めし食ってるなう
どうも、はんぺんd(ry
というわけで第7話です。
コツッ
「ひっ、ぁ……」
俺の目の前にいる少女はひどく怯えていた。
見てわかるほどに足が震え、翡翠の瞳は大きく見開かれている。そして、まるで悪魔を見るような目で俺を見て今にも泣きだしそうな顔をしている。
コツッ コツッ
元の世界からそのまま持ち込んだ革靴が石でできた地面で音を鳴らす。
ゆきちぃは金縛りにでもあったかのように動こうとしても動けない状態であるのはすぐに分かった。
彼女は俺を恐れている。なぜかは知らん。
思い当たる節があるとすれば、俺が笑いながらゆきちぃに近づいていることくらいか。
コツッ
「……(ゴクッ)」
どんだけ怖がってんだこいつ……?
とか思いながら距離を詰める。
とうとうゆきちぃの背中が壁に触れ、もうそれ以上近づけなほど近い位置に達した。
何かを恐れながら俺の目を見つめる(多分目を離すことができない)ゆきちぃと、口だけ笑った無表情の俺。しばしの沈黙の後、埒が明かないと思い、俺は行動に出た。
くぃっ「っ……」
俺はゆきちぃの顎を右手で軽く上に向けた。
お互いの顔の距離は今にも鼻と鼻がぶつかりそうな距離。
傍から見れば今にもキスをしそうな男女の絵。ただし、その表情を除けば……だが。
その位置で俺は口を開いた。
「ゆきちぃなんか可愛いな。あと、おなか減った」
「へ……?」
丸2日以上は何も食っていないと見ていい。
一週間程度は断食しても死なないとか言われてはいるが、丸一日食事を抜けば、誰だって普通におなかは減る。全く、誰が好き好んで断食などするものか。
キス寸前の体制で目が点になっているきちぃを見て微笑んだ俺は彼女の顎から手を放して階段へと進む。
そして、一番最初の段で俺は足を止めた。
「説明、あるんだろうな?」
「ふぇっ……え、えぇ、か、必ず…………」
状況把握が追い付かずにあたふたするゆきちぃに軽く微笑みかけて、俺は今度こそ階段を駆け上がった。
すると上から駆け下りてくる青年が…
「あ、お疲れさん!」
「ちょ、貴様!……誰?」
先ほど見たような気がしないでも……ない。
途中ですれ違った少年の横を駆け抜け、俺はいい匂いのする場所へと走って行った。
---------sideゆきちぃ---------
ペタン
「っはぁ……心臓止まるかと思ったわ」
緊張の糸が一気に切れ、完全に腰が抜けて「ストン」と地面に座り込んだ。
少しして自分の顔が熱くなっていることに気づく。
「うそ、私、何であんな、やつ……」
今でも胸が苦しい。
あんな事をされたのは初めて。普通に殺されるかと思ってた。
それを何?「おなか減った」ですって?
それに、可愛いって……うぅ。
そんなこと言われたのは始めてだ。
加えて普通にかっこいいのもまた性質が悪い。
今考えると、あんな至近距離で見つめられたら照れてしまう。
「スノーフィア様!霊装を……っ!?」
途中で爆発音を聞いて戻ってきたのか、階段を駆け下りてきたクロウ君は地面にへたり込んでいる私と跡形もない牢屋を見て言葉を失っている。
まぁ無理もないわね。『幻覚結界』を内側から力づくで破壊したんだし。
「スノーフィア様が照れてる……!?」
「そっち!?」
「えっと、あ、いや……わ-!ナンダコレー!牢屋が跡形もなく吹き飛んでルー!!!」
「………………」
「……と、ところで、この中の男は?」
「クロウ君、あなたさっきすれ違った筈よ?……多分食堂あたりにいるわ」
何とか取り繕いながら立ち上がり、私はクロウ君と一緒に階段を上って行った。
「おばちゃーん。これ最高!」
「あらあら、よく食べるわねぇ」
「「………………」」
食堂にはそんな光景が広がっていた。
今までにないほどの笑顔で食堂のおばちゃんの料理をがつがつ食べている派祓とその光景をほほ笑んしい顔で見ている食堂のおばちゃん。それとその光景を呆然と見ている私たち。
「あの、スノーフィア様?」
「ちょっと黙ってクロウ君。今私の頭は必死に状況整理してるから」
なんだか頭痛がしてきた。
なんなのこの順応能力は?あなたつい最近まで異世界の人のはずよね?それが何で、我が物顔で、うちの食堂でボンゴレロッソを頂いてるの!?っていうかおばちゃん昨日そいつが牢屋にいたの見てるわよね!?
バンっ!
私は脳がパンクしそうになったので思いっきり机をたたいた。
それでも派祓は何食わぬ顔でこっちを見ながらもそもそとスパゲッティを口の中へ……。
「っだぁあぁぁl!!!もうなに!?なんなのこれ!?私の常識が間違ってるっていうの!?」
「どうしたゆきちぃ?そんなに「うがー」な顔をして」
コラ!そこクロウ君!笑わないの!
「どうでもいいのよそんなこと!っていうかあなた何食わぬ顔でいったい何してんのよ!」
「ぷぷー、見て分からないの~?」
「死にさらせぇぇぇぇぇ!!!!!」
ズガァァァン
「っだぁぁあl!?おかしい!おかしいぞその威力!こぶし一個で椅子を粉々に破壊する威力を生身の人間に使うなんてどうかしてるぜっ!!!」
「それを食らって無傷なあなたもどうかしてるわよっ!!!」
ゴンッ「痛っ!?」
間一髪、私の脳天直撃昇天チョップをかわした派祓は全身の筋肉と無駄に高性能な動体視力を使って右に大きく転がった。が、勢い余って壁に激突。
半壊の机を飛び越えて今度こそ目の前のキザ野郎に鉄拳制裁を加えようとしたときに、ちょうど真横から声が飛んできた。
「いい加減にしな、スノーフィアちゃん。食事が冷めちまうよ」
「ご、ごめんなさい。食堂のおばちゃん」
暴れる猛虎(ゆきちぃ)を沈めたのは鶴(おばちゃん)の一声であった。
彼女に逆らえば、『ごはん抜き』という究極のお仕置きがあったりするので素直に従うしかない。
「わかればいいさね」
そういって彼女は厨房の奥へと消えていった。
さて邪魔がいなくなったのだが、あとでばれると厄介なので仕方ない。そもそも、なんで派祓のことを怒っていたのか忘れてしまった。
私は頭をさすっているハバラのもとへと向かった。
「いっつつ……あー、自爆った」
「やっぱり異常よね、その身体能力その他諸々…………私に説明しなさい!」
「説明すんのはゆきちぃの方だろ」
「あ、そっか……」
「スノーフィア様……」
な、何よその「またやってるよ」な視線は!?
…………コホン。
……ってなわけで私は派祓に事情を説明した。
何かあれば……