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第十一話 付属施設・工房

 私が所持している鍛冶スキルを使用するためには、必ず工房という施設が必要になる。

 だからこそギルドホームについて検討中の段階から、絶対に工房だけは用意しようと決めていた。


「だからって、此処まで立派なものを用意するつもりは無かったんだけどね」


 五穀米を代表して私が依頼し、アヒム様が用意してくれたギルドホーム。そこに併設されていた工房の中で、誰にいうでも無くため息をはく。


 普通、工房というのは金属装備を作成するための炉の他に、革装備と布装備を作成するための作業台があるだけのこじんまりした場所なのだ。

 それが、炉の他にも金属装備の作成用に設計図を書き込む為の製図板があり、武器は武器用の、そして防具は部位別に作業台が用意され、それぞれの作業台の近くには各種素材を保管しておくための固定式アイテムボックスが用意されていた。


「せっかく用意してくれたんだし、使わないと悪いよね……」


 デデンと鎮座している固定式アイテムボックスを眺めながら暫し考え、一つ頷いてから自前のアイテムボックスを呼び出し、素材アイテムを次々に固定式アイテムボックスへと移していく。


 実のところ、かつてのゲーム時代から変わらずアイテムボックスには容量上限というものが存在する。

 1マスに同一アイテムが99個。それが、10×10の100マスで1ページ。

 ゲーム開始時点では、このアイテムページが5ページある。


 こう聞くとなかなかの大きさがあるように感じるが、オンラインゲームという性質上どんどん増えていくアイテム数に比べると、どうしても容量が足りなくなってくる。


 ではどうするか。

 答えは簡単。課金によるアイテムページの増加措置である。


 それなりに金銭的余裕のあった私もまた、重度では無いものの課金には手を出しており、最終的に増加可能な最大数である100ページまで容量を増やしている。


 それでも尚、それなりの数を所持しているユニークアイテムにマスを占拠されているせいで、容量はギリギリだったりするのだ。

 だから、素材アイテムを工房に置いておくことが出来るのは実にありがたい。


 さすがに手持ちの素材アイテム全てを移してしまうのは心許ないので一定数は残すつもりだが、それでも結構な数のマスが空いたのは嬉しいものである。


「固定式の方はまだ余裕があるし、暫くは素材厚め中心にしても良いかもね」


 ポップアップさせていた固定式アイテムボックスのウィンドウを閉じてから、ふと自分の足元へと視線を向ける。


 私の足装備は以前ダンジョンでドロップしたライトメタル製の物で、そのままだと無駄に光って悪目立ちするので鍛冶スキルの応用で表面にダークブラウンの塗装を施している。


 しかし、いくら目立たないように加工したところで、基本となっているのは金属。

 歩くたびにカツンカツンと音が鳴るのは、さすがに少し気になっていたのだ。


 自分専用の工房を手に入れたことだし、良い機会だから足装備を新調してみるのも悪くない。


「そうと決まれば、早速やってみるとしますか」


 作業しやすいように上着を縫いでアイテムボックスに放り込んでから、鍛冶スキルを起動し、防具系レシピの中から足装備のレシピをいくつか選んで見比べる。


「日常生活で使えて戦闘にも耐えうる物となると、ベタなのはブーツなんだけど……」


 今はまだ肌寒いのでブーツでも何ら違和感は無いだろうが、季節的にこれから徐々に暖かくなってくると、いつまでもブーツというわけにはいかない。


 もちろん冒険者の防具としては年中ブーツだろうが変では無いのだが、『third life』が始まっている現在は一般人も大勢いるのだ。

 そういった人達からの視線を考えると、やはりブーツを選ぶのは少々気が引ける。


 幸い私のステイタスは軒並み高いので、装備の防御力が下がっても大した問題にはならないし、どうしても必要な時は防御力の高い装備に履き替えれば良いだけだ。


「となれば、やっぱりパンプス系かな?」


 見比べていたレシピの中から該当するレシピ以外を弾くと、残ったのはヒールがあるタイプと無いタイプの二種類。

 ヒールの種類は作成過程で自由に変更出来るので、まずはヒールの有無について決める必要がある。


 ちなみに、材料とする素材によって動き補正などの効果が生まれるので、ヒールが高く細い物でも問題なく動くことは出来る。だからどちらのレシピを使うかは、もう私自身の好みの問題だ。


「どうせ作るならヒールにしようかな」


 以前はヒールを履くとどうしても靴擦れを起こしてしまうので滅多に手にすることは無かったが、補正効果をつけられる今なら思う存分、ヒールの高い靴を履けるだろう。


「さて、レシピも決まったことだし、後はいくつか作ってみるとしましょうか」


 複数の素材を足装備用の作業台に広げ、それぞれの特徴や効果を考えながら、それらが相殺することが無いように注意しつつ組み合わせを考えていく。


 この行程は鍛冶スキルが上がるごとに『完成予想図』として表示される内容が増えていくので、マスターランクまで上げている私にはそれほど難しい作業では無いし、作成自体もスキルのガイドがあるので、ワンタッチとはいかないが、それなりに簡単に作ることが出来る。

 その証拠に、数時間後には見事に三足のパンプスが完成した。


「あー。さすがに三足ぶっ続けで作るのは疲れるな……」


 まあ、誰に強要されたわけでもないので疲れたのは調子に乗って休憩も入れずに作成を続けた私の自業自得なのだが。


「しかし、工房の質が良いとアイテムの作成にプラス補正があるんじゃないかって話は職人プレイヤーの間で噂になってたけど、どうも本当みたいだね」


 きちんと並べた三足のパンプスを前に、腕を組んで天井を見上げる。


 鍛冶スキルによって出来上がったのは、黒のシンプルなパンプスと、ピンクベージュのストラップパンプス、そしてラベンダーカラーのピンヒールパンプスで、全てに付いた効果は移動速度とHP量の大幅な上昇。

 それ以外にも、黒いパンプスは防御力、ピンクベージュのパンプスは攻撃力、ラベンダーカラーのパンプスはMP量が大きく上昇するという補正効果が付いた。


 当然ながらこれだけの補正効果を持つ装備が低ランクであるはずが無く、レアリティは生産系スキルで作成可能な範囲の最高位である『八』となった。

 通常ならばこのレベルの装備が出来るのは数百回に一回の確率だと言われている。


 だと言うにも関わらず連続での作成に成功したのは、おそらくは工房自体の隠しパラメーターが高いからだろう。

 さすがは魔導技術の最先端を走る魔人国が用意しただけはあると言ったところだろうか。


「ま、ありがたいから良いけどね」


 今後されるであろう無茶振りに関しては、ギルドホームを見た時点でとっくに覚悟が出来てしまっているので、今更慌てることもない。


 そんな訳で予想以上の施設に驚きつつも、便利なことは良いことだと笑いながら、私は工房を後にした。

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