異変が起きた
どうも、はんp(ry
お待たせしました。
第22話です。
「私の名前は『ミ・ラ=ドラグニル』と申します」
ふわふわとした物腰で自己紹介をする癒し系お姫様。
「改めて、『倉敷派祓』だ。名前が派祓で名字が倉敷」
「面白い名前をしてますね。どこの出身ですか?」
「当ててみ?」
俺がそういうと、ミラは顎に手を当て真剣に考え込む。
「フリウラ……いや違う。メイレン、も違う……黒髪黒目なんてただでさえ珍しいですのに」
「時間切れ。俺は異世界から来た哀れな一般就活生です」
「い、異世界……ですか?」
「そ。気づいたら突然風呂の中に突っ込んでた。そこであったのがサフィ」
「……先ほどの方ですね?よくご一緒にいられますね……お風呂で裸見られたのに……//」
先ほどまでの会話の内容などをかんがみればそのくらいは想像できる。
が、想像できてしまうからこそ、真っ白な肌のお姫様の顔は真っ赤な茹でダコ状態になるわけで……。
「あー、俺もソコ不明だったんだけどね、あとできっちり体で支払わされた」
近くで「ぼふっ!」という音がした。
「か、かかか、体で、ですか!?///」
言ってることは間違ってないが、盛大に勘違いしちゃってるなこのお姫様(笑)。
ニヤリと口元が歪む。
「あぁ、そうなんだ。無理矢理体の自由を奪われたり、無理やり(城の衛兵100人の)相手をさせられたり……それはもう、めっちゃ過激な女だ。そして今はなす術もなくこのあたりにやってきた……と、そういうわけだ」
「あ、相手を……それも、か、過激……ですか///」
全て嘘ではない。筈だ。うん。
無理やり『幻覚結界』とかいうのに閉じ込められたし、サフィに殴られたせいで仕方なく兵士たちの相手させられたし、めっちゃ殴るから過激認定で間違いないし、なす術もなくやってきたというのは完全に俺のせいだけど本当だ。
茹でダコ状態のミラはなぜだか『相手』とか『過激』の部分で異常な反応を見せている。
当たり前のように()の中のことは聞けるはずもなく……。
「それでも悪人をやっつけることが出来たからめでたしだがな」
「へ……?悪人?」
自分の考えていたことと全く違う事実にうっすらと頬が赤く染まる。
し、それを俺が見逃す筈がない。
「あれ~?もしかして今頭の中で大人の階段上りかけてた?」
「っ!?//ち、違います!違いますよ!?あんな美人さんと派祓さんが過激にあーんな事やこーんな事だなんて!!?」
「そこら辺の事情に興味津々のお年頃か……確かに、胸デカいもんなアイツ」
俺がそうつぶやくと、なぜだかミラが興味津々の顔で「ずぃ」と顔を突き出してくる。
「どうやったらあんなに大きくなれるのでしょう」
ミラの胸はパッと見Bか頑張ってCだ。
胸のことを男に聞いてくるとかどんだけ切羽詰ってんだこの姫様。
「それは知らんが、アイツの胸のサイズなら教えてやろう。それは……
「勝手に人の胸のサイズを公言するなぁぁぁぁぁ!!!!!」
スパァァァン!!!
ズガァァァン!!!!!
