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第4話 守命

 私と、私の組み立てた足の長いスケルトンは、黙々と残る骨の組み立て作業に熱中した。

 私は彼、または彼女かもしれないスケルトンのことを、古代ギリシャ神話にちなんで「原初神」ゼウスと呼んでいる。そう呼んでも最初は何の反応も示さなかったゼウスだったが、何度か呼ぶうちに「ゼウス」という言葉に反応して、こちらを振り向くようになった。その姿は、まるで犬か猫だ。スケルトンにも、その程度の知能はある、ということだろうか?

 二人で力を合わせ、一体、一体と組み立てて行く。スケルトンが完成するたびに、隠れ家の中は賑やかになっていった。とは言っても、単に皆が動くたびに互いの骨がぶつかり合うからだけなのだが……。

 そして、いよいよ11体目が完成し、12体目に取りかかろうとした時、私は気がついた。

 どう見ても、骨の数が足りない。無論、ゼウスに付け加えてしまった足の骨の本数を含めてもの話だ。

 「あれ? 集め損なったかな?」

 私と11人のスケルトンは、慌てて彼らがバラバラになった回廊へと向かうが、そこには一本の骨も落ちていない。往来が激しい場所故に、誰かが持っていったのかもしれないし、或いは踏み砕かれてしまったのかもしれない……そう思い、一同、途方に暮れる。私と11人は、肩を落として隠れ家へと帰った。

 

 回廊で拾った大きな袋に余った骨を詰め、最後に頭がい骨を入れる。足りない骨の数は、百を超えるだろう。12人目を完成させる事は出来ない。私は無力感に苛まれながら、袋の口を閉じ、隠れ家の隅にそっと置き、頭を垂れ、両手を合わせる。

 ふと、私は、いつも騒々しい部屋の中が静かな事に気が付く。私は恐る恐る後ろを振り返る。

 視線の先では、11人のスケルトンが皆、私の真似をしていた。


 仲間たちと過ごす隠れ家での生活が始まった。元々、きれい好きな私としては、泥と埃、得体の知れないゴミが散乱する場所で日々、過ごす事など本心から嫌だったのだ。

 「せめて、清潔な生活を――」

 スローガンを掲げた私は、この隠れ家を快適な空間とすべく、大掃除を決意する。幸い、回廊の隅に魔女ウィッチの持ち物だったと思われる古ぼけた箒が落ちていた。それを手にして、隠れ家の天井や壁の埃を払い、奥側から回廊側に向かい、静かに塵や埃を掃き出す。私の箒の動きに合わせ、11人の仲間達が首を微かに振るのが何とも滑稽だ。

 大まかに掃き掃除を終えると、湿った床を雑巾代りのボロ布で磨く。私が丹念に磨く姿に感動した訳ではないだろうが、仲間達もどこからか調達した布切れを手に床の乾拭き作業を始める。

 20畳ほどの広さの隠れ家は、日を置かずして清潔で快適な空間へと変化していった。


 隠れ家には、稀にパーティーが侵入してくることがあったが、そんな時、私達はとにかく逃げる事にした。運の悪い何体かが犠牲となってバラバラにされることはあったが、パーティーが去ったらすぐさま、とって返し、骨が紛失する前に素早く仲間を組み立てることに全力を集中した結果、大事には至っていない。

 見たところ、この辺をうろついているパーティーは初級者同然の連中ではあったが、そんな奴ら相手でも、我々が正面から戦って勝てる見込みは、今のところ、あまりないようだ。

 そんな逃げ回る日々ではあったが、いつも必ず逃げ遅れるスケルトンが一体いる事に気が付いた。そのスケルトンは、どうやら戦意パラメータが他のモノよりも、やや高めに設定されているらしく必ず一度、相手に立ち向かう為、常に最初の犠牲者となってしまうのだ。

 だから、そのスケルトンはいつも傷だらけであり、頭がい骨の額部分には、その戦歴を表すかのようにさまざまな角度の傷跡が誇らしげに刻まれている。

 私は、その頼りになる勇敢な戦士を、やはりギリシャ神話の勇ましい軍神から拝借し「アーレス」と名付けることにした。


 私が、彼らの言語を習得するのにどれぐらいの時間が必要だっただろうか。

 頭がい骨内のダイオウムカデが成人し、新居に新妻を迎え、愛を語り合う頃になると、私はほぼ完璧にスケルトン語を聞き分け、話せるようになっていた。スケルトン語の語彙は予想以上に少なかったが、考えてみれば、日常生活というものが存在しない為、そういった基礎的な単語が存在しないからなのだろう。 

