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大地の皇

どうも、はんp(ry


第27話です!





地面から現れたのは巨大な人だった。

ただし、その身体は漆黒の鉱石で覆われ、血の代わりに灼熱のマグマが体中を巡っている。


「っ!?おい、なんだこれは!」


「地を統べる皇にして、世界を構成する『大地』を司る者。始祖生命体が一角。大地の皇『ヘリオス・グランデ』。まさか、あれが……!?」


「……ヤバそうな奴だってのは分かった」


王はその言葉にうなずくと、派祓と共にヘリオスグランデから距離を取る。

すでにその広場にいる兵士たちには女王から撤退命令が出されていたため、彼女を含む王族の皆とかなり遠くの安全な場所まで退避している。


そして、その流れとは逆にサフィがこちらへ近づいてくる。


「派祓っ!」


「サフィか、とりあえずミラを連れて安全な場所へ!」


「アンタはどうすんのよ!」


「止めるしかねぇだろ!?こんなの街に放っておいたら…!」


「だったら私もやるわよ?」


サフィは派祓の横に並ぶ。


「我も微力ながら力を貸そう……っ!?」


グラムはいつの間にか目の前に立つ派祓とサフィの背中を見た。

そして振り向いたサフィからミラを頼むと言われた。


「ま、待て!王であるこの私が指をくわえて見てろというのか!?」


彼の目は真剣だった。

当然だ。一国の長たる彼が何もせずに国の未来を他人に任せようというのだ。


王として見逃せるはずはない。


だが、それでも目の前の2人は前を譲らなかった。


「グラム王、失礼ながら杖も持っていない貴方ではまともに相対できません。そして、それ以前に、」


「そんな貴方が、家族を守りながら戦えるのか?」



「っ……」



何も言い返せなかった。

確かに、今の彼には自分の力を最大限に引き出すための魔装具が手元にない。

今の彼ではこの2人の足を引っ張ることになる。



「必ず戻る。それまで持ちこたえられるか」



「「上等!!!」」



言葉と共に2人は前を向く。

そしてグラムは派祓とサフィに背を向け、ミラの腕をひぱった。


「お、お父様!派祓さんとサフィが!」


「来るのだミラ!今の私達では、足手まといだ……!」


「……はい」


ミラは強く手を握った。自分の無力さを呪った。

でも、諦めはしない。城に戻れば、ミラ専用の魔装具がある。



「派祓さん!サフィさん!私が戻るまで!それまで、絶対に死なないでください!!!」



「「誰に向かって言ってんだ!!!」」



「……はい」



ミラは背を向けてグラム共に白へと続く道を駆け上る。



ガアアアアアアアァァァァァァァァァ!!!!!!!!



直後、大地を揺るがす咆哮が響き渡る。











大地の皇の体は、下半身が地面に埋まっていた。

それでも大きさは30メートルを下らない。

ヨーロッパ人特有の顔立ちに、草で編まれた王冠(の形をした漆黒の鉱石)、ギリシャ神話に出てきそうな神々の外見をした大地の皇はそのオレンジ色の両眼を派祓とサフィに向ける。



「何か策はある?」


「ない。物理でゴリ押し」


「上等」


「だろ?」



ズガァァァァン!!!



膨大な質量をもって2人の間に相応の速度で振り下ろされるヘリオス・グランデの左腕をそれぞれ左右に回避し様子を見る。まき散らされた土煙の晴れないうちに左側へ退避した派祓へ左腕を横に振り払う様な追撃が来た。


「……っ!」


派祓は追撃が来る前に両足に魔力を束ねる。

そして飛ぶ。


ミラを抱えて飛んだ時よりは低く、しかしその跳躍は左手の追撃を難なく躱した。

同時に懐にサフィが身体強化を使ってヘリオス・グランデの脇腹に潜り込む。


目の前に立ちはだかる筋肉隆々の脇腹の手前で力強く踏み込む。



「喰らえっ!!!」



そして、放つ。



ズガァァァァァァン!!!



無属性魔法『身体強化』で数倍に強化された右ストレートがヘリオス・グランデの脇腹に突き刺さる。下半身を地中に埋めた大地の皇はその衝撃をモロに受けた。


ズドン!!!


同時にその背後にあった建物にまで衝撃波が及ぶ。

その衝撃波に耐えられず建物は倒壊した。



「くぅっ……硬い!」


「引け!サフィ!!!」


「っ!?」


ズガン!!!!!



サフィは派祓の言葉の意味を直観的に察した。

同時にその場から後ろに回避して距離を取った数瞬後、同じ場所にヘリオス・グランデの左腕が突き刺さる。どうやらあまりダメージは見込めないようだ。


「さすがは始祖生命体の一角……半端ないわね」


直後、サフィの真横に何かが飛んできた。


ズガァァァァァン!!!!!


