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<20> CHU☆2 フィルター。

目を覚ますと瞼は腫れぼったく重いものの、妙に頭がスッキリしていた。

恐らく、心のうちのモヤモヤをルーデンスに全部ぶちまけてしまったからだろう。

思い返してみれば恥ずかしいのだが、まぁ、気持ちが高ぶっていたので許して欲しい。

最終的には支離滅裂気味だったような気がしないでもないが、ルーデンスはそれでも話を聞いて頷いてくれた。

決して否定しようとはせず、頷き、ナナエの頑張りを認めてくれた。


──まるで母親のようである。


とか最後に言ったらとたんにルーデンスの顔が怖くなった。ちょっと地雷を踏んだみたいだ。

でも、人にああやって真っ直ぐに頑張ったねと声を掛けられたのは初めての事だったので、それはそれで嬉しかった。

まぁ、他人から見たら、全然たいしたことのない頑張りなんだろうけども。




頬に何となく違和感を感じて手鏡を覗く。


……パンパンです。


泣いたし、殴られたし、散々だった。

とても乙女の顔じゃない。

これではしばらく外出できないだろう。

というか、こんな顔じゃ誰にも会いたくない気分だ。


──コンコン。


「エリザベス様~起きてます?」


キーツの声だ。なんとタイミングが悪い。

誰にも会いたくないと思った瞬間に来るなど嫌がらせとしか思えない。


「起きてます。でも入らないで」

「……着替え中だった?」

「違うけど、今日は誰とも面会拒否させてもらいます」

「……陛下もいらっしゃいますけど?」

「だめ。ノーモア入室」

「家出の次は引き篭もりですか」


キーツとは違う声が扉の向こうから掛けられる。

ルーデンスだ。


「顔が腫れてるから嫌なの!乙女心をわかって、お母さん!」

「……ドア蹴破りますよ?」


ドアを一枚隔てての攻防戦である。

だが、乙女である以上、こんな腫れた顔は晒したくない。

それを理解するのが紳士ってものだろう。

しばらく押し問答を続けた後、ルーデンスの大仰なため息が聞こえた。

どうやら入るのは諦めてくれたらしい。


「聞きたいことがあるんです」

「……うん?」

「これからのことです」

「うん」

「もう、満足したでしょう?城に帰りましょう」


言い聞かせるようにルーデンスは静かに話す。

わかっている。ナナエが望んで家を出た。

その目的は、いつまでも際限が無い。

どれだけ時間をかけても、どうやっても、自分で自分の身を守れるようになるとは到底思えない。

結局のところ、誰かの庇護の下に居なければ身を守れないのだ。


「あなたが私の妻になれば、私が全力で守ります。それに、……そうなれば追っ手も来なくなるのではないのですか?」

「…………」


ルーデンスの言うことはわかる。

オラグーンに狙われている理由が、ナナエがセレンの妃だと思われているからだ。

仮に子どもを産んでしまった場合に王位継承権が生じてしまう。

だから殺したいのだ。

いくらそんな関係はないと主張しようが無意味なのだ。

しかも、王都を追われた後1ヵ月も王子と同居してましたしね!

ならば、一番手っ取り早い方法。

結婚だ。

それも、子どもが生まれても、間違っても王子との子だと騒がない相手との結婚。

下手に一般人と結婚すれば、一般人との間の子ですら王子との子だと騒がれる危険性があると考えるのが向こうの見方だろう。

まさに条件としてはルーデンスはピッタリではあるのだ。

むしろルーデンスとの間に出来た子をオラグーン王子との子だなどといえば醜聞甚だしいぐらいだ。

なにせ、ルーデンスはエーゼルの王なのだから。


「結婚しましょう」


ドア越しに問いかけられる言葉。

ここで承諾すれば、自分の身に危険が迫る可能性が低くなるし、周りに居る皆にも迷惑を掛け、危険に晒す可能性も減るだろう。

ナナエもルーデンスのことは嫌いではないし、……というか好き、な方ではあると思う。

特別に思ってないとは言えない。

でも、である。


「……しま、せん」


搾り出すようにして言った。

扉の向こうから再びわざとらしいため息が聞こえる。


「……やはり、トゥーゼリアが良いんですか?」


その言葉は酷く頼りなげで、いつもの強気なルーデンスからは考えられないほど弱かった。

確かに、トゥーヤの顔が浮かんだといえば浮かんだ。

トゥーヤの悲しい顔は見たくない。

自分でも最低だと思ってます。

でもね。


──二人とも好きなんですよ!


