第一話 サードライフ
勢いで書きあがったのでupします。
こちらの作品は一人称がメインで進めていく予定です。
湿った風が頬を撫でる。
視界に映った赤いカーソルは、索敵スキルによって察知したアクティブモンスターがいる証拠だ。
つい。と視線をそちらに向ければ、ドリル状の嘴を持った鳥の姿をしたニードルホークが、高所からこちら目がけて一直線に急降下してきていた。
「奇襲のつもりかな? 残念でしたっと」
向かってくるモンスターを前に、ゆるりと口角を引き上げる。
ニードルホークは素早い動きと、頭上という死角からの急降下奇襲攻撃が厄介なモンスターで、初級冒険者にとっては脅威となる存在だ。
一応、小型である為にあまりHPは多くないため、中級冒険者になると危なげなく狩ることが出来るのだが、先に述べたとおり、このモンスターは機動力がとても高い。
近接武器は勿論、弓系統の武器では狙うのが難しいので、必然的に魔法で撃ち落とすのが、ニードルホークを討伐する際のセオリーとなっている。
なっているのだが、しかし――。
「魔人族を侮るな。……なんてねっ」
全部で七つの種族が存在する『この世界』で、魔人族は圧倒的に数が少なく、そして圧倒的ステータスを誇るチート種族だ。
僅か五人しかいない魔人族の冒険者は、それぞれが特殊武器スキルを扱う。
その内の一人であるアデルこと私が使用するのが、銃スキルだ。
太腿につけたホルスターから引き抜いたリボルバーを構え、狙いを定める。
――バンッ。
絞るように引き金を引くと同時に、辺りに響き渡る銃声。
各種補正効果によってぶれることなく、銃口から発射された通常弾は吸い込まれるようにニードルホークへと命中した。
「キィィィィィッ!」
最期に一回、高い鳴き声を上げたニードルホークは、空中で力を失い、光の粒となって消滅した。それにやや遅れて、ピコンと電子音を立てて目の前に半透明のディスプレイがポップアップする。
表示されたのは、今しがたの戦闘で獲得した経験値とドロップアイテムだ。
「えーと、羽と肉と……。あ! 嘴がドロップしてる! ラッキー!」
ニードルホークの肉は食用に、羽は矢羽に適しているため需要が高い。
嘴もまた、鏃に使うと貫通力が上がるので前述した二つと同じく需要は高いのだが、いかんせんドロップ率が低いため、供給が追い付いていないのが現状だ。
私は弓系統のスキルを持っていないのだが、ニードルホークの嘴は貫通弾を作成する際の材料であるため、かなり嬉しいドロップ品である。
「レア素材もドロップしたし、今日はもう帰ろうかな」
ディスプレイを閉じ、アクティブモンスターがいないかどうか索敵スキルで周囲を確認してから、リボルバーを太腿のホルスターへとしまう。
今日の目的は薬草類の採取で、必要数の薬草は既に集め終わっている。
せっかくフィールドに出たのだからと視界に入ったモンスターを狩っていたが、そろそろ昼時ということもあるし、引き上げても良い頃だろう。
歩いて帰っても良いのだが、それをするとせっかくのランチタイムを逃す可能性がある。
それはもったいないので、アイテムボックスから取り出した移動用アイテムの魔導蒸気二輪にまたがって、エンジンをふかす。
「ま。魔人族は別に飲まず食わずでも死なないんだけどね」
それでも自分が『人間』だった数か月前までの習慣はなかなか抜けないものであるし、下手に『人間』を忘れる必要も無いだろう。
だからこそ、私はもちろんのこと、他の四人の『元人間』である魔人族の冒険者たちもまた、私と同じように毎食キチンと食事をとっていると聞く。
日本発祥の世界的人気VRMMORPG『second life-セカンドライフ-』の世界と、現実世界が混ざった『運命の日』より、人間しか存在していなかった世界は様々な種族が混在する坩堝と化した。
かつて物作り日本の圧倒的かつ変態的な技術と執念によって開発運営された『second life』に魅せられた世界中の約一億人にも上るプレイヤーは、『運命の日』を境に種族や容姿、年齢に至るまで全てがゲーム上で操作していたアバターとなり、各種スキルの使用も思いのまま。
