お持ちかえ……り?
どうも、はんぺn(ry
というわけで第15話です
「あ゛~、ぎもじわるい」
俺も今朝の目覚めは最悪だった。もちろん夢のせいで。
「おはようゆきちぃ」
「サフィ」
ジト目で俺を見るサフィ。
「覚えてたか……おはようサフィ。あんなハイペースで飲むからこうなる」
翌朝、予想通り二日酔いに悩まされるサフィの姿があった。
ちなみに昨日……いや早朝か、とにかく、俺はベッドをサフィに占領させていたためソファで寝たが、寝心地の悪さに結局眠れず3時くらいまで総支配人を呼んで飲んでいたのは秘密である。
おかげで総支配人と飲み友達になった。
そしてその後にあの夢だ。最悪。
「なーによぉ~、あんただって結構飲んでたじゃない。なんで私だけ二日酔いに悩まされてんのよー!っ!?イタタタッ…………あぅ~」
その事だがな、俺はちびちび飲んでたせいで3杯程度しか飲んでないんだ……。
「その方が可愛いらしいからしばらくそうしてろ。叫べば頭痛が襲うぞ?」
少なくとも殴ってくるときよりは可愛げがある。
「……本っ当に、派祓はなんでそんなことが真顔で言えるかな」
ちょっぴり頬を赤くしてベッドの上で照れてるサフィ。
昨日の『決戦』の最後に派祓が大声で「ゆきちぃ美人女王様宣言」したせいで余計に意識してしまう。
が、2人とも思惑が噛み合っていないことを知ることはない。
「ま、今日は寝てろ。あとで薬買って来てやっから」
「どこか行くの?」
「見物行こうかと」
「私も行きたい」
「吐くぞ」
「止めた」
「また別の日に付き合ってやる」
俺はそのままエレベーターで下へと向かった。
「おはようございます。今朝はお招きいただきありがとうございました」
「んや、いいって。っつか一人で暇だったんだよね」
「お出かけですか?」
「んや、ツレが二日酔いでね。観光へ」
「理由と内容が合致しておりませんが……」
「ツッコんだら負けだよ、総支配人。そんじゃ」
「行ってらっしゃいませ」
グランツロイヤルホテル総支配人ラザフォード・ミュライアと別れた俺は早速街中を見物に行った。所持金は150スラウ。なかなかの大金である。
「鉄臭い近未来……って感じだな」
よくわからない。
街並みは、足元がすべて何らかの金属で加工されており、道端に簡素な出店が並ぶ程度だ。だが、少なくともサフィの国の街並みとは違って現代的なのがなんだか親近感がわく。
「よう!兄ちゃん!この剣どうだい?」
「んや、間に合ってるー!」
「お客さん!今日は取れたての野菜が入ってるよ!」
「おう!俺じゃなくてそっちの貴婦人の方が買ってくれそうだぞー!」
道行く人に声をかけ、自分の商品をアピールする。
今の日本にはあまり存在しなくなってしまった風潮におれは少しだけ新鮮さを感じた。
「おっちゃん、二日酔いに効く薬とかない?」
「まっとれ」
道行く人々と、立ち並ぶ露店の隅っこにひときわ地味な店があった。
店主の白髪の老人はどっから見ても無愛想。ただし、店の軒先にはでっかく『クスリ/雑貨』と書かれていたので俺は何のためらいもなくおっちゃんに声をかけた。
「おっちゃん、二日酔いに効く薬と、首元を隠すものもあったらほしい。一年中使えるやつ」
「待ってな」
おっちゃんを待つ俺は何となく辺りを見回した。
すると、向こうから銀髪の少女と3人の男が走ってきた。
「きゃっ!?は、離して!だれか!!!」
少しすると3人組の小太りな男たちの一人が銀髪の少女の腕をつかんでいた。
「くそっ!静かにしろ!」
「おぃ!裏路地に連れ込め!」
「早くしろ!見られたら厄介だ!!!」
もう見られてますけど。
じたばたする少女の抵抗もむなしく謎の4人は裏路地へと消えていった。
「どうかしたのか?」
視線の向こうに薬を準備したおっちゃんが目をやるが、すでにその姿はない。
「んや、なんだか知らんが銀髪美少女誘拐事件発生?みたいな」
「……ご愁傷様だな」
何か信じられないことを聞いたような老人は何事もなかったかのようにそう言った。
「助け呼ばないのか?」
「国に言っても無駄じゃよ。裏でつながっておる」
「はぁ?なんだよそれ」
「今は、今はダメなのだ」
俺は意味が分からず目を細める。
何かは知らんが、今はダメらしい。
「……終わってんなこの国」
「口を慎め。誰かに聞かれていたらその場で断頭される可能性もあるぞ?」
「あー、無理無理。俺、逃げ足には自信あるから」
「……………………」
無言のおっちゃんに俺は問う。
