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出会い。



走り行く窓の外に映る景色は、東京とは違い、何年経っても田んぼと古い家が見えるばかり。煌々としたビル街とネオンが網の目のように繋がる都心とはまるで違った。電車の中の雑音も、嫌な圧迫感も、ここにはなかった。

やがて、早めに乗り合わせた高校生が、きゃぁきゃぁと騒ぐ声が聞こえ、それを腕組みをして鬱陶し気に正志は見ると、下を向いて壁にもたれた。


アナウンスの声が、車内に響いて、かたんがたんと車両が引っ張られる振動が、体を揺らした。

そうして、走り行く中、何駅も過ぎ、目が覚め、先ほどの高校生が下りた頃、顔を上げると、最終駅まで二つというところに、電車は進んでいた。


———寝てたのか。


うるさい高校生がいなくなったことで、周りを見渡すと、ふとあることに気付いて、正志は目を止めた。


「もっと右だって」


すぐ近くに、男子高校生二人組が乗り合わせ、座ったままうとうとと眠気と戦っている女子高生にちょっかいを出しているのが見えたのだ。彼女は、白杖を手にしたまま、下を向いて、ゆらゆらと揺られている。そうして、かくっと眠りそうになるその頭の髪の毛に、彼らはガムをひっつけようとしていた。


「ひひ…」


男子学生たちは手を放すと、ガムが彼女の頭に完全にひっつくよう確かめている。


「だっせ…」


そうして、くく、と笑っている。



だがーーー。


「お前ら何やってんだ!」


大声が響いて、正志だけでなく、周囲の乗客たちも声の主を見た。20歳過ぎくらいの、若い男だった。バッグを背中に背負っている。

どうやら大学生のようだ。


「やべ」


学生たちは、逃げていく。車両を2両目に後ろへと去っていった。

その声で目を覚ました彼女は、焦点の合わない目で、彼を見上げた。きょとんとして、状況が理解できていない顔だ。


正志はようやく気付いた。


―――視覚障害者。


「大丈夫ですか?」


彼は、そう尋ねると、彼女の頭にひっついたガムを引き取った。だが、彼女は男の顔を見ることはない。


彼女が視覚障害者であることは、彼もすぐに気づいたようだった。


口を濁した。

ややこしい相手を助けてしまった。そんな表情だ。


そうして、その場は不穏な空気になった。彼は「あー…気にしないで」と言うと、とんとんと彼女の肩を叩いて、目の前の吊革につかまった。


キー


電車が徐々に減速し、正志は膝に乗せたバッグを抱えなおした。


プシュー


やがて電車が止まって、ドアが開いた。

最終駅の鳥取駅。

そこは一般的な駅と同じ、賑やかなホームだった。

搭乗した駅と違って、ここは幾分か町らしい。


ホームの点字ブロックの上の上を歩き始めた時だった。



―――助けて…。



聞こえてきた男の子の声が、正志の足を止めた。


思わず立ち止まった。


それは、3年前のーーーあの忌々しい記憶の声だった。



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