言えないけど。

つか、言ったら軽蔑されること間違いないし。

だから言えない。


「……ルディも好きだよ」

「も?」

「ち、ち、違う!ルディは好きだけどって」


思わず言ってしまった!!!

ああぁ……、ドアの向こうの温度が3度ぐらい下がった気がする。

でも、何とか、誤魔化せ……た?


「けど、なんです?」

「まだ決めれない」

「それは、結婚を決めれないのではなくて、トゥーゼリアか私か決めれないということですね」


……誤魔化せてなかった!!

確認するように紡がれるルーデンスの言葉に、冷や汗がダラリと流れる。


「いや、結婚を決めれない方でお願いします」


思わず超低姿勢で答える。

再びドアの向こうでため息が漏れ聞こえる。


「分かりました」


その言葉にナナエはホッと胸をなでおろした。

この事は、今はあまり追求されたくない案件なのだ。

デリケートな問題なのだから、時間を掛けて欲しいです。腐れ乙女としては。


「それではトゥーゼリアを愛人にすれば良いでしょう。私が許します」


……わかってない、全然わかってない。

そもそもどうしてそういう発想になる!


「いや……それは、ねぇ?アレでしょ。うん。お断りします……」

「わがままですね。これほど譲歩しているのに」


譲歩の方向性が間違っていると思います。


「と、とにかく!今は誰とも結婚しません!」


慌ててそう言えば、扉の外から舌打ちが聞こえた気がするけど、きっと気のせいだろう。

まさか王様ともあろう人が舌打ちなどするはずがない。気のせいに違いない。


「分かりました。取りあえず今日のところは私は城に戻らねばなりません。ゲイン以下6名を警備に置いていきます。それと、キーツに専属の護衛と身の回りの世話を任命しました。しばらくはこの村に居ても良いですが、5日後には迎えをよこします。今後の話もありますし、一度城に戻ってください」

「……はーいぃ」


ナナエが渋々了承すると、それで納得したのかルーデンスの足音が遠ざかるのが聞こえた。

きっと、ルーデンスはナナエの居場所を知って、政務を放り出して来てくれたのだろう。

だからすぐに戻らなくてはならないのだ。

そうやってルーデンスが駆けつけてくれたお陰で、ナナエも今こうして無事にここに居る。

結局のところ、また守られてしまった訳だ。


でも、以前とは違って少しだけ心が軽い。

それはきっと、今までと違って、ただ隠れて自分だけ守られて居たわけじゃなかったからだと思う。

少なくとも、子供たちを逃がせたことはナナエにとって小さな自信の一つに繋がっている。

どんな小さなことでも、やるのとやら無いのでは大違いだ。


ルーデンスの気配が完全に消えると、ややあってキーツが口を開いた。


「エリザベス様は飯、どうす……なさいます?」


一生懸命敬語に直そうとしているところが涙ぐましい。

昨日までは村で一番扱いが酷かったので、急に変えるのは難しいのだろう。


「いつも通りでいいよ。昨日まで見たいな話し方で」

「……うん。あー、なんかアンタ敬うの難しくて。ごめんな!」

「それ、爽やかに言うことと違います」

「あはは。んじゃ、飯どーする?陛下からお金貰ってるし、贅沢できるけど」

「……いつものでいい。青菜のソテーとおかゆ。あと半熟卵」

「りょーかい。……それとさ」

「うん?」

「うちのお嬢様のこと、ありがとう」

「ん~?何のこと?うちのお嬢様って、私のこと?」


わざとそう返すと、ドアの向こうでキーツは笑ったようだった。

指名手配になって逃げてきたとはいえ、結局ソミア公爵令嬢のことをキーツは心配していたのだろう。

ナナエの口添えもあってか、お咎めなしに近いありえないほどの好処遇になったことで、キーツはかなり嬉しかったらしい。

……未練タラタラですね、キーツくん。



それから。

ノーモア入室!