「…………おっちゃん自身は助けないのか?」
「……わしの立場も考えてほしいの」
わずかな沈黙の後で視線を俺に向けてそう言ってきた。
彼女を助けるという行為は自分の属する国に刃向うのと同じになる可能性がある。
「無茶言ったな。悪かった」
「そういうお前さんはどうなんじゃ?」
俺はこの国の人間ではないので、そう聞かれたのだろう。
「あー、無理、面倒。ご愁傷様。捕まった方が悪い」
「そうか……」
「大体俺どっちかっつうと運動とかあんま得意じゃないっつうか……」
「代金タダにしてやると言ったら?」
突然おっちゃんが口を挟んできた。
何だ、助けたい気満々じゃねぇか。
僅かに俺の口元が歪む。
「いいだろう。交渉成立だ。30秒で終わらせてやる」
この俺がサクッと誘拐犯をぼこぼこにしてきてやる。
俺はぽきぽきと手を鳴らしながら裏路地へと向かった。
「ふぉ、ふぉ……頼もしいの」
老人はそう言って俺が姿を消すまで視線をそちらに向けていた。
口とは裏腹に、その老人の瞳は真剣そのものであったのを俺は知らない。
「むぐっ!?んー!んー!!!」
「よし、口は塞いだ。あとは手と足とか縛れ!こいつ意外と力がある!」
リーダー格の男が手下たちに指示を出す。
残りの2人は指示通り手と足とかを縄で縛って大きな麻袋へと入れる。
「ふー、一時はどうなるかと思ったぜ」
リーダー格の男はとりあえず誰にも見つかることなく(?)仕事終えたのであとは撤収するだけだが、何となく今した仕事の意味が分からなかった。
「何が楽しくて『一国の姫様』なんて誘拐しなきゃならねぇんだか。全くラーギィ様の考えは良くわかんねぇな……」
「で、そのラーギィってどんなやつ?」
「ん?そりゃぁなんだってラーギィ様はこのグランツ王国の宰相だ。最近は払いもよくて、俺たちの闇ギルド『闇夜の黒猫』のことを贔屓にしてくださっているお方だ」
下っ端格Aがどこからか問いかけられた質問に答える。
っつか可愛いな、闇夜の黒猫て。宅急便……?
「で、何でそのラーギィ様がこんな少女の誘拐なんか?」
「なんかしらねぇけどよ、今城じゃぁ内紛が起きそうなくらいピリピリしてるんだってよ。んで、この姫様がカギを握るらしいんだが……俺もよくわからねぇんだよな」
今度は下っ端格Bが説明してくれる。
内紛とか冗談にしても笑えないぞ……っつかなんでいつも突拍子もないんだ。
「なるほど。だから誘拐か」
俺がそう答えると、何かに気づいたリーダー格の男が後ろを振り向く。
案の定そこには俺がいるわけで。
「っていうか、お前ダレ?」
「ん?しいて言うなら正義の味方?」
「「「っ!?」」」
シュッ!ドカッ!バキッ!ボキッ!「あ」
やべ。一人鎖骨砕いちまった。
まぁいいか。誘拐犯だし。治るだろ、骨くらい。
なんかこっち来てから力の調節がいまいちうまくいかないな……。
痛みに悶えながらぶっ倒れている3人を無視して袋に向かう。
「さーてと中身はなんだろな~……ミラさん?」
中身を見た俺は手を止めた。
猿轡をかまされ、何やらわめいているのは理解できるが、問題はその下。両手両足を一つに纏められて縛られているのはまだいい。相手を束縛するのに効果的だ。
でもなんで亀甲縛りされてんの?誘ってんのかコイツ?
とりあえず見なかったことにして袋に詰めた。
詰める際になんだか涙目になってこっちを見ていたが無視。
「大丈夫かおぬし?……というかそれ」
「お、じーちゃん。終わったぜ?薬代タダだろ?」
「ついでにその娘ももってけ」
さらっとすごいことを言い出した。
老人の顔にははっきりと安堵の表情が見て取れる。
「はい?」
いやいや、安堵すんなよ。
「サービスじゃ」
「聞いたことねぇよ!?」
「じゃ、薬は無しじゃな」
「なっ!?ズルいぞおっちゃん!!!……?「ドザッ」っ!!?」
俺が抗議した瞬間。
突然。
本当に突然。
おっちゃんが土下座してきた。
「頼む!」
「おっちゃん!?」
「ミラ様を安全な場所へ!……彼女だけが最後の希望なのです!!!」
もしかして、知ってたなコイツ?……ま、理由は聞くだけ野暮、か。
俺は少し考えて少女の入った麻袋を担いで立ち上がった。
「おっちゃん、睡眠薬と傷薬も付けろ」
「分かった。ミラ様をよろしく頼む」
そこで交渉は成立した。
ここまで頼まれては断るわけにもいかない。
俺は薬と『一年中使えるマフラー』なるものを受け取って人気のない、別の裏路地へと消えていった。
見なかったことにしよう。うん。
何かあれば……