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エピローグ:物語という窓

### 師の入滅


 物語は数年後、テンジンが静かに入滅した後のある日の情景で終わる。


 彼の死は通常の死ではなかった。弟子たちが見守る中、彼の体は徐々に光となって溶けていった。最後に残ったのは、彼の着ていた袈裟と、美しい虹色の光だけだった。


 虹の身。チベット密教の最高の成就。肉体を光に変換する究極の変容。


 「師は......本当に虹の身になられた......」


 ロサンが涙ながらにつぶやいた。


### 継承される教え


 一人の若い弟子、ドルジェが師がいつも座っていた場所で静かに瞑想を深めている。彼は師が残した矛盾に満ちた難解な言葉の意味を頭で理解しようとすることをやめていた。


 ただ師が指し示した方向へと自らの意識を深く沈めていく。


 風がタルチョを揺らす。バターランプの炎が静かに揺れる。


 そして瞑想の深まりと共に、ドルジェの心に師の最後の教えが響いた。


「悟りとは......特別な体験ではない......いつもの意識に......いつものように気づくこと......」


「君が今......この言葉を理解している......その理解そのものが......悟りなのだ......」


### 読者への最後のメッセージ


 そして読者は最後の最後で気づくのだ。


 テンジンが体験したあの壮大な意識の遍歴。それを追体験してきたこの物語そのものが、彼が弟子たちに残したかった、そして今この本を閉じようとしている我々読者にさえも遺したかった究極の真理を体験させるための一つの「窓」だったのだということに。


 この物語を読んでいる「あなた」は誰なのか?


 登場人物たちの体験に共感し、理解し、感動している「その存在」とは何なのか?


 テンジンが発見した宇宙意識とは、実はこの瞬間、この文章を読んでいる「あなた」そのものではないのか?


 物語は終わる。だが、それを読んだ体験、それを理解した意識は続いている。その継続する気づきこそが、テンジンが発見した不死の意識、永遠の存在なのだ。


### 真の教え


 書物は閉じられる。だが真理は開かれる。


 なぜなら、真理とは特別な場所にあるものではなく、この瞬間、ここで、何でもない日常の中で輝いているものだから。


 お茶を飲む時、歩く時、眠る時、そしてこの物語を読み終えた時。


 いつでも、どこでも、あなたはすでにそれなのだ。


 「それ」とは、テンジンが発見した宇宙意識。全ての現象を知る純粋な気づき。始まりも終わりもない永遠の存在。


 旅は終わらない。なぜなら、あなた自身がその旅そのものだから。


### 最後の詩


 最後に、テンジンが入滅前に残した詩で物語は締めくくられる:


 *山は動かず*

 *雲は流れる*

 *だが見ている者は*

 *山でも雲でもない*


 *それは空のように*

 *全てを包み*

 *水のように*

 *全てに浸透する*


 *あなたがそれを*

 *探す時*

 *あなたはすでに*

 *それそのものだ*


 *これを読んでいる*

 *今この瞬間*

 *ここに真理が*

 *輝いている*


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