「派祓さん!?」
空のワインボトルが後頭部に直撃した俺はそのまま2メートルほど吹っ飛んで停止する。ワインボトルともあろう物が「スパァァァン!!!」などという効果音を産み出したのだからその速度は計り知れないであろう。直後、それを食らった派祓がタンスにめり込むのも当然の結果である。
「てめぇ!ワインボトルは投げるモンじゃねぇぞ!」
「当たっても無傷なやつに言われたくないわよ!」
「えぇと……」
光景が異常すぎて唖然とするミラ。
ワインボトルを後頭部に投げつけた方も異常だが、食らってから平然と何事もなかったかのように起き上がる方もかなり異常だ。
短パンにジャージのようなものを着たサフィは風呂上り独特の湯気を纏いながらミラの方へ向き直る。
「あなたが第3王女ミ・ラ=ドラグニルね。派祓が無礼なことをしたわ」
「謝らないでください。彼は私を笑わせようとしてくれていたのですから」
「何だ、バレていたか」
「はい。ありがとうございました」
律儀にベッドの上で床に座っている派祓に頭を下げるミラ。
ため息をついたサフィは真剣な表情でミラの方に向き直る。
「……事情は聞いているわ。一人になりたいのなら、席を外すけど」
サフィがそういうとミラは首を横に振った。
「いえ、大丈夫です。もう、十分泣きました。抱きしめました。それで私はお兄様やお姉さまを、必ず助けると約束しました。だから、大丈夫です。決意は決まっているのです。だから……」
ミラの決意は固い。これから何を言い出そうとするのかは容易に想像できる。
そしてこれはすべて俺の狙い通り。サフィは俺を一瞥して俺が両手を合わせてお願いをしているのを確認すると、再びため息をついた。
「私はラーギィ達の手からこの国を救いたいです。わがままなのは承知ですが、このまま逃げたくありません!…………そして、そのために、あなたたちのお力をお借りしたいのです。図々しいかも知れませんが、お願いします。力を貸してください」
再び頭を下げるミラ。
「……顔を上げて頂戴。答えは派祓がすべて決めてんのよ」
「…………?」
「そ。俺が姫様をここまで運んできたのは街の薬売りの頼みでね。そのあとはすべて俺の予想通り。だから答えは姫様が起きるよりも先に出てる」
「それに報酬の約束はきっちりと契約済よ」
「報酬……?」
「う……」
いやなところをほじくり返してくる。
サフィは満足げに俺を見るとその視線をサフィに戻した。
「ま、一言言えるのは……」
「「これからよろしく!」」
俺とサフィはキョトンとするミラの前に親指を立てた。
数秒遅れてからミラが笑顔で「ハイ!」と答えた。
直後、ミラの体が床の違和感を感じ取った
ゴゴゴ……
「……?なんでしょう?」
ミラは突然の揺らぎに首をかしげた。
ゴゴゴゴゴ……
「なによ…?」
徐々に大きくなってゆく揺れはサフィも気付いた。
ゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!!
「っ!まさか!?」
そして、この揺れを知っている元日本人はこの後起きそうな事象をすぐさま察知した。
したらば行動あるのみ。地震大国元在住者のとる行動はただ一つ。
「ちょ!どこ触って…!」「きゃっ!?」
「うるせぇ黙ってろ!」
直後、地面を持ち上げてそのまま落としたかのような衝撃が3人を襲う。
ズンッ! ゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!!!!
「きゃっ!?」「っ!」「うおっ!?」
ガシャン! ズドン! パリィン!
部屋のスタンドライトは倒れて割れ、中破していた箪笥はその巨大な質量を床にたたきつける。ワインボトルの収納された棚はその扉を自ら開いて中身を床にぶちまける。
ゴゴ…ゴゴゴ…………
「だ、大丈夫か?」
「えぇ、なんとか」「は、はい!大丈夫です」
しばらくすると、揺れは落ち着きを見せた。
部屋に備え付けの巨大なテーブルの下に滑り込んだ3人は大した怪我もなく部屋の様子を観察している。割れたワインボトル、豪快に倒れた箪笥、散らばるガラスの破片などなど……机の外は一気に危険地帯と化していた。
「なんなのよ今の……」
生まれて初めて経験した地震に唖然とするサフィ。
「地震だ。少なくとも俺の国ではそう呼ばれている。といっても、俺もこんなにデカいのは初めてだったがな」
「まさか、誰かがあの『皇』に…?」
「?」
机の下でミラはつぶやく。
それをサフィは聞き逃してはいなかった。
「何か心当たりがあるの?」
サフィの言葉に派祓もミラの方を向いた。
「【かの『皇』の怒れる時、大地は震え、炎の柱を生み出すだろう。さすれば街は一夜に沈み、大地は赤く赤く煮えたぎらん】……王家に代々伝わる言い伝えです」
「って、もしそれが本当ならまだまだ序の口ってこと!?」
「マズいな……」
もし、元の世界に準じて言葉のとおりに考えれば火山の噴火に行き当たる。