と言っているのにも拘らず、来客の嵐だった。

流石にドア越しの会話は失礼だからどうしようかとキーツに相談したら、「一番失礼しちゃいけない陛下はドア越しだったじゃねぇか」ときついツッコミ。

だがしかし!顔は絶対見せたくない!って言い張って、結局部屋の中に衝立らしき物を用意してもらい、衝立越しの面会となった。


やっぱり一番最初は村長夫婦で、「そうとは知らずご無礼を……」から始まり、延々と感謝の言葉やら謝罪の言葉やら盛り沢山頂いた。

村長の畑を凍らせて説教3時間受けた過去が嘘のようである。


次から次へと大人たちがやってきてお礼やらお世辞やら。

見舞い品をもってきてくれたお陰で間食用のお菓子には事欠かなかったが、衝立の内側では欠伸がでまくりだった。


そうこうして大人たちがひと段落してからやってきたのがリリンだった。


「……今までのご無礼、お許しください」


部屋に入るなり、硬い声でリリンが言った。

そして黙りこくる。


「……別に気にしてないから、大丈夫だよ?」


ナナエがそう声を掛けると衝立の向こう側でリリンの影が座り込んだように見えた。

何をしているのか分からず、ナナエは首を傾げる。


「エリザベス様、ご無礼を承知で申し上げます。……どうぞ、このリリンをお傍にお召し上げくださいませ」


突然のリリンの言葉に、ナナエは驚きを隠せなかった。

そもそも、リリンはナナエのことを嫌っていた節がある。

事あるごとにナナエを揶揄ってはバカにしていた。

それが何故、仕えさせろという話になるのだろう。


「えっと……ん~、侍女は今のところ募集してないけど」

「ご恩をお返ししたいのです」

「……そこまで感謝されるようなことしてないよ?」

「昨日のことだけではございません。これまでのご無礼に対し、度重なる温情にてご容赦くださいました。そのお心の広さが身に染みて分かったのでございます」


そこまで言われるような、身分じゃないんです、ホント……。

ただのお一人様だったんです。ちょっと前まで。

いや、今でも身分は変わらない。

周りがみんな偉いだけであって、ナナエ自身は一般人だ。

一々訂正するのも面倒だったし、お姫さまって言われるのはなかなかどうして気分がいいモノだから黙ってただけです!

なんちゃって姫君なんです!黙ってるけど!

元から説明すると凄く面倒なのでそのまま通してるだけなんです。

っていうか、その硬い言葉遣いの人物がリリンかと思うと違和感バリバリでございますですわ、オホホホホ。

いつもの嫌味交じりの言葉の方がずっと居心地が良いです。


「リリンは、この村に残って皆を支えていかなきゃ」


取りあえず、適当に言葉を並べて、遠まわしに断る。

今のところナナエには従者は必要ない。

ここにはキーツが居るし、今は居ないけどトゥーヤもマリーもシャルも居る。

そして、危険が伴う可能性のある場所に、一般人のリリンを連れて行くわけになどいかない。


「村長はいずれルツが継ぎます。私はルツの分まで姫さまにお仕えしたいのです。ご恩返しをしたいのです」

「……ルツを支えてあげてよ。なんだかんだ言って、若い子達のリーダーはリリンじゃない。きっとこれから何かがあったときに、リリンのその影響力は必要になる。あなたはこの村に残るべきだと思うな」

