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第二話 五穀米

作品の傾向上、この話から頻繁に実在する地名が多く出てきます。

あくまでフィクションですので、ご理解の上、ご覧ください。

 ギルド五穀米は『second life』のトップギルドでありながら、構成メンバーが五人という少人数故にギルドホームを用意することをしていなかった。

 しかし『third life』が始まった現在。私に合わせて関東の神奈川県にある冒険者ギルド横浜支部にて冒険者登録をし直した関係で、実家があちこちに散らばっていたメンバーをこちらに集める必要が出来た。


 冒険者ギルドでは依頼を受けることも出来るし、勝手に討伐してきたモンスターのドロップ品を買い取ることもしてくれる。

 なので出来るだけ支部に近い位置にギルドホームを構えた方が便利なのだが、横浜近辺は支部が出来た関係で地価が上がり、賃貸でも結構な値段になってしまった。


 正直なところ鍛冶スキルを持つ私としては必要施設の工房はギルドホームに設置したいので、賃貸ではなく購入したい。

 となれば更に値段は跳ね上がる。


「そういうわけで、県内のどこにホームを買うか決めたいと思います」


 日曜日。

 横浜支部の近くにあるファミレスに集まった五穀米のメンバーに向けて本日の議題を発表する。


「あー。まあ確かにホームはあった方が良いよなあ」


「そうですねえ。さすがにゲームの頃みたいにずっと宿屋ってわけにもいきませんし」


 私の言葉に真っ先に反応したのは、緑の長髪をポニーテールにして灰色の軍服を着たラルフ。

 五穀米のサブリーダーを務める男で、鎌スキルの持ち主である。

 戦闘では大小様々な鎌を扱うが、特に大鎌を使ってザコを一掃するのが好みのスタイルらしく、性格はやや面倒くさいことを避けるところがあるが、何だかんだで責任感はしっかりある。


 そんなラルフに続いて発言したのが淡い水色の短髪で濃紺のスーツを身に着けたジークリンデで、彼女は穏やかな見た目に似合わぬ鞭スキルの使い手だ。

 優しく微笑みながら長い一本鞭を操る彼女の姿は、ゲーム時代から一部の趣味をもつプレイヤー達に絶大な人気を有しており、ファンクラブまである有様だ。ちなみにファンクラブ名は『ジークリンデ様に踏まれ隊』だそうだ。


「三人はいいじゃん。一応、関東在住なんだし。私なんか実家仙台だからね? めっちゃ遠いからね?」


 むすっとした顔でドリンクバーで取って来たメロンソーダをストローで吸い上げているのは、猫目でやや勝気そうな顔立ちで、ボリュームのある金髪をツインテールにしているエルナだ。

 ギルドメンバーの中で一番小柄な彼女は、その体格に似合わぬ斧スキルでギルドの火力要員を務めている。

 一応メンバーの中では私に続いて年長者な筈なのだが、容姿の為に必然的に子ども扱いされることが多く、よくアバター作成を失敗したと嘆いていたりする。


「ははは。それを言ったら俺も結構遠いぞ? 何せ京都出身だからな。本当、大学受験に失敗して良かったと思う日がくるとは思わなかったよ」


 学生組は大変だろう? と、現在も変わらず高校に通っているラルフとジークリンデに笑いかけるのが、真っ白な短髪と真っ赤な瞳、そして華やかな和装姿のリーンハルトで、彼はいわゆるパラディン的なポジションにある扇スキルの使い手である。

 扇スキルの中にはスキルの発動条件に舞いが必要なものがあり、戦場で扇を手にひらりひらりと舞う姿はかなり美しい。

 美しいが、主な攻撃手段が扇でぶん殴ることなので、結構な脳筋であるのも確かだったりする。


「しかしどうせホームを買うなら部屋数や広さなんかで妥協はしない方がいいだろうな。――あ、ドリンクバー行ってくるがお前たち何か持ってくるか?」


 飲み切ったグラスを手に立ち上がったリーンハルトの申し出に四人全員がお代わりを要求し、一人じゃ持てないから手伝えとラルフがずるずる引っ張られていくのを見送る。

 特に抵抗されていないとはいえ、身長が百八十センチはある上に筋肉もついてガタイの良いラルフを苦も無く引きずっていくあたり、相も変わらず細身の外見に似合わぬ腕力の持ち主だ。