さらに、言い伝えが本当ならば、この街全土が溶岩に沈むことになる。
「それに…」
派祓はエレベーターに視線を向ける。
ろくに耐震設計もされていない旧式のエレベーターがまともに動くなんて考えられない。下手をすれば、どこかが破損してもう使い物にならないかもしれない。
「あ、あの」
「お前らはそこで待ってろ。ガラスが散らばってるし、裸足じゃ危ないだろ」
今現在履物を履いているのは派祓と、サフィ。
派祓は革靴を履いているが、サフィのは室内用スリッパだ。
派祓は机の下から抜け出し、散らばるガラスを踏みつけてエレベーターのあるところまで向かう。そして、扉を強引にこじ開け、下を見る。
「うわぁ……おーい!誰かいないかー!?」
すると、数秒後に声が帰ってきた。
「派祓様ぁ!姫様は!!ご無事ですか!?」
「その声は総支配人か!今下の状況はどうなってる!?」
「幸い、けが人はおりません!ですが、このエレベーターが動かなくなってしまったのです!!!」
それは大体予想していた。
派祓は口の中でその言葉を転がしながら、別のセリフを用意する。
「こっちは全員無事だ!!!怪我もない!!!」
そう叫んだあと、わずかな間があった。
大体の察しはついたが、派祓はそれを口にしない。
「しかし、派祓様!こちらからでは手の施しようがありません!!」
「わかった!とりあえずこのまま俺らはこの部屋で脱出方法を考える!」
「かしこまりました!こちらも何か策を講じてみます!!!」
その言葉を最後に、会話は打ち切られた。
派祓はそのまま部屋中を見渡す。
「……とりあえずガラスを何とかしないとな。姫様2人に怪我させるわけにはいかねーし…」
派祓は部屋に備え付けの箒を取ってガラスを片付けた。
…とはいっても、隅に寄せただけだ。捨てる場所などない。
「……もう大丈夫かな。おーい!出てきていいぞ!」
「にしても、ホントとにナイスタイミングで通りかかったわね?」
派祓がタンスを元の位置に戻したり割れたガラスを一か所に集めたりいろいろしている間、戦力外通告を受けたサフィとミラはベッドの上でその様子を眺めていた。
「あの時は本当にダメかと思わされましたわ。しかも二回も……大体、助けた女の子を再び気絶させて運びますか普通?」
「……面目ない。目立つのは不味いだろうと思ってな。あと、あんたの格好が誤解を生みまくりそうだったし」
派祓がそういうと、さっきまでの自分の格好を思い出してミラの顔が真っ赤になる。
そしてワンテンポ遅れてシーツで自分の体を隠しながら派祓をにらむ。
「あ、ああ、ああああなた!見られたのですか!?わ、わわわ、私のあの格好見たのですね!?っていうかどうしてその時に解いてくれなかったんですか!?」
必死に恥じらいと闘いながら抗議する癒し系お姫様。
やったのは派祓じゃないのになんだか派祓がやったみたいになっている。まぁいいか。
「いや、あの状況では叫ばれること必至だったからこれが最善の策と思われ」
「で、ですが……」
「ま、結果助かってるし……」
サフィも納得。意外だ。
「私だったら一発殴ったけど」
「おい」
「これも神様の思し召しでしょうか……」
「かもな」
(神様とか信じないんだが……この世界に来て何とも言えなくなって来たな)
いまだに信じようとしない多神教地域元在住者である。
「それに、街のやつらには感謝しておくことだ。俺だけじゃ今のお前はいなかった。お前は街じゃ自分の思っているより人気者だ。見知らぬ俺に頭を下げてお前を託すほどに……」
ミラはわずかに驚いた顔をしたがすぐさま表情を変えて、その言葉の意味をかみしめながら胸の前で手を組む。彼女は泣きそうではあったが、泣くことはなかった。
「はい。ありがとうございます」
「……それで、これから具体的にどうするのかしら?」
サフィが本題に入る。ミラがそれにうなずく。
「近日にでも、私以外の王族が見せしめのために広場で処刑される旨の情報が街に広がるはずです。処刑の日ラーギィは必ず民の前に姿を現し、自分が王位を継ぐと宣言するはず。警備はそちらの方に集まるでしょう。狙いはその時です。今もまだ王族派の騎士たちが地下牢に多数閉じ込められている筈ですから」
「死んでいる可能性は?」
「ちょっと、派祓!」
サフィが直球過ぎる質問に対して怒鳴る。
だがミラは冷静に答えた。
「ありません」「なぜそういえる?」
「王族派の騎士達が全てが居なくなって国に何の影響も残さないと思いますか?」
簡単に殺すメリットがどこにもないと暗に告げる。
「じゃぁ救出後は戦力として考えて問題ないな?」
俺の突然の切り返しにサフィとミラはキョトンとした顔になる。
俺はそんな2人に自分の考えを披露する。
「……まぁ、何はともあれ、ここから脱出しないことには始まらないのだが」
(脱出方法なんて考えるまでもないな……)
ふと、派祓は窓の外を一瞥する。
気づけば、日はすでに落ちていた。
グダグダしすぎか…?