニーへと出られるようになっていた。

 ちなみにこのバルコニーは特殊な仕掛けがしてあるそうで、大嵐の中でも雨に濡れることも風に打たれることも防いでくれるらしい。

 屋上にも同様の仕掛けがされており、洗濯物などを干す際に使う物干し場として整備されていた。


「あとこれだけの規模ですから使用人を雇うことを考慮して、使用人用の長屋が別建てで用意してあります」


「おおう……。マジですか」


 使用人を雇うだなんて何処の貴族だと思ってしまうが、確かにギルドメンバー五人だけでこの洋館を維持するのは無理というものだ。

 これに関しては近いうちにギルド会議で相談しないといけないだろう。


「それから皆さんがそれぞれご依頼されました付属施設については、こちらの冊子にまとめてあります」


 さっと手渡された妙に手作り感溢れる冊子を開いて、出会い頭に返却された依頼書と見比べながらパラパラと中身を確認する。


「如何ですか? ご依頼された付属施設は全て用意してある筈ですが」


「……はい、確かに。その……むちゃくちゃ言ってすいませんでした……」


 五人集まって騒ぎながら書いた希望書だから、本気で全員が好き勝手なことを書き込んでいて、改めてアヒム様に申し訳ないことをしたんだな、と痛感する。


 て言うか誰だ。露天風呂とかサウナとか屋内プールとかダンススタジオとか書いた馬鹿は。絶対これ、ラルフかジークリンデだろ。

 いくら何でも悪乗りし過ぎたぞ学生組。


「いえいえ。普段とはだいぶ違う仕事でしたから、アヒム様も楽しんでおられましたよ」


 お気になさらず。と言って安心させるように笑ってくれてエルマーだったが、たぶんアヒム様はそんな生ぬるいことは考えてない。


 何せ五穀米メンバーに指名依頼を出そうとするとかなりの高額報酬を用意する必要があるのだ。

 今回のことを『貸し一つ』としてカウントして、後々になって報酬の値引きを狙ってくるに違いない。

 しかも此方側にむちゃくちゃ言った自覚があるので、多少の無理も聞かねばならなくなるだろう。


「ははは……。ありがとうございます」


 この先まず間違いなくあるだろうタダ働き同然の依頼を思って乾いた笑いをこぼながら、学生組にキツい説教をしなければと、強く強く決意したのだった。

追記

洋館のトイレですが、魔人族には必要ないので目立つところにはありません。

が、一応地下室にはあります。


使用人長家とゲストハウス(文章中には記載されていませんが)の方については、他種族のことも考えて普通に設置されている、という設定です。

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