逃走中 in グランツ王国
どうも、はんぺn(ry
連続投稿ですはい。
というわけで、第16話です。
ストッ スルスルッ
「むぐっ!!」
麻袋から少女を取り出し、縄をほどくと、少女はいきなり大声を上げようとした。
反応としては正常だ。世界中の一般女性のほとんどが同じ行動をとるだろう。
でもここで叫ばれるといろいろ厄介すぎたので口をふさぐ。
「喋んな。気づかれるぞ」
「……(コクコク)」
道をふさぐように積み上げた木箱の隙間から大通りの様子を見て見ると、たまに何人かの男たちが何かを探しながら移動しているのが見て取れた。
表を見ながらもらった黒いマフラーを首に巻く。温かい。
「……にしても、対応が早いな」
「あの、あなたは……?」
表通りの様子を警戒している派祓にそんな声が聞こえてきた。
そちらを向くと、銀髪碧眼の美少女が…。
「通りすがりのパシリですはい」
「パシ…?」「気にすんな」
「な、何はともあれ助けていただいてありがとうございました」
「礼なら薬屋のおっちゃんに言うことだ。俺は何もしてない」
「そんな、私を助けてくださったではありませんか」
「俺はお前を見捨てようとした」
「今は違います」
「………………」
少女の真剣な目を見て派祓は降参のポーズをとった。
表通りの監視をやめて少女に向き直る。
「降参、降参……それで、これからどうするつもりだ?ミラ姫様?」
派祓がそういうと、ミラは深刻な表情になる。
「私の事を知っていたんですね」
「聞いてただろ?」
「そういえばそうでしたね……」
「……………」
「……………」
表を捜索していると思われる闇ギルドのメンバーが今も血眼になってこの姫様を探している。
再び表の監視をしていた派祓とミラの間に沈黙が走る。
「聞かないのですか?」
「何をだ」
「その、いま、この国で何が起こってる……とか」
「無理矢理聞くほど、関心は持ってない。ただ、おまえが話したいのなら別だけどな」
「……最初は、この国をもっと良い国にしよう…という、たったそれだけの願いだったのです」
派祓が表の監視のため、ミラに背を向けていると、ミラが口を開いた。
ミラは自分の服の裾を握り、なんとか言葉を紡ぐ。
「ただ、割れてしまったのです。思想は同じでもやり方が違う……よくあることですね。私の父上である現国王『グラム=ドラグニル』と宰相ラーギィはそれぞれ典型的な穏健派と過激派でした」
「そりゃ割れるわ」
呆れたように返す派祓にミラは「そうですよね」と力なく笑う。
「もちろん、過激派のラーギィは隣国を倒して自国の領土を広げることが国をよくする最善の道だと謳い、その派閥を広げました。もう一方で父上は国民の税率を引き下げようとしたのです。それで……」
「宰相に反旗を翻された」
「はい。おっしゃる通りです」
当たり前だ。というのは簡単だ。
互いに「良い国にする」といわれたときに一番やりそうな事として予想を立てれば真っ先にやりそうなことである。前者は戦争によって他国を滅ぼし、その領土や富、資源を奪うことで、国を「良くしよう」とする。後者は税率を下げることによって国民の信頼を高めることで国を「良くしよう」とする。
後者から見れば前者は悪逆非道な人間だし、前者から見れば後者は税金で生きている自分たちの首を締めようとしているようにとらえてもおかしくない。無論、その意思があろうとなかろうと…だ。
両者の間には敵意しか生まれない。
「お前はどう思うんだ」
「私は、戦争はしたくありません」
その回答は少しだけ派祓を悩ませた。
本当は悩む必要すらないのだけれども。
「どっちにも、納得できないんだな」
「はい。私は……はひっ!?」
ミラのは言葉の途中で視線を派祓の横に移した。
派祓もつられてそこを見る。
「……なんだこれ」
壁に目が生えていた。
その場でぎょろぎょろと辺りを見回し、ミラを見つけたところでその動きが止まる。
「ミツケタ。ミツケタ。エモノ、ミツケタ」
その目から音声が発せられる。
なにがなんだか分からないミラはただ硬直するばかりだ。
「っえ」
「タベナキャ」
言葉と同時に今度は壁に口ができ始め、同時に派祓が動いた。
一瞬遅れて壁の口はミラを食おうと口を大きく開けて壁から飛び出してきた。
「「っ!?」」
ズガァァァン!!!