「っ!?派祓!?」


「っつー、あぶねぇ……」


どうやら大地の皇に弾き飛ばされたようだ。

地面を10メートル程度えぐり取ってからようやく彼は停止する。

だが、彼は無傷だ。とっさに両腕に魔力を束ねて防御したのだろう。


「あいつ、強い」


「しかもただ硬いだけじゃないわよアレ…」


殴ってみてわかった。

確かにあの体は驚くほど硬い。しかし、ただ硬いだけじゃない、衝撃を受け流すしなやかさも持ち合わせている。


「あの体一体…?」


「人と同じなのかもしれない」


「どういうことよ……?」


「筋肉と一緒だ。力を入れれば硬くなるし、逆に力を抜けば柔らかくなる。そしてそれを可能としている血液の代わりもあいつの中に流れている」


サフィは大地の皇の身体を見た。

確かに、血液の代わりともいえる灼熱のマグマが無数に枝分かれして体中を巡ってる。



ガアアアアアアァァァァァァァッ!!!!!!!!



ヘリオス・グランデは咆哮する。

どこか苦しんでいるようにも見えるが、気にしている暇はない。

地面に下半身が埋まっている間にこの化け物を何とかしなければならない。


しかし、


「どうすんのよアレ……」


その言葉を聞いた派祓は口元をゆがめる。


「逆に、考えるんだ」


「逆?」


サフィがきょとんとしている。可愛い。


大地の皇(アレ)が人の性質を持ってるってことは、人の弱点も通用する部分がどこかにあるかもしれない。例えば、心臓とか」


「なるほど、確かにやってみる価値はありそうね」


「ただ、心臓をぶち壊すには問題がある」


「あのマグマね」


そう。マグマだ。

ヘリオス・グランデの体内をめぐるのは赤い血ではなくオレンジの灼熱のマグマだ。そんなものを素手で触ろうものなら……。しかも心臓を破壊するのだ。破壊した後でそのマグマが街に漏れるようなことがあればこの街はタダでは済まないだろう。


「でも、その心配はないわよ。始祖生命体はいわば最上級の召喚呪文。その生命を維持できなくなった瞬間召喚術式に戻るって消える筈よ」


「そうなのか」  「えぇ」


「…っていうかお前なんでアイツに触っても大丈夫なわけ?」


派祓はあの化け物を直接殴ったサフィ筈の右手を見ながら言った。

その右手のきれいな肌はあの灼熱のマグマが流れる身体を殴ったというのに何ともない。


「え、あ、こ、これは…私の身体強化って他とは違うっていうか…その……」


すごい勢いで眼が泳いでいる。

派祓は相変わらずジト目を続けるも、数秒であきらめた。


「……まぁいいか」

(逃げ場を絶った後でたっぷり聞かせてもらおう)


隣に悪魔がいる。間違いない。

サフィは横のブラックなオーラから目をそらし、前を向く。


「じ、じゃあ!、心臓狙っていくわよ!!!」


「ダメだ」


即答。



「……え、何か問題でも?」



「やりにくい」


もし、目の前の化け物が人と同じ体内構造を持っているとすれば、心臓に当たる部分は肋骨の中にある肺を超えた先。そんなところまで攻撃が届くとは、正直考えられない。


「だから『頭』だ」


「頭?」


「的がでかいし、なによりわかりやすい」


「そうと決まれば行動あるのみね。どっちがキメる?」


「どっちでもいいさ。俺はまだ俺の限界を知らないんだ」


「いざって時に問題起こさないでよね」


「善処する」



言葉と共に派祓とサフィはヘリオス・グランデめがけて走り出した。



ガアアァァァァッ!!!


ズガァァァァァン!!!!!!!!!



もちろん、それをやすやすと自分に近づけるほど大地の皇は愚かではない。

右腕を地面に振りおろして容易く大地を破壊する。


「手加減はするなよ!?全力でぶん殴れ!!!」


「言われなくたって分かってるわよっ!!!」



ズガァァァァァン!!!!!



左手が地面を砕く。

横振りの右手が周りの建物を容赦なく破壊していく。

派祓とサフィはそれらをすれすれで躱し、大地の皇を翻弄していた。


狙うは頭。


そして、そのために……



ガアアアアアアァァァァァァァァ!!!!!!!!!



ズガンッ!


ズガガガガガガッ!!!!!



「っくぅっ……!!!」



ヘリオス・グランデの右パンチをサフィが真正面から受け止める。

そのこぶしはサフィごと地面を抉ってようやく停止した。


「いって!派祓!!!」


「任せろ!」


サフィが動きを止めた右腕に飛び乗り普段の数倍異常の量で束ねた魔力をもとに強化された体で駆け上る。それを払おうとしたヘリオス・グランデの左手が迫るも、わずかにタイミングをずらして回避する。


あとは目の前の顔面に強烈な一撃を加えるだけの簡単なお仕事。


だが、目の前の大きな顔は大きく口を開いていた。



「っ!?なにっ」



--------------------------------------------っ!!!!!!!



