第十話 付属施設・温室
学生組の保護者訪問というイベントを乗り越え、無事にラルフとジークリンデがホームへと引っ越してきてから一週間。
各自が殺風景だった自室に好みの家具を入れ、広いホームに慣れてきた今日この頃。
五穀米は四月最初の土曜日に、ホームの食堂にてギルド会議を開いていた。
「……それじゃ、取りあえずは毎月最初の土曜日には一か月の報告会を兼ねてギルド会議をするってことで良いね?」
「会議というか、集まって喋っているだけな気もしますけどね」
エルナお手製のシフォンケーキを食べながらの話し合いで決まったことを確認すると、ジークリンデがクスクスと笑いながらツッコミを入れてくる。
確かに会議というかただのお茶会状態だが、別に良いじゃないか。どうせそんな重い話題も無いんだから。
「あと決めとくことって言うと何だろう? あ、生活費ってどういう分担になるの?」
「ああ、そう言えばそれも決めないとね」
「と言っても、このホームは魔力充填式だろう? ギルド会議の日に全員で魔力を補充すれば問題はないと思うんだが」
エルナの疑問に同意すると、リーンハルトが机の上に投げ出されていたホームについての説明が書かれた冊子を手に取りながら発言する。
確かにこのホームは上下水道だけでなく、光熱費などの全てが地下の一室にある魔石に込められた魔力によって賄われている。
ちなみに、いくら『third life』が始まったとはいえ、こんな仕様の家が日本にそうそうあるわけもなく、魔人国によって用意された豪邸だからこその仕組みである。
「ま、それはそうなんだけどさ。何だかんだ言っても共同生活をするわけだし、ギルドの資金っていうのも用意した方が良いかもなって。ほら、一応このホームにも金庫室なんてものがあるわけだし」
正確に言うと、金庫室というか金庫館だろうか。
本館とは別に建てられたそこは、簡単に言うと巨大なATMのような造りになっていて、ポップアップウィンドウを操作することで入金も出金も出来るという代物だ。
もちろん窃盗などされないように、本館の玄関と同じくこの金庫館の扉も魔力認証式になっていたりする。
「そんじゃ、毎月決まった金額をギルド会議の時に集金して、アデルが金庫館に突っ込んどけば良いんじゃないか?」
「待って。何をサラッと会計係を押し付けようとしてるの君は」
投げやりにもほどがあるラルフの言葉に思わず口調が強くなるが、当のラルフはどこ吹く風で「だってリーダーはアデルだろ」と言い切った。
いや確かに五穀米のリーダーは私だけど、それを言うならラルフはサブリーダーだ。
いい加減に君も何かしら仕事しようよ。
「でも私やラルフはまだ学生で、ギルド資金の管理は荷が重いのも事実ですよ」
「そりゃ、そうだけどさあ……」
「アデル。お前の言いたいこともわかるが諦めろ。どうせそれぞれ結構な稼ぎがあるんだから、ギルド資金をどう使おうが気にしないだろ」
「うぐっ」
困ったように言うジークリンデに同意しつつもグダグダ言っていると、リーンハルトによってバッサリとぶった切られてしまった。
何だこれ。味方がいないんだけど。
「わかったよ。わかりました! やれば良いんでしょ! もう!」
若干ながら投げやりになりつつ承諾する。
実際、大した労力ではないし、構わないと言えば構わないのだが、何だか釈然としないものがある。
いや、もう良いんだけどさ。
溜息を吐いて、せめて入金額くらいはそっちで決めてくれと丸投げした結果、年長者組は毎月20万G、学生組が毎月5万Gの入金ということになったらしい。
何を基準にして決めたのかはテーブルに突っ伏してふて寝していた私にわからないが、話し合いが終わったと起こされたのは、昼少し前のことだった。
そのまま各自外で昼食をとるという他の四人からギルド資金を預かり、自分の分も追加した合計70万Gを金庫館に入金した私は、簡単な昼食のあとで、自分が欲しがった付属施設の確認をしておこうと、まずは温室へとやって来ていた。
「えーと、確かマニュアルは……と。あったあった」
巨大な温室の魔力認証式の入り口から中に入り、マニュアル片手に温室内を歩き回る。
温室内はいくつかのブロックに分かれており、ブロックごとに育てる植物を設定しておけば、水やりなどの世話が自動でされる優れものだ。
ちなみに、採取するタイミングがズレても枯れるなどの問題がないように、一定まで育ったら時間停止魔法が発動するらしい。
実に便利なものである。
「育てるものは、と……」
制御用のポップアップウィンドウを操作して、栽培植物の設定をしていく。
育てるのは、調合スキルで使用する各種の薬草や毒草の数々だ。
これらの素材アイテムは元々がゲーム内での植物なので、名称もいかにもわかりやすいものばかりだったりする。
例えをあげると、薬草はそのまま『薬草』だし、毒草は『毒草』の他に、効能別に『痺れ草』『眠り草』という物もある。
まあ、高位のポーションなどを調合する場合に必要な希少薬草などは、一応それっぽい名前が付いてはいるのだけれど。
余談だが、状態異常回復薬の調合に必要な希少薬草の『シブキ草』と呼ばれる花は見た目が完全にドクダミな上に、シブキと言うのもドクダミの古い名称なのだが、当然ながら本来のドクダミにはそんな凄まじい効能はない。
このシブキ草とドクダミの見た目が似ているという事実の証明として、よく話題になる話がある。
帝国から日本に来た使者の一行が、道端に生息していたドクダミの若芽を見て「この国にはシブキ草が大量に自生しているのか!」と盛り上がり、随行していた日本人冒険者に慌てて訂正されてガックリ落ち込んだという少し笑える一件だ。
シブキ草は希少薬草というだけあり、自生するのは基本的に危険地域だし、栽培も非常に難しく、単価も高い。
なので上手いこと独占的な取引権を手に入れられれば、帝国の大きな財源になると考えたのだろうが、物事なんてそうそう上手くはいかないものである。
「よし。これで温室は良いとして、次は工房かな」
植物系のアイテムを採取するときに同時に手に入るために大量にストックしてあった種を蒔き、満足げに頷く。
私がギルドホームの希望書に書き込んだのは、調合スキルで使用する植物系素材アイテムを栽培するための温室と、鍛冶スキルを使用するさいに必要となる工房の二つ。
せっかく頼んだ以上は活用しないと勿体ないので、私は一度はしまったマニュアルを再び取り出して、すぐ近くにある工房へと足を向けたのだった。