されど、それを単純に喜ぶことは出来なかった。
アバターが人族だったプレイヤーはまだ良い。
問題はそれ以外のいわゆる亜人種だったプレイヤーで、彼らは突如出現した耳やら尻尾やら鱗やらに、それはもう驚いた。
その驚きは凄まじく、パニックから取り返しのつかない事態になってしまった者までもが大勢いたほどだ。
他にも寿命の問題というものがあり、元はアバターだとはいえ、既にその体が本物になっている以上は加齢もするし死にもする。
しかし中にはいわゆる長命種と呼ばれる種族もあるのだから、十数年後、己の種族に耐えきれないプレイヤーが出てくるだろうことは想像に難くない。
問題は他にもある。
二つの世界が『融合』したことにより、モンスターまでもが出現するようになってしまったことだ。
しかもそれだけには飽き足らず、王道ファンタジー的な世界観に相応しくない電子機器や近代兵器が、全て動かなくなってしまった。
不幸中の幸いだったのは、魔人族の種族国がゲーム中でかなり特殊な文化を築いていたことだ。
ファンタジー世界の中での特別感を出すための演出だったのか、魔人国の世界観は何故かスチームパンクだったのだ。
わかりやすい例で言うと、先ほど私がアイテムボックスから取り出した魔導蒸気二輪が魔人国製である。
この現実に、各国は大急ぎで魔人国から技師を派遣してもらい、最低限の各種インフラを整えることには成功した。
そうして、数か月にわたる混乱がようやく収まって来た一週間前。
世界に先駆け、日本の四十七都道府県の県庁に冒険者ギルドが併設されることが決定した。
正直この発表をニュースで見た時は政府も思い切ったものだと思ったが、自衛隊や警察の武器が銃である以上、魔人族用の特殊スキルである銃スキルを持たない彼らがモンスターに対応出来る筈がない。
だからこそ、冒険者の力を借りるしか方法は無かったのだろう。
冒険者ギルドには多くの元プレイヤーが集まり、また彼ら以外にも新たに冒険者となるべくギルドに登録し講習会に参加する元一般人も多くいた。
自衛隊や警察に至っては実戦に耐えうるためのレベリングが急務となったらしく、組織内に存在した元プレイヤー勢によるパワーレベリングが行われているらしい。
そんな中、私が『なった』種族は魔人族。
初期サーバー組の中からランダムで選ばれた僅か五人だけのレア種族である魔人族は、その人数から察せられる通りのチート種族だ。
魔人族は一般種族と違い五つの専用武器スキルが用意されており、ここから更にランダムで武器スキルが決定する。
そうして決定した私の武器スキルが、今までも何回か説明した通りの銃スキル。
ゲーム中で最も射程が長く、最も連射がきき、最も威力がある飛び道具だ。
魔人族はその高い能力値と特殊武器スキルの性能から、本来なら『始まりの街』からスタートするはずのゲームが魔人国からスタートする。
となれば必然的に他の四人と顔を合わせる機会も多くなり、一か月もしないうちに魔人族プレイヤー五人はリアル年齢が最年長であった私をリーダーとするギルドを発足することになった。
ギルド名が『五穀米』というふざけた名前なのは、深夜のテンションというやつだ。
メンバー全員、反省もしているし後悔もしている。
まあ、名前はどうあれ、チート種族の魔人族が五人全員集まっていれば、話題になるし注目も集める。
始めこそ掲示板やらなにやらで叩かれもしたが、積極的に他のギルドと交流を図っていくうちに、そんなやっかみも消えていった。
あの『運命の日』より『third life-サードライフ-』と呼ばれるようになった、かつての現実と『second life』の世界が混ざった現在の世界。
会社を辞め、五穀米のメンバーと新たに冒険者ギルドへと冒険者登録をしたのが五日前。
まだ本格的に活動を開始しているわけでは無いが、これからどんな日常が待っているのか。
不安もあるが、悩んだところで世界は元には戻らない。
ならば――。
「楽しまなきゃ、損だよね」
魔導蒸気二輪を運転しつつ、私は目を細めて、そうひとりごちたのだった。




