……っとまぁ、こんな夢を見たわけだ
どうも、はんぺn(ry
第14話です。番外編ですが、一応話数に入れております。
そうだ。思い出した。
俺には親なんていなかったんだ。
でも、そんなことはどうでもよすぎて忘れていた。
ただ生きるためだけに人を殺して研究所を破壊して、それから……いろいろしたんだっけ?
---------side倉敷派祓(7歳)---------
「時間だ、入れ」
僕は鉄格子のなかに連れて行かれた。
中にあるのはボロっちい椅子だけ。ただ違うのは手と足のところに鎖がつながっていることくらいか。
カシャン
僕はいつものように椅子につながれ、頭を上に向けたまま固定された。
5,4,3,2,1-----来た。
ぴとっ
僕の眉間の間に水滴が一滴だけ落ちる。
もうかれこれ2年は同じことの繰り返しだ。13秒に一滴だけ水滴が落ちてくる。それを全部できっかり1000回、およそ3時間と30分ちょっと。
ほかのみんなは3か月程度で発狂して処分された。
-----問題はない。どうせ地下で子供を大量に作っている。
階段を下りて、地下室の、一番広い場所。そこで子供は作られている。
無数の検体カプセルに緑色の液体。
そしてなかには様々な成長段階の子供の姿。
もちろんそれが何をするのか意味が分からなかったが、研究員が「子供を作っている」と言っていたのでそうなのだろう。
ただなんだかその光景は悍ましかった。
あれは生き物ではなく、『生きてる物』だ。と、そう思った。
……だとしても、『外』から連れてこられた僕にはまるで関係がなかった。
どうせ今日も『規則正しい生活習慣によって生じる正確な体内時計の研究』とかいう名目で僕たちみたいな子供たちが発狂してゆくのだ。そしたら処分。簡単なサイクル。
「3時57分23秒。まだ時間があるし、暇だな……」
実験は成功している。
僕がそれだ。もはや時計なんていらない。
「ねぇ、君さ、『持ってる』でしょ?」
突然横から声がかけられた。
振り向けば、そこには白のゴスロリ服を着た、自分と同い年くらいの少女の姿があった。髪は白銀色、瞳は輝きを失った赤。それでも彼女の『作り笑い』は普通の笑顔となんら遜色なかった。
『持ってる』とは何を指すのか、僕は瞬時に察した。
「「3時59分43秒、4,5,6……」」
2人の声は完全に一致した。
「やっぱり、君も『体内時計』持ってるんだね?って言う事は君が37番君ね?私は43番。よろしく」
僕たちに名前などは存在しない。名前が付けられるのはもっともっと先の話。
僕と彼女は視線の先に広がる『悍ましい光景』を無表情で眺めていた。
「これ、何してるか知ってる?」
「子供を作ってるんだって」
「ふぅん。この人たち、どうせ全部失敗するのにね?私たちには及ばない劣化生物達なんて生まれない方が幸せだよ」
漢字もよくわからない。初めて聞く言葉だったから、僕は首をかしげたけど、すぐにどうでもよくなった。それになんだか薬品の臭いがする。一刻も早くこの場所を去りたかった僕は彼女を連れて『広場』に出た。
「今日は7人処分されたんだ……」
数えてみれば昨日よりも7人子供たちが少ない。
でも誰も気に留めない。そういうシステムだから。
ある子は床をびっしりと数列やら文字式やらで埋め尽くし、ある子は天井から壁、床まで隙間なく複数の色の図形で塗りつぶそうとして、さっきの子と喧嘩になってる。
「あの数式間違ってるわね」
「ホントだ」
「あの絵も、あれじゃ埋めつくせない。少し余るよ」
「そうだね。でも、あの2人ならこれくらいわかるよ」
喧嘩しているその光景は数秒続いた後、互いの間違いを指摘し、和解した。
そして今は2つの円を適当に重ね、そこに線を引いて遊んでいる。
実際は何かしらの数式を解いているのであろうが……僕は彼女に手を引かれて『図書館』に移動した。そこには10冊程度の、それぞれ言葉の違った本をまとめて読む少女、一度見た辞典の内容を丸暗記し、ぶつぶつとつぶやいている少年、3歳にも拘らずノートパソコン3台をカタカタと弄っている男の子がいた。
ただ、全員共通していることは、瞳に生気が宿っていないことくらいか。
学者が見れば腰を抜かすであろう光景が広がっていることをここにいる子供たちは知る由もない。
ただ、することが無かったからやっているだけ。外の人間が自分のことを『天才』だと評価してもその子には「それなら、もっとすごいお兄ちゃんとお姉ちゃんがいる」と胸を張って全員が口にする。
