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翌日。
一人は白い喪服に身を包み、叔父の葬列に参加した。
城内より更に南に下った地域の小さな墓地に叔父は埋葬された。
「なぁ、一人。俺は死んだら自分の体を灰にして海にまいてもらいたいと思うよ」
いつか、麻耶山から瀬戸内海を見下ろした時、叔父はそう呟いたことがある。
だが、多分、そんな遺言を残す暇もなく、叔父は死んでしまった。
参列した大部分は、寧波幇の裾野に参加する人々だった。一人は彼らと一緒に、紙で作った偽の紙幣を焼いた。あの世で、叔父が金に困らないように。この世に残った 人間たちが、亡くなった人間にしてやれる最後のことだ。紙幣を燃やしている時、一人は初めて参列者の中に見知った顔があるのに気付いた。若い、いかにもは しっこそうなあばた顔の男。小六はすぐに一人の視線に気付き、少しだけ顎を引いた。
「今日は皆様、有難うございました」
未亡人が最後の言葉を締め括ると、参列者は三々五々散って行った。
呆気なかった。都会ではこうなのか。それとも、叔父の死因がその理由なのか。
城内の屋敷に帰り、脱力したように喪服を脱いでいると、唐が一人を呼びに来た。
「車引きの小六が呼んでる。いつあいつと知り合ったんだ?」
唐の不思議そうな表情に曖昧に答えて、一人は庭先に出た。
所在なげに煙草をふかしていた小六が、出て来た一人を見て人懐こい笑顔を向けた。
「あんたが老周の甥だなんて、思いもしなかったよ」
開口一番、小六が言った。
「ああ。僕もこんな所であんたに会うとは想像もしてなかったよ」
「世間は思ってるより狭いってことだな」
「叔父を知っていたのか?」
「俺がまがりなりにも街のゴロツキにならずに済んだのは、親父さんのお陰だからな。車を買う金を貸してもらった。車は借り物じゃねぇ、俺のだ。ま、その借金を早いとこ返さなくちゃって勇み足でカツ揚げなんてやってるようじゃ、恩を仇で返したのと同じだけどよ」
小六は自嘲気味に言った。
「こんなとこであんたに会ったのも、悪いことは出来ないってことだな。これからは本気で心を入れ替えるつもりだよ。ところで」
一人のジャケットの袖を引っ張って、小六は顔を近づけた。
「葬儀中に、珍しい奴らが潜り込んでるのを見たぞ」
「珍しい奴ら?」
「林修英とこの三下だ。二人ばかりな。いつの間にか居なくなっちまったが、間違いねぇ。何度か李月陵と一緒に見回りに出てるのを見たことがある。あいつらは寧波幇じゃねぇし、親父さんと係わりがあるとも思えない。ありゃ、探ってやがったのさ」




