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第九話 お宅訪問

一部手直しをしました。

 週末の土曜日である今日は、五穀米の学生組が保護者同伴でギルドホームを訪ねてくる予定日である。

 昨日の内に魔導通信機で最終連絡をとったところ、ラルフは母親、ジークリンデは父親と母親の両方が来ることになっていた。


「そろそろ、かな?」


 鎌倉駅の改札前で、アイテムボックスから出した懐中時計と時刻表を見比べながらひとりごちる。

 一応これでもギルドリーダーという立場にあるので初対面の年上を待たせるわけにもいかず、私がこの駅前の待ち合わせ場所についたのは約束の三十分は前になる。


 おかげで結構な時間を待たされているわけだが、その辺は仕方ないことなので気にしない。


「あ、来た」


 懐中時計をアイテムボックスにしまってから少し。駅に電車が到着したのか、改札からゾロゾロと人が溢れてくる。

 その中にギルドメンバー二人の反応が索敵スキルによってマップ上に表示され、ようやく待ち人がやってきたことを確信した。


「よ! 久しぶりだな」


「といっても二週間もたってないませんけれど。お待たせしました」


 ヒラヒラと手を振るラルフと微笑みながら会釈するジークリンデは、それぞれ冒険者として活動するさいの装備とは違う、いわゆる私服に身を包んでいた。


 かく言う私も、今日はブラウスとロングスカートという私服スタイルだし、ホームで待っているエルナとリーンハルトも同じく私服である。


 冒険者という存在になれているならともかく、一般人である学生組の保護者方には私達の普段の服装はかなり違和感がある筈なので、TPOに合わせた服装をチョイスしたとも言える。


「いや、予定より早いよ。私が早く来すぎただけだし。それから……」


 言葉を切って、二人の後ろに立っていた三人の男女に向き直る。


「お初にお目にかかります。私がギルド五穀米のリーダー、アデルです。以前は高卒ではありますが正社員をしていました。現在は冒険者として活動しています。どうぞよろしく」


 名乗り、かつての地獄のような就職活動中に身につけたピシッとした礼を披露すると、緊張気味だった保護者方の表情が僅かにゆるむ。


「これはご丁寧に。私は足達透。こっちは妻の恭子です。娘がお世話になっているようで……。本日はお招き頂きありがとうございます」


「いいえ。年頃のお子さんをお持ちでしたら、突然のことで心配されるのも当然です」


 ジークリンデの父親を名乗った足達さんは、此方の受け答えに安堵したように笑みを浮かべる。


 事前に聞いてはいたが、足達さんは一般企業に勤める会社員らしい。

 つまり、彼から見ると私のような高ランク冒険者は『廃ゲーマー』にして『ニート』の疑惑があったのだろう。


 そういう人達は自分に合った仕事を見つけられていないだけだと思うので悪く言うつもりは一切ないが、足達さんのような『普通の社会人』からすると、大事な娘を預けるには躊躇してしまうのも頷ける。


 だから最初の自己紹介で『以前の職業』についても告げたのだが、どうやら正解だったらしい。

 名乗る前よりもだいぶ友好的な雰囲気になった足達さんの様子にホッとしつつ、今度はラルフの母親へと向き直る。


 彼女の方も話の切れ間を伺っていたようで、私が向き直ると同時に「三田明美です。今日はよろしくお願いします」とお辞儀され、同じようにお辞儀を返すという、実に日本人らしいやり取りを繰り広げることになってしまった。


「おーい。挨拶はその辺にしてさ、そろそろホームに行こうぜ」


「あ、うん。それじゃあ皆さん、此方へどうぞ」


 切り上げるタイミングを見失いかけたやり取りにストップをかけてくれたラルフに内心で感謝しつつ、前もって予約しておいた魔導タクシー二台に乗り込んでホームを目指す。


 暫くして辿りついたホームの前で魔導タクシーを降りる。

 代金に関しては後日、請求が来ることになっているので気にすることなく走り去って行く二台を見送ってから、チラリとお客人の様子を確認する。

 そして予想通りの反応に、思わず「ですよねー」と言いそうになるのを、苦笑を浮かべることで何とか耐えた。


「えーと……。驚くのは無理ないと思いますけど、取りあえず中に入りましょう」


 保護者方だけならず、ラルフとジークリンデまでもがホームを見上げてポカンとしているところを促して、総勢五人を引き連れてゾロゾロとホームの中、食堂へと移動する。


 食堂を利用するのは、ホールだと広すぎるし、サンルームも初対面の相手を招くのに使うのは違う気がするということで、年長者組で話し合って決めたことである。


「アデルおかえりー!」


「ラルフとジークリンデ、それにお客人もいらっしゃい。席は適当に好きな場所に座ってくれ」


 食堂で待ち受けていた残りの年長者組であるエルナとリーンハルトの二人が、未だに呆然としている五人を誘導してさっさと席に座らせる。


 その後すぐに配膳室へと消えていった二人は、それぞれ打ち合わせ通りに紅茶と茶菓子を持って戻って来た。


 エルナは自信満々にお菓子類をテーブルに並べ、リーンハルトも手早くティーカップを配っていく。

 リーンハルト自慢のティーセットは、白地に花の描かれた品の良いもので、成る程お客人に出すにはもってこいの品だ。……まあ、だからこそ日常では使いどころが無かったのだろうが。


「えーと。たぶんかなり驚かれたと思いますが、ホームがこんなことになった理由については説明させていただきますので、皆さんはお好きにお茶を飲みながら聞いてください」


 そう前置きして、私自身も紅茶を一口すすり、お客人方がカップに口を付けたのを見計らって説明を始める。


 最初はギルドホームがこんな豪邸になった理由。続いてホームの簡単な内装説明。そして話は、ギルドの活動方針へと移っていく。


「五穀米はギルド単位での依頼を受けることはほとんどありません。私達年長者は既に成人していますので頻繁に依頼を受ける予定ですが、お子さん方は各自の判断で依頼を受ける量を調整していただけます」


「では、五穀米の活動によって学業が疎かになるような事態は無いということでよろしいでしょうか?」


「絶対とは言い切れませんが、此方から強要することは無いかと。後は本人達の調整次第ということになりますね」


 ラルフの母親である三田さんの質問に答えれば、彼女は納得したように「ではアルバイトと同じようなものですね」と頷く。


 ぶっちゃけ五穀米のメンバーが受ける依頼となると、普通のアルバイトと違って命の危険も無いとは言い切れないので、その辺についても自己責任であることと合わせて説明する。


「別に心配しなくても俺達なら国家レベルの依頼でもない限りは命の危険は無いと思うぞ。心配すんなって」


「ラルフはまったく……。そうだとしても、せめて成人するまでは自重するべきですよ?」


 自分の母親の肩をパシパシ軽く叩きながら言うラルフに、ジークリンデが呆れたように釘を刺す。

 言われた方はバツが悪そうに頭をかいて、そんな二人のやり取りに食堂が控えめな笑いで包まれる。


 結局、その後も話し合いは和やかに進み、いくつかの約束事を取り決めることで、無事に学生組のホームへの引っ越しは認められることになったのだった。

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