「ですが……!」

「気持ちは嬉しいのだけど……村をまとめていく力のある人物を、私が勝手に召し上げたら、私が陛下に怒られてしまうわ」


納得しなさそうなので、至極残念そうにもっともらしいことを言って、ルーデンスの名前もちょろりとちらつかせてみる。

流石にそこまで言うとリリンも食い下がることが出来ないようだった。

黙って跪いたままでいるであろうリリンには申し訳ないが、侍女はマリーだけでいい。

何も言わないリリンに居心地の悪さを感じ始めた時、ようやくリリンが口を開いた。


「それでは、この村にいらっしゃる間だけでもお世話をさせてくださいませ」


緊張したようにリリンが言う。

ここいらが落としどころだろう。

これ以上拒絶すれば、逆に揉めることになるかもしれない。


「では、この村に居る間、5日間はお世話になりますね」


ナナエがそう言うと、リリンは深々とお辞儀をしたようだった。

感謝の言葉をひとしきり述べると部屋を出て行った。




次にやってきたのはルツだ。

昨日、ナナエはルーデンスに目隠しをされていたのだが、ルツはあの男の最期をはっきりと見ていたようだった。

最期に見た顔は酷く青ざめていて、今にも倒れるんじゃないかといった感じだった。

そんなナナエの心配をよそに、今日のルツは比較的明るい声の調子で、挨拶をしながら衝立の向こう側の椅子に座る。


「先生、お加減はどうですか?」

「うん。大丈夫だよ?ちょっと疲れたぐらいかなぁ」

「僕たちの為に、ありがとうございました」

「私はたいしたことしてないってば」


ナナエがそう言って笑うとルツも微かに笑ったようだった。

もうすっかり立ち直っているらしい。


「やっぱり」

「ん?」

「あの男が言ったことは本当だったんですね」

「何が?」

「本当だったら声も聞けないぐらい貴い身分の方だって。まさか陛下のご婚約者だなんて思ってもいませんでした」

「あ~……うん」


ルツには事情を全部話すことは出来ずに居るので、思いっきり言葉を濁す。

この村の人たちには、ゼルダは偽名で本当はエリザベスと言うルーデンスの婚約者だったという触れ込みになっている。

ちなみにキーツはその従者という設定だ。

隠し事多いとホント面倒だ。

まぁ、実のところ。

ルーデンスでさえもナナエが異世界から来たと言うことを知らない。

貴族じゃないと言うのは知っているはずだけど。


「昨日まで、先生と普通に顔をあわせて、話したりしてたのが嘘みたいです。今日はもう衝立越しでしか話せないんですね」


……何か大きな誤解が生じている。

そんな平安貴族でもあるまいし、衝立はただ腫れた顔を見られたくないって言うだけの理由ですよ!


「先生」

「ん?なぁに?」

「……僕を、先生の従者にして下さい」


ああ、姉弟だ。確実に血がつながってるな。感心するほどに。


「うん、無理」

「どうしてですか!僕は先生……いえ、姫様のこと命を懸けてお守りしたいんです!」


その言葉を聞いて、ナナエはなぜか不愉快でならなかった。

どうしようもなく腹が立って爪をぎりりと噛む。


「必要、ないよ」

「あの男は、先生が狙われてるような感じの事を言ってました。生死を問わないと。それは殺される危険があるって事じゃないですか。僕はいざとなったら先生の盾になって……」

