なんだただの化け物か
はい、ど-も。はんぺんです。
3話目ですね
「……ここは」
気が付けば辺りは木、木、木、木、木、木、木しかない。
前日、2人組の暴漢(憲兵らしき鎧をまとった大男)に追いかけられ、右も左もわからぬこの世界を全力疾走で駆け抜けた俺は相手を撒いたところで、びしょ濡れのスーツを着たままであったこともあり、日が落ちたところで高熱でぶっ倒れ、よくわからない森の中で一夜を過ごす羽目になった。
そして今に至る。
「普通だったらこういうシュチュでああいう美少女と出会うんだよ。うん」
まだ頭がクラクラする。
が、額に手を当てても熱を感じられないので一応熱は下がったとみていいだろう。それに今は11時34分23秒。日の出から大分時間がたったためかスーツも大体乾いている。
「あの腹黒女……覚えてろよ」
そのころ、ゆいちぃがくしゃみをしたのはまた別のお話。
「やられたら、やり返さなきゃな」
「お前も人のこと言えて無いからね!?」とゆきちぃ(神の方)が叫んだのもまた別のお話。
バキッ!
突然、太めの木の枝が折れる音がした。
「……?なんだ?」
ズガァァァァァン!!!!!
「っ!?」
最初の音の方へ振り向いた瞬間、真逆の方向に何かが落下してきた。
……それも、数本の大木をなぎ倒しながら。
キシャァァァァァ!!!!!
「……は?」
一瞬、理解が追い付かなかった。
だがそれも、相手の鋭くとがった脚の一本が派祓めがけて接近していたことを察知するまでの間。派祓はほとんど本能的にそれを左にかわすと同時に周りに落ちていた棒切れを手に取る。
「なんだこいつ……」
敵を見据えながら、一瞬だけ何も見ずに掴み取った得物に視線を向ける。
「こんな得物で歯が立つのか……?」
派祓の得物は直径2㎝、長さ50㎝程度の木の棒。
対する敵は巨大なクモだった。
大きさは3~4メートル前後。黄色と黒のストライプが入った脚に胴体には大量の茶色い体毛。
唯一派祓の知るクモと違うところといえば、斜め十字に裂けた口だろうか。
もちろん、その口の内部は無数の牙が生えている。
「俺のこと餌だと思ってんじゃないだろうな……」
その言葉に呼応するかのように、10個の赤い目玉が派祓を捕らえた。
そのうちの2つと目が合った。
「おいおい…目ん玉2つほど多くねぇか……っ!?」
ズガァン!
クモから見て先ほど派祓を狙ったのとは別の右足が派祓を襲う。
派祓はそれを回避して後ろの樹木の陰に隠れた。
が、しかし……
バキッ!「あぶねっ!?」
そんなのお構いなしといったように、クモは自らの脚で木の幹を貫いた。
それを見た派祓は持っていた枝を斜めに折り、先をとがらせ、大木に突き刺さったクモの脚と垂直に突き刺した。
ギシャァァァァァ!!!!!
悲鳴と共に緑色の体液が流れ落ちる。
「今のうちに…!」
垂直に刺さった木の枝がつっかえ棒の役割を果たし、脚が抜けなくなっている。
派祓はそのうちに距離を取って近くの大木の陰に隠れて様子を見る。
シャァァッ!!!ギシャァァァァッ!!!
「こんなやつ一体どうすればいいんだ……おまけになんか体がうまく動かない」
この世界に来てからずっと思っていたことだ。
一番最初の平手打ちは明らかに不意打ちだが、2発目以降は本来の派祓の運動神経なら軽々と躱せた筈なのだ。なのにそれができなかった。
体が重い。
そう表現するのが一番理解しやすいだろうか。
「どうなってんだ……」
ズバァン!
「っ!?」
そんなことを考えている間にクモがアクションを起こす。
身動きの取れないクモは足が抜けないのにイライラしたのか、自分の脚がはまっている大木ごとへし折って派祓を探し始めたようだ。
「筋肉バカなのかあいつは」
言いながら大木の陰に身を隠しつつ相手の様子をうかがう。
昆虫の頭脳にそこまで高度な知能を求めるのもバカらしい、と派祓は思考を中断する。
そんなことよりも別に考えるべきことがある。
あれを何とかして殺すか。
だが今のこの体で殺せるだろうか。
さて、どうしようか……
「逃げよう」
決定。逃げよう。
派祓は近くにあった石ころをクモが向いている方向とは逆側の大木に投げた。
案の定、クモはそちらを向いて前脚を使ってその気をなぎ倒す。
派祓はその瞬間にクモが向いている方向とは逆方向にダッシュした。
もちろん、途中で小枝を踏んでその音で相手にバレる……なんて王道的なヘマはしない。
してないはずなのに……
バキッ!「は!?」
派祓の進行方向……つまり派祓が今から向おうとしている方向から大きめの音がした。
小枝を踏んだ音ではない。むしろ、自分から太い何かをへし折ったかのような音。
ギシャァァァァァッ!!!!!
……もちろん、その音はクモにも聞こえたわけで。
「ふっざけんなあああああああ!!!!!」
猛ダッシュ☆
もはや音を立てないとか関係ない。
ダッシュで音の下方向へと向かう。もちろん、クモもそれについてくる。
だから、派祓は一瞬遅れた。
先ほどの音の原因に。
「なっ!?」ドサッ!
ほぼ反射的に身を低くして地面にへばりついた。
そんな派祓の真上を巨大質量の何かが水平に飛んでゆく。
もちろん、向う場所はクモの顔。
グシャッ!
ズガァァァァン!!!!!
『何か』はクモの巨体を貫いてそのまま後ろの大木に突き刺さった。
「化け物かよ……」
「あれが化け物以外の何に見えるのよ」
後ろにはゆきちぃの姿があった。
これをやったのは間違いなく彼女であろう。
「お前だバカ!殺す気か!?」
「アンタあのままじゃ死んでたじゃない!」
「結局死ぬとこだったじゃねーか!!!」
「助かったんだからいいじゃない!」
「もっと別になかったのかよ!」
-----閑話休題-----
「憲兵は…?」
「もういいって言ったわよ」
「……しかし、大木が丸々飛んでくるとは夢にも思わなかった」
そう。
クモの巨体を貫いたのはこの森の中の一本の大木であった。
ゆきちぃはそれをへし折ってクモめがけて投げ飛ばしたのだ。
「まぁいいや、早くここから出よう」
派祓は緑色の体液をまき散らしているクモの死骸を一瞥し、その場から立ち去ろうとした。
だが、
ドサッ
「あ、れ……」
突然、体から力が抜ける地面に倒れこむ。
そして、ようやく、地面に真っ黒な線で描かれた魔法陣の存在に気付いた。
派祓は何かを察したのか、ゆきちぃへと視線を向ける。
「ごめんなさいね?」
「て、めぇ…!………がっ、がぁぁぁぁぁっ!!?」
急に力が抜けて地面に倒れこむ。
直後、急激な激痛によってふたたび意識を手放した。
------まぁ、タイミング的に申し分ないですね。忘れ物ですよー?-----
途中で別の声が聞こえた気がするがそんなことに割いている意識はもう残ってはいなかった。
そして、今度こそ意識を手放した。
何かあれば……