 だが、それを言ってしまうと魔人族全員に当てはまることなので口には出さない。


 横浜支部に冒険者登録をしに行った日、会話の流れでものは試しとチャレンジしてみて、苦も無く軽自動車を持ち上げてしまい、全員で落ち込んだのは記憶に新しい事件である。


「ギルドに近い方が何だかんだ便利ですけど、いっそのこと距離に関しては無視してしまうのもありかもしれませんね」


「あ! もしかして転移陣を設置する気? 確かにあれがあるとラクだよね」


「転移陣か……。だとしたら、アヒム様に頼むのが一番かなあ」


 頬に手を当てながらのジークリンデの言葉に、エルナがパチンと指を鳴らす。


 転移陣とは文字通り『転移用の魔法陣』のことで、陣の上に乗って少量の魔力を陣に流すことで発動する。

 とてつもなく便利なのだが、当然ながらかなり高度な魔法技術が必要な上に、設置のための手続きが非常に複雑かつ面倒くさい。


 しかしながら魔人族唯一の現役冒険者である五穀米は、ゲーム中のイベントやクエストの関係で魔人国の王族や大貴族達と面識がある。

 というか、かなり友好的な関係を築いていると言って良い。


 アヒム様はそんな友好的なお方の一人で、王宮の事務副官をしている男性だ。

 副官とは言ったが彼の上司に当たる事務長官殿は現在、地球側の各国との折衝で手一杯になっている筈なので、それ以外の業務は一時的にアヒム様に任されている。


 私達に友好的で、かつ現在事実上の事務官トップであるアヒム様にお願いすれば、まず間違いなく転移陣設置の手続きは最短で終わるだろう。


「うーん。じゃあ、距離の方は転移陣を設置するとして。あ、二人ともお帰り」


「おう、ただいま。話は進んだか?」


「距離は無視して転移陣を置いちゃおうって感じになった。手続きはアヒム様にお願いする予定」


 ドリンクバーから帰還した男二人を軽く手をあげて迎える。

 そんな私にアイスティーのお替りを差し出しながら質問してきたので答えてやると、ラルフはそのポニーテールを揺らして首を傾げた。


「ん? だったらホームの選定もアヒム様に任せた方が良いんじゃないか?」


「転移陣の設置条件とかいろいろあるだろうしな。俺たちの希望をまとめて、あとは丸投げで良いと思うぞ」


 ほら。と器用にドリンクバーから持ってきたホットカフェオレのカップとメロンソーダをジークリンデとエルナの前に置き、自分用のジンジャーエールを手に席に座ったリーンハルトが、ディスプレイをポップさせてアイテムボックスからA4サイズのコピー用紙とボールペンを取り出す。


 ちなみにこのコピー用紙やボールペンのような『second life』には存在しなかった一部のものは、その使いやすさから各種族国でも大いに重宝されていて、日本をはじめとした地球側の大事な輸出品となっていたりする。


「とりあえず必要なのはメンバーの個室とリビング。あと、キッチン、風呂、トイレに、アデル用の工房も必要だよな?」


 サラサラとコピー用紙に書き綴っていくリーンハルトに確認され、頷く。

 そもそも、その工房が欲しいがために、ただでさえ高いホーム購入費が跳ね上がりそうで困ったから、五穀米のメンバーを招集したのだ。

 工房がないのでは本末転倒である。


「最低限はこれで良いとして、あと他に希望はあるか? 伝えるだけ伝えとけば、アヒム様も考慮してくれるかもしれないしな」


 とん。とペン先でコピー用紙を軽く突いたリーンハルトの一言に「それもそうだ」と納得した一同は、思いつくままに「あったらいいな」という希望を書き込みまくったのだった。


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