轟音と土煙が舞い上がる。
ミラを抱えた派祓は土煙から飛び出し、距離を取った。
「ここがファンタジーワールドだってのすっかり忘れてた」
「な、なんですかあれ!?」
「俺が知るか、っ!?」
ズガン!
土煙の中から口だけが襲いかかってきた。
派祓は慌てて右の裏路地へミラを庇いながら転がり込んだ。
そしてそのまま逃走を図る。
「前!前!」
「っ!?」
そして逃げた先には後ろの化け物を操る、術師らしき標準的な大きさの人影ともう一人、2メートル越えの大剣を担いだ大柄の人影があった。どちらもマントを羽織り、フードで顔を隠している。
ただ、その2人両方に共通する点といえば。
「ふんっ!」ブォン!
「あぶねっ!?」
大剣を振っているとは思えないほどの速度で派祓に大剣を振るう大柄の敵。
俺はそれをミラを庇いながらギリギリで躱して走り抜ける。
「っぶねー、殺す気かよ……っ!?」
躱した後に着地した足元の地面から口が浮かび上がってくる。
俺は瞬時に体内に分散する力を両足に束ねる。
そして大きく地面を蹴った。
ガチン!
ミラを食らおうと地上から約5メートルはジャンプしたであろう口の化け物よりもはるかに高く跳躍する。その高さは眼下の街を一望できるほど。
右側には現在泊まっているホテルと左側には大きなお城が見て取れる。
そして眼下には土煙が上がっていた。
おそらく化け物が地面に落ちてできたものだろう。
「ちょ、ちょちょちょっと!た、たた高すぎますぅぅぅ!!!」
こんな高さを経験したことがないのか、ミラがわめきながら暴れている。
「ちょ、動くなミラ!ちゃんと着地すっから!」
眼下の建物を超えるように斜めに飛び立ったためすぐに敵の姿は見えなくなった。
着地までにはあと10秒はかかるだろうか。
「それよりもミラ、見て見ろよ!」
「ふぇ……わぁ、すごい…っていやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
途中で上昇から降下に変わったためミラが再び絶叫を上げる。
派祓は眼下の時計台の屋根をちらりと見据えた。
ズガン!
「……うん。何ともない」
着地に成功したのと、謎の無属性魔法強化のおかげで着地時のダメージはない。
お姫様抱っこ状態のミラにもこれといった外傷はない。
ただし、目を回しているのは別だ。
「ぅきゅー…」
「おーい、大丈夫かー?」
とりあえずいつまでも屋根の上に上っていると見つかってしまうので、急いで隣の屋根に飛び移り、裏路地から地面に降りる。そして大通りへ。
「あそこの喫茶店とかよさそうだな……」
言いながらその店の扉をくぐった。
「いらっしゃい……おや」
目を回した銀髪碧眼の少女をお姫様抱っこで抱えた派祓を見て喫茶店のマスターはわずかに目を細める。が、すぐに表情を穏やかな方向に戻した。
「悪いなマスター、追われてるんだ。ちょっと匿ってくれないか」
「でしたら奥の部屋へどうぞ」
「助かる」
考えることなく了承してくれた喫茶店のマスターに案内されて店の奥へと入る。
こういう場所のマスターはたいてい紳士でイケメンだ。
これだけはどこの世界でも共通のようで助かった。
さて、これからどうしたものかね……
思ったより長くなった…
今後はちょっと更新ペースdownです。
何かあれば……