ズガァァァァァァァァァン!!!!!!!!!



口から放たれたオレンジ色の熱線はヘリオス・グランデの右上腕を掠り、その先の地面に火柱を上げた。

そこにあった建物もろともと化しつくしてその場にマグマの溜まったクレーターを作る。



「派祓!!!」



サフィはそんなことお構いなしに、派祓の名を叫ぶ。

そして彼を空中で見つけた。


派祓は熱線が放たれる寸前に大きくジャンプしていたのだ。

派祓は空中で綺麗な弧を描きながら自身に眠る莫大量の無属性魔素をありったけ束ねる。



「限界を知るにはいい機会だ…!」



言葉は一度でいい。

後は頭の中で反芻するだけ。


出来る限り。

時間の許す限り。

自分の限界が許す限り……そして、ようやく遠くに『限界』が見えた。



「『全部』じゃないがこれでいい」



派祓は綺麗な弧の字を描き、空中で体をひねる。


そしてその目でしっかりと標的を捕らえる。

そして、自分の技量で束ねられる限界量の無属性魔素を右脚に込める。


そして、



「ちぇすとぉぉぉぉっ!!!!!」



-------------------------------------っ!!!!!!



派祓渾身の『(かかと)落し』がヘリオス・グランデの脳天に直撃した。

頭についていた冠にひびが入り、そのヒビは徐々に広がり冠を破壊する。その衝撃の余波は背後の地面にクレーターを作り上げ、空気を伝ってその衝撃が周囲にもまき散らされた。


衝撃で後方へ倒れてゆくヘリオス・グランデは苦痛に耐えるように片目を瞑り、もう片方の目を派祓に向け、そして次の瞬間には完全に片目を開いた。



「っ!?」(嘘、だろ…!?)



ヘリオス・グランデの脳天には縦1mほどの僅かな亀裂があった。

だがそれは派祓に絶望的な危機感を与える。


亀裂があった。

逆に言えば、亀裂しか(・・)作れなかった。


そして、派祓の中にはもうほとんど魔力が残っていない。


それが指す意味は、


「やばっ」


派祓が今いるのは空中。

身動きの取れないこの場所で左側から迫る赤と黒の強靭な拳を回避するすべはない。


彼の世界のすべてがスローになる。

彼はただスローになった世界で迫りくる拳を見つめることしかできなかった。


(あはは、やっべー……)



グシャッ


----------------------------ッ!!!


「っ!?派祓ぁ!!!!!」



派祓は悲鳴にも似たその叫びを聞くことはできなかった。


理由は、この街の外から轟音が響いたからだ。

派祓はそこまで弾き飛ばされていた。



「う、そ…そんな……」



サフィはその場に膝をつく。

彼はありったけの力をぶつけたため、彼の中に魔力はほとんど残っていない。

つまり、あの攻撃を生身で受けたことになる。


そうなれば、彼は……


(あれ…?)


なんて考える前に、もっと考慮すべきことがあった。

サフィの体を影が覆うまで彼女は気づかなかった。



「しまっ



派祓をこの街の外まで弾き飛ばした赤と黒の拳はもうすでに眼前に迫っていた。






















ガキィン!!!




だが、その拳がサフィに届くことはなかった。


「っえ……?」


その拳はサフィの眼前数メートルで止まっていた。

サフィはその拳を止めたものの正体をようやく認識する。


「くりす、たる…?」


サフィの目の前には青く透き通った6つのクリスタルが隙間なく地面に突き刺さっていた。

そしてそれはヘリオス・グランデの拳を止め、サフィを守っている。


「始祖生命体は、『覚醒の血』を持つ私の前ではその威力を弱めてしまう。さらに、コレ(・・)は大地の皇本来の『性質』を具現化した最上級の防御特化型霊装……」



その声に、サフィは振り返る。



薄い水色を基調としたドレス仕様の戦装束。

霊装と思しき銀色のティアラを頭に乗せ、上半身から下半身までとどく甲冑を着こんでいる。

杖を持たない特殊な戦闘スタイルのミラの周りには、彼女を守るように数メートル四方の六角形クリスタルが7つばかり浮いていた。



その姿こそ、後に『絶対防御』の名を冠するミラの姿。



「いくら大地の皇とて私の友達には指一本触れさせません!!!」



友達を守る。


ただそれだけの願いを持って戦場に赴いた一人の『王』がそこにいた。

連続投稿2話目です!



4話連続で投稿してるということは……まぁ、察していただけたかとw

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