どうしてお前がここにいる?
どうも。はんぺんです。
第4話です。はい。
がばっ!
「……生きてる」
気が付けば辺りは木、木、木、木、木、木、木しかない。
前日、2人組の暴漢(憲兵らしき鎧をまとった大男)に追いかけられ、逃げてきた後で高熱でぶっ倒れたところまでは覚えている。
時刻は午前10時4分54秒。
「最低でも丸一日近くは経過したことになるか……」
-----一体いつから?-----
そんな疑問が頭をよぎったがすぐにどこかへと消え去ってしまった。
周りの風景は見覚えのある森の中。
だが今度はなぜだか体が軽い。頭もすっきり快調。
-----「今度は」って、どういうこと?-----
ぐるぐると頭をよぎる当たり前のような質問を派祓は気に留めなかった。
言葉のあやだ。と。
「さて、どうする。これは俗にいう遭難というやつだよな……」
迷子とは言わない。
見渡す限り緑色。
生身の人間が丸2日以上無防備な状態で倒れていたというのに至って無傷という事は、この森はさして危険な場所ではないと判断できる。が、ピンチに変わりはない。食料もなければ水もないのだ。
「……まずはそこら辺から調達するか」
こんな状況でも、即座に適応できるスキルは持ち合わせている。
5年前にアメリカで遭難した時も何とかなったのだから今回も何とかなるだろう。とか、そんな軽い気持ちで歩を進める。
とりあえず小一時間は歩いたが、風景が全く変わらない。
「っつか、なんだここ」
目を覚ましてから違和感しか感じない。
そしてここは何かが足りない。
「動物どころか虫すらいねぇ」
木のかげや葉の裏、土を掘ってみても生物という生物が見当たらない。
あるのは木だけ。
「土壌が死んでる……?」
いや、ありえない。
もしそうならここに樹木があることと矛盾する。
しかし、ここまで生物がいないのもおかしい。
「微生物くらいはいるのか……?」
考えてみても確かめる方法はない。
そもそも、この世界に元の世界の常識が通用するのかすら謎だ。
とりあえず、派祓は辺りを観察することにした。
「……おかしい」
どの道を行っても同じ風景ばかり。戻っても進んでも同じ。
後ろ向きに走ってもホフク前進してもム-ンウォークしても結果は同じ。
「ゆいちぃめ。覚悟してろよ。この牛乳女!!!」
……と叫んでも一向に変化はない。
時刻は午後1時18分33秒。かれこれ3時間近くここにいる。
そろそろおかしいとは思い始める。いや、最初からおかしいとは思っていたが…
決定的な証拠は空にあった。
さっきから太陽が同じ位置から動いていない。
そこまで来ると何となく察しがついた。
「幻覚……もしくはかなり広い部屋にこのセットを作ったか……」
元いた世界でも幻覚を見せることは可能だ。
危ないお薬とか使えば楽に見せられる。
そもそも異世界に飛ばされたのも夢かもしれない。広大な土地があれば映画のセットを作るようにこの風景も作成可能だ。
もしくはいまだに夢の中か、異世界に来たのは本当で途中で幻覚にとらわれたか……。
風呂でずぶ濡れになったことから後者である確率は高い。
と、いろいろ考えてはみたがどれも確定できない。
「俺の『体内時計』は正確に動いてる」
が、この事実は薬による幻覚作用を否定する要素になっている。
俺の体内時計は誤差±0,07秒以下。
物心ついた時にはすでにこの時計が動いていて、いつから、どのように自分の中に備わったかも分からない。ただ医者が言うには『幼少期の規則正し過ぎる生活習慣』が大きな要因とのこと。
「俺の意識は覚醒していると見ていい。となると……」
考えた瞬間、わずかに風景が揺れたような気がした。
「やっぱそうか……」
確信したのはいいが、ここから出るすべはない。
「さて、どうしたものk」
突然に、派祓は言葉を失った。
何気なく木に囲まれたこの森を見回していた時に『ソレ』が視界に入りこんできたからだ。
「…………」
緑一色のこの空間に一か所だけ、色をつけ忘れたかのように真っ白な一点。
ありえない。
「なんで」
ありえてはならない。
「おま、え…は……」
その光景は彼の目の前に現れてはならないものだった。
真っ白なその一点は少女の形をしていた。
髪の色も肌の色も服の色も真っ白。
ただ、その少女の瞳は真紅のごとく赤い色をしていた。
「こっちに、おいでよ」
派祓のすべての疑問を無視して少女は言う。
透き通るようなほど透明な声が無音の森に響いた。
「なんで、ここにいる」
派祓はまるで信じられないものを見るような目でその一点を見ていた。
「そっちに行っても何もないから。おいで、39番……13番目の天才」
「43番……14番目の天才がなぜここにいる」
その名前は過去の遺物。
彼の人生の中で最も黒い場所に関係する『禁忌』。
「おいでよ39番、わたしの愛しい人」
少女はそういいながら両手を伸ばす。
寂しさから解き放たれたいがために。求めるように。
そこから動けない少女は辛そうな顔で、派祓を求めるように手を伸ばす。
「おれ、は…お……まえ、を」
すでに派祓の眼には生気が宿っていなかった。
ふらふらと、一歩一歩確実に少女へと歩を進めていく。
「そう、こっち」
「…………」
木と木の間に一か所だけ真っ白な壁がある。
ふらふらと歩く派祓を誘導するように少女は後ろ向きでその壁へ向かう。
「おいで」
少女は背中が壁につく寸前で立ち止まり、派祓を待つ。
そして、その壁の中に消えていく。
「」
派祓はそれについてゆく。
真っ白な壁は触れるとまるで水面をふれたかのように波紋が広がった。
派祓は何のためらいもなく白い壁の向こうへ歩を進めた。
瞬間、世界は『白』で埋め尽くされた。
……しょぱなからこんな感じでいいものか……まぁいいやw