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いい加減、ここから出ようか

どうも、はんぺんです。



第5話です。はい。

「ここは……」


白い壁の向こうはコンクリートの通路と繋がっていた。

派祓の後ろにはもう白い壁は存在しない。後ろには延々とコンクリートの通路が続いていた。


そして正面には少女が立っている。


「覚えてるよね、ここ」


「あぁ」


覚えていないわけがない。

倉敷派祓の幼少期を全て食い潰した場所。


-----まったく、嫌なことを思い出させてくれる。


「ここはもう存在しない」


「そうだよ」


「…………」


即答されては返す言葉もない。


『第13系列人工自然科学開発研究所』。

このコンクリートの牢獄は表向きにはそう呼ばれている。

決して光の届かない地下に存在する極秘の研究所。当時、世界を席巻する研究者、すなわち『ただの天才』たちが集められて始まった研究のために先進首脳国5ヵ国が製造した研究施設。


そしてその研究題材は……


「『世界にたった3人しか存在しない天才』を見つけ出す(・・・・・)研究。それが行われていた場所はもうない。ならばここはどこなのか?あなたの疑問はその一つ……いや、もう一つ」


「おまえは誰だ?」


「それは今問題じゃないよ」


言いながら少女は無限に続くコンクリートの通路を進み始めた。

両手を後ろ手に組んで鼻歌を歌いながら上機嫌に道を進む少女を見て派祓は不信感を募らせた。


「ふふっ、こういうの、久しぶり♪」


時折、後ろを向いてはまぶしい笑顔を振りまいてくる。


誰がどう見ても普通の少女。

公園で普通の(・・・)子供たちとまぎれて遊んでいても何の違和感も感じない。

本人そのものだ。派祓は単純にそう思った。


だからこそ恐ろしい。


目の前の、完璧に再現された笑顔が恐ろしい。


「あぁ、懐かしいな」


少しだけ派祓の口元が緩んだ。

過去を懐かしむことができるほどの思い出なんてなかったが、それでも心のどこかで彼女と出会えたことを喜んでいたのかもしれない。


「懐かしい……か、そうだよね。ここはあなたの」


「……?」


少女は言いかけて口を閉ざした。

代わりに、こちらを向いた。


「ここはどんな場所か知ってるよね?もう気づいてるよね?」


「被験者の記憶をもとに被験者自身に『体験』を誘導する幻覚作用。俺が知ってるのはHPSPPB-01とその系統の薬物のみ。開発者は……」


「違うよ」


またしても即答された。


「理解はしてるはず。でも、認めてないの?知らないだけ?それとも、----


少女の眼は派祓の眼をとらえていた。


   -----それとも、まだ、向こう(・・・)に未練があるの?」


少女の顔から一切の感情が消え去った。

他人の心の底を見透かすような目をした少女は、派祓から一度たりとも視線をそらさず派祓を見つめる。


輝きを失った真紅の瞳に映るものは、同等に一切の輝きを失った漆黒の瞳。


「お前か?」


彼女への問答にはこれで十分。

これだけで言いたいことは通じる。


その問答の意味を察した少女は少し離れて口を開く。


「さぁね。私に答えることはできないよ。分かってるんでしょ?ここがどういう場所なのか」


「所詮は俺の『記憶』か」


「所詮とかひっどーい!」


ぷくーっと可愛らしく頬を膨らませて抗議する目の前の少女はとても可愛らしい。

やれやれといったように少女は言葉を紡ぐ。


「……幻覚にとらわれていることはもうわかってるよね?しかも、元の世界とは全く違うルールで構築された世界にとらわれていることにも、もう気づいてるよね」


「あぁ」


「それでも、信じられない。でも、適応できる。それがあなた。3人目の『統括者』たるあなたの性質は『束ねる』こと。それは、1人目と2人目にはない性質。数や量を(もっ)てこそその真価が発揮される。それがあなたの役割」


「べつに、否定するつもりはない。ただ、ここから出る方法に心当たりがないだけだ」


「だから、私があなたの前に出てきたの。私は、ここではあなたの『自己防衛本能』と同義なんだから!」


つまりは、自分の無意識の意志で彼女をこの世界に形作り、こうして会話しているということである。

自分を適応させるために、第2者の目線を作り上げたということになる。


「この世界は意思を反映する」


それは施術者であっても、その世界にとらわれている本人であってもその意思が反映される、ということだ。この術式(?)は中に捕らえた人間を外…つまり現実の世界に戻さないためのものだ。この術式(?)は中にいる人間がその中の世界を現実だと思わせることに意義がある。


この世界は、派祓にこの世界が現実であると信じ込ませるように作用する。

それが派祓にとって有益でも有害でも……


「よって、私のような存在が作られた時、私とは真逆の存在も誕生する」


それはつまり、派祓をこの世界に閉じ込め続けるための足かせのような存在。

誰が来るかは大体予測できる。


自分の大切だった人間が現れたのなら、その逆は……


言わずもがな、自分の一番殺したい存在……とでも言ったところか。


「それを破壊すればここから出れると?」


「あなたの中ですでに答えは出てる筈。私の言葉はあなたの言葉で、あなたの願い。ここから出たかったんでしょ?」


確かに。

そろそろ外の世界で借りを返さなければならない。


派祓は意図的に惑わされた行動目的を取り戻す。

すると、世界がねじれた。


文字通りの光景があたりに広がる。

だが、派祓はそれに臆することなく、空間のねじれに飲み込まれていく。





「……ここは」


再び目を開けると、そこはどこかのモニタールームだった。

ここにも見覚えはある。ありすぎる。


「久しいな。39番」


その声に派祓は目を向ける。

正面の巨大モニターの前に立つ、白衣の男性。

黒髪で、ひげはない、若い成人男性。


派祓がその男に抱く感情はただ一つだった。


「よぉ……四月朔日(わたぬき)(よつぎ)っ!」


彼の瞳は大きく見開かれた。

彼は無意識に自分の『力』を掴みとる。



-----瞬間、彼の記憶はそこで途絶えた。











気が付くと、彼はかび臭いどこかの地下牢に立っていた。

ただし、そこに檻はない。


目の前には、ひどく怯えた少女の姿があった。



「そんなに意外だったか、ゆきちぃ?」



次に派祓が目を覚ました時、幻覚(ハリボテ)の世界は壊れていた。

分かりにくかったかなー(・ω・)


まぁ何かあれば…

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