再会。
高校時代、とても親しかった友人の健吾。彼の家族には家族ぐるみで仲良くしてもらい、彼女にはとても世話になったのを今になっても忘れてはいけない。彼女は健吾の母である。同じ東京の警察学校に入校し、同じ警察官になったが、5年前、健吾は殉職した。強盗を制するのに、誤って拳銃を奪われ、殺害された。健吾のミスは明らかだったため、あまり公にはされていない。通夜の席も簡素なものだったらしい。ちょうど、東南アジアからの国賓警護の最中で、正志は出席できなかった。
「健吾も正志君に会いたかっただろうなぁ…」
彼女はそう言うと、どこか悲し気に笑って見せた。
着いたのは、昔ながらの景色が並ぶ中、新築の家が建っていた。昔の景色と違っていることに、正志は瞬いた。
「あぁ…正志君は初めて見るかいな。新築したんだわ。もうボロだったから」
「そうなんですか」
ようやく理解すると、車の後部座席からバッグを出した。ドアを閉め、家に入った。
チーン。
家にお邪魔すると、正志は迷いなく仏壇に手を合わせた。眼を開けると、仏壇の机には健吾の写真が立ててあるのが目に入った。警察学校の制服を着ている。
「健吾はあんな最後だったけんど、警察が大好きだったけぇ、この写真が一番喜ぶだろうと思ってな」
手を合わせる正志の後ろで、母親の声がした。
「ありがとうな、正志君。あの子も…―――…喜んどるわ」
鼻をすする音がした。
「―――…正志君はこれからどげんするの?また東京に帰るん?」
正志は、テーブルの上に出された緑茶を口に運ぶと、いえ、と答えた。
「しばらくこちらにいます。もう自宅はありませんから、アパートでも借りる予定です」
「そげんかぁ…いろいろあって、大変だわなぁ。お互い…まぁ…」
彼女はそう言うと、お茶を飲んだ。
少しの間、静かになる。
警視庁に入った直後、父親の浮気が母親に知れ、両親は離婚した。昔気質な父の印象をひっくり返した、出来事。あれから、正志は警察官だった父が嫌いになり、長年、父と同じ刑事部を熱望していた意義を見失った。
刑事部の代わりに入ったのは、警備部警護課だった。
健吾の母親は、それを知ってから、よく自宅に喜んで迎えてくれるようになった。
――――…。
もう行くんかいな、と彼女は駅まで車で送ってくれた。
「気を付けてな」
「はい」
——————午後1時。
駅の駐車場で正志は彼女と別れると、駅構内に入った。
田舎の駅。お土産店どころか、切符発券機しか、この駅にはなかった。
硬貨を入れ切符を買うと、正志はホームで待ち、しばらくしてやってきた電車に乗り込んだ。
電車は二両編成。
乗客も少なく、この時間帯は通勤の人間は少ない。
やがて、列車は発車した。
——————―――――――――――――――――――…
―――ここは…変わらないな。