それが僕と彼女のことを指しているという事実は未来永劫知ることはない。
ふと彼女を見ると、彼女は不機嫌な表情をしながらまた僕を別の場所に連れて行く。
つれてきたのは触れるだけでも危険な劇毒劇薬物が保管されている科学実験室。
「此処は……かがくじっけんしつ?……だね」
「よかった。さすがにここにはだれもいない」
僕は彼女に手を引かれて隅で腰を下ろした。
2人とも体育座りで壁にもたれかかる。わずかな沈黙の後で、彼女は僕の左腕に抱きついてきた。
「「んっ」」
そして、何かと思って顔をそちらに向けたところで口を彼女の口で塞がれた。
最初、何が起きたのかがわからなかった。むろん、いま彼女が何をしているのかも見当が付かなかった。ただ見えるのは目をつぶった彼女の顔だけ。
ちゅく「「ぷはっ」」
「どう?甘かった?」
「うん、なんだかチョコの味がした」
それはさっき彼女が食べたチョコの味だとは2人とも気づかない。
「今の何?」
「わかんない。絵本に書いてあったからマネしてみたの。特別な人とするんだって」
「僕が特別な人?」
「うん。だって、『体内時計』持ってるの私と君だけだし。それにね、さっきのは特別な人に『好き』って伝えるようなものなんだって」
「僕食べられちゃうの?」
「ううん。そういう『好き』じゃない『好き』なんだって。ずっと一緒にいたいと思う人とずっと一緒にいたいと思うことが『好き』なんだって。絵本に書いてあった。」
「僕のこと好き?」
「うん。だって、一緒にいたいもん。ほかの子はどうせあと少ししたら処分されちゃうでしょ?」
「そうだね」
さも当然のように僕たちはうなずき合った。
それがどれほど異常な感性なのかを知るのもまだまだ先の話である。
「じゃぁ、僕も43番ちゃんのことが好き。ずっと一緒にいたい」
うん。と彼女が満面の作り笑いでうなずいた。
するとそこへ……
「なぁ、聞いたか?あの異常な2人」
「あぁ、何でも処分するらしいぜ?」
「何でだよ?研究成果に一番貢献してるのってアイツらじゃなかったか?……確か37番と43番」
世間話とは程遠い内容の会話をしながらこの部屋に入ってきた。
瞬間、僕と彼女は机の陰に隠れて聞き耳を立てた。
「天才過ぎるんだと。これ以上の変化は見られないほどに脳が発達しすぎちまってるって。やっぱり5歳で波動方程式は不味かったんじゃないのか?」
「男の方はともかく、女の方は可愛かったってのに、残念だな」
「お前、ロリコンかよ……」
などと本人の前で談笑する研究職員たち。
ふと僕が横を見るとそこにはすでに彼女の姿が見えなかった。
「あれ?」
「ぐ、ぎゃぁぁぁぁぁ!!?」ドサッ
「ど、どうし……」ドサッ
「ひっ、ぐぶっ!!?」
ドサッ
背中から腹までが溶けて空洞になった男の遺体と頭から心臓のあたりまでが溶けてなくなった遺体と後ろから喉に何か刺さった遺体が瞬時に転がった。
言うまでもなく、全てが彼女の仕業だ。
そして仕事を終えた彼女は僕のところへと戻ってくる。
「いこっ!♪」
彼女は笑っていた。
死んだ瞳と満面の作り笑いで手を差し伸べてくる。
僕は、彼女だけは『生きている物』じゃないと思った。
地下にいた男女、ただ与えられた仕事を全うする研究員。自分と彼女以外の子供たち。
その全てが『生き物』だなんて思えなかった。
自然に笑うことのできない僕は作り笑いでその手を取った。
---------sideout---------
その後はのことはあまり覚えていない。
ただ、あの後アメリカに渡った時からは思い出せる。偶然、修行に来ていたいかにも胡散臭そうな老人と山奥で5年暮らし、その時に『倉敷派祓という名前』、『生き残る術』、『一般的な子供の在り方』を教えてもらった。13歳になったころ、何でも成績優秀者に奨学金で授業料を全額免除にしてくれる有り難い大学があったため、入学。その後飛び級し3年で卒業。その後日本に渡り東京にある某高校に編入。内容がつまらな過ぎて3日で自主退学。18歳になったころ大学への受験が認められるというので取り合えず東大を受験。合格し4年を過ごして今に至る。
-----そして、そのあと、知ることになる。
-------意味不明な神様に飛ばされた異世界で彼は、
---------『知るはずだったのに知らなかったモノ』を知る事になる。
子供のころからこんな事してりゃ、そりゃ歪みますわな…
何かあれば……