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いつまでもフォークで突付いていた皿をやっと片付け、栄賢がウェイターを呼んだ時、修英が口を開いた。
「ここに居る月陵は、もうすぐ二十歳になる」
ああ、未だ二十歳になってなかったんだな、と栄賢は思う。
「従兄さんたちにとっては母上違いの弟なわけですが、これまでは私が彼の面倒を見て来た」
「前置きはいい」
立賢は苛立たしそうに言った。
修英はにやりと笑った。だから、あんたは結構好きなんだ、胸のうちで呟く。
「月陵にも、林家のビジネスを分配するべきです」
修英の横で、月陵の頬がピクリと動く。
立賢がフンと鼻で笑った。
「林朔伯父の、そう、正規でない仕事は、俺が一手に引き受けて来た。そのお陰であなたたちはこうやって紳士として何処にも恥じない人生を送っている」
「それを感謝しろと言うのか。表裏を分かったのは、親父だ。私たちじゃない」
「地下からの水揚げを知らないとは言わせない」
「脅すのか」
「とんでもない。俺たちは皆林家の兄弟じゃないですか。あなたたちは表、俺は裏。その違いがあっても、林家の発展の為に尽くそうと言う気持ちは同じですよ」
「わかった、もういい。私を苛立たせようと言う策なのだろうが、そんな事は互いに承知の事項だ。お前の言いたいのは、こうか。才能の溢れる若いお前が、いつまでも裏社会でくすぶっているのは惜しい。いずれ、社会的に認知される紳士的な仕事もしたい、と。その為に月陵を石杖にするのだな」
「いいえ。彼の当然の権利です」
立賢はその言葉を無視した。
「杜月笙をお手本にでもしているのか」
孤児から身を起こし、青幇社会で隠然とした力を振るう上海の大ボスは、先来より熱心に表社会での地位も築こうと奔走していた。電話会社を始め、いくつかの合法的な会社の役員に名を連ね、早晩、上海紳士録にもその名を記載させようと言う勢いだ。
「俺の手本は朔伯父ですよ。それに、あなたは俺の才覚を買っている筈だ」
濁りの無い目で修英は立賢に視線を返す。
「自惚れの強い男だな」