 彼らの日常は、基本的に「移動」か「待ち伏せ」の二者択一で成立しているらしく、外に出たがらない私の行動を見た彼らは、この隠れ家に籠る行為を「待ち伏せ」と認識しているらしい。私としては、無用な戦闘を避けたいだけなのだが……。


 ある時、この隠れ家に招かれざるパーティーが侵入してきた事があった。いつもの様に、アーレスが受けて立ち、その他のモノは一斉に隠れ家から逃げ出す。いつもと同じ行動、パーティーが去った後、小部屋に帰り、バラバラのアーレスを組み立てる……という御約束のパターン。

 その時も、そのつもりだった。

 「…………」

 パーティーが去った後、私達は隠れ家に戻った。入口付近に散乱するアーレスの骨を見て、私は言葉を呑む。アーレスの肩甲骨と鎖骨が砕かれているのだ。心なしか、床に転がるアーレスが申し訳なさそうな顔をしている様な気がする。

 「不死者アンデッド」である事を引き替えとして、成長する事のない我々は、怪我が治る事が無い。つまりは治癒能力が存在しないのだ。


 仲間の一人、便宜上、その美しい頭がい骨の形から「アルテミス」と呼んでいるスケルトンが私の手を引く。アルテミスの仕草を見た「アテナ」が右手の拳を振りおろし、左の掌と打ち合わせ、カチリッと硬質な音を立てる。

 ……もし、手に肉が付いていれば「ポンッ」と良い音が響いただろう、何か思い付いたらしい。アルテミスとアテナは二人で隠れ家の隅から、骨の詰まった袋を引き摺って来た。

 例の12人目の骨だ。

 私は、二人の妙案に驚き、大いに頷く。アーレスの失われた骨の代わりに、この骨をスペアとして使うのだ。

 早速、必要な骨を取り出す。肩甲骨と鎖骨だけでなく、アーレスの骨には繰り返し打撃を受けた結果、傷だらけで脆くなっている部位が多いので、これを機会に極力、新しいモノと交換する事にした。この案に仲間達も賛同したらしく、我先にと袋から様々な骨を取り出し、アーレスのレストアを始める。

 早い、早い。

 あっという間にリニューアルしたニュー・アーレスが完成する。だが、やはり……私は手を出すべきでは無かったのかもしれない。

 この日からアーレスは左右の腕が2本ずつという姿になってしまった。



 手が四本になったアーレス。見ようによっては、まるで勇ましい阿修羅像の様にも見える。二本の剣と二本の盾を操る勇敢無比なる軍神いくさがみ

 アーレス自身は、この新たな仕様の身体が気に入った様子で――――あると信じたいが――――少なくとも実に器用に四本の手を操っている。

 アーレスの姿をぼんやりと眺めながら私は考えていた。

 我々スケルトンの弱点は衝撃に対する弱さにある。しかし、この弱さのお陰で、今まで我々の骨は折れずに済んでいた。折れる前に関節の結合が崩壊し、その衝撃を受け流してしまうからだ。同時に関節の崩壊は戦闘力の消滅を意味する。

 別段、戦いたいとも、勝ちたいとも思っていないが、戦う事を運命づけられているモンスターとして、この衝撃に対する弱さはあまりにも不安な要素だ。

 今回はたまたまストックの骨から「部品取り」が出来たが、それがいつまでも可能な訳ではない。いずれ、部品が足りなくなった仲間の組み立てを諦め、一人、一人と減っていくのは目に見えている。

 「戦う以上、勝たなくてはいけないのか……」

 私は、上顎骨と下顎骨を打ち鳴らし、知らず知らずのうちにそう呟いていた。


 私は行動に移った。仲間達も一斉に付いてくる。最近になって気が付いたのだが、どうやら、スケルトンの行動習性は基本的に「自分を組み立ててくれたモノの行動に従う」という設定になっているらしく、それも最後に頭がい骨を取り付けたモノに従うようだ。

 私がゼウスを組み立て、その後、ゼウスと二人でアルテミスを組み立て、ゼウスとアルテミスと私がアテナを組み立てて……つまりは、私という存在は仲間達にとって、どうやらドミノの最初の一枚ということらしい。

 まるで大家族の大黒柱にでもなった様な気分だが、仲間達が私を尊敬している訳でも、崇拝している訳でも無い。しかし、まるで犬か猫の様に私の後ろを従順についてくる仲間達を見ていると、何か言葉にするのも恥ずかしい様な、特別な感情が沸いてくる。


 仲間を守りたい――――。


 私は純粋にそう思いはじめていた。


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