「いらない」

「先生!」


散々悩んだのだ。

ナナエの周りの皆は強い。だからナナエを守るために他の誰かを傷つける。

なのに自分はただ震えて守られたままで居るのがイヤだった。

その事をそうやって散々悩んできた。

でも、

それだけでは無い。

ナナエのために誰かが怪我すること。

それも本気でイヤだった。

セレンやタバサが傷ついたときのあの泣きたくなるような気持ち。

それは今でも忘れない。


なのに。

ルツはナナエのために犬死すると言ってるのだ。


そんなの許せるわけは無かった。


「僕は先生のためなら……」

「やめなさい」

「でも」

「ルツは、私が”子供を肉壁にすることを望む人間”だと、思っている、のね?」


勤めて冷静にそう言うと、ルツが息を呑む様子がハッキリとわかった。

厳しすぎる言葉かもしれないと思った。

それでも、シャルやマリーのように危険に立ち向かう技術も無いルツを連れて行くなど、殺させるために連れて行くようなものだ。

だから傷つくとわかっていて、ルツを”子供”だと揶揄し、更に自分を馬鹿にしているのかと問いかけた。

簡単に命を捨てるなどと言って欲しくなかったのだ。


「もう帰って頂戴。疲れたわ。……頭を冷やさせて」


ナナエが強引にそう言うと、ルツは静かに立ち上がった。

そうして、しばらくそこに立ち尽くした後、口を開く。


「どうしたら、認めてもらえますか」


その言葉が予想外で、ナナエは少し驚いた。

ここまできつい事を言えば、ルツは引き下がると思っていたのだ。

なのに、ルツは悔しそうな声を出しながらも引き下がらなかった。

それが意外だった。


「どうしたら、エリザベス様にお仕えすることを許していただけますか」

「あなたは、この村の村長になるのでしょう?」

「姉さんの方が向いてます。昨日、それがわかりました」

「リリンと2人でこの村を守るべきだよ」

「僕は!……エリザベス様のお側が良いんです」


ルツは一歩も譲る気が無いようだった。

だからと言って、連れて行くなどと言えるわけも無い。


「はぁ……、外まで丸聞こえなんだけど。ルツ、駄々こねてるんじゃねぇよ」


大げさなため息と共に、キーツが入ってきたようだ。

衝立の向こうに背の高い影が見える。


「おまえなぁ、今のお前は正直足手まといなんだよ。俺だって姫様守るだけで手一杯だ。お前を守る余裕なんて無い」

「守らなくたって良い!お前に守ってもらおうとなんて思ってない!」


ルツはキーツには興奮したように食い下がった。

それに口を挟もうかとナナエは考えたが、結局ここはキーツに任せた方が得策だと判断し、口をつぐむ。


「まぁ、俺は守るつもりないけどな。だけど、な。お前が捕まったら、姫様どうするんだろうな?」

「見捨ててくれて構わない」

「はぁ??見捨てるような姫だったら、お前従者なんて志願してねぇだろうが」

「……それは」

「お前が居るだけで、姫様が危険なんだよ」


ピシャリとキーツが言い放つ。


「お前が捕まったことによって、姫が死ぬかもしれない。命を懸けたいと思った相手が自分のせいで死ぬのを見たいのか」


キーツは辛辣な言葉でルツに詰め寄った。


そんな高尚な人間でも無いんだけどな…とか微妙に心の中で思ったりもしたがもう一人の自分が”読め!空気!”と指令を出してくるので取りあえず黙っていることにする。

キーツの口調だとまるで聖人君子のような言われ方で酷く居心地が悪い。


「そう……ですね。先生は……誰よりも尊い貴族らしい貴族の姫。気高くあるが為に、たかが平民の僕ですら見捨てない。だから僕は先生の傍に居るべきじゃない」


チョットマッテクダサイ。ソレ、ダレノコトデスカ。

ルツの言葉が外国の言葉のように聞こえる。ヤバイ、ルツは妄想の世界の住人だったのか。

厨二病、やはり発病してましたね……。恐ろしきかな14歳。


「……先生。僕が、誰よりも強くなって、誰よりも賢くなれば、側において頂けますか?」


体の向きをこちらに向け、ルツはそう言った。


「あぁ、はぁ。まぁ……そうですね……」


至極情け無い返事を返してしまう。

もう付いていけないです。大人としては。


「わかりました。僕、必ず先生にふさわしい従者になって帰ってきます。それまで、待っていてください」


そう言って、ルツはサッと部屋を出て行った。

後に残ったのは微妙な雰囲気と、頭を抱えて蹲っているであろう衝立の向こうのキーツの影。


「そのうち、帰って来るね。きっと”僕の考えた最強の必殺技でー!”とか言うようになってるよ。キーツみたいに」

「俺みたいにって言うなぁぁあああああ!!!」

「先輩として温かい目で見てやってね」

「せ、せ、せ、せ、先輩じゃねぇしっっっ!!」

「よっ、師匠!」

「だぁぁぁあああああ!!!」


うん。しばらくはキーツで遊べそうだ。






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