表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/10

序章:予兆

 カイラス山から吹き降ろす風は、まるで古の記憶を運んでくるかのようだった。標高四千五百メートルのこの聖地で、空気は薄く、しかし魂には濃密だった。


 ゴンパ(僧院)の朝は、いつものようにホルン(チベットの長いラッパ)の低く響く音色で始まった。だが今朝は違った。いつもなら三十分間続くはずの法螺貝の音が、わずか十分で途切れた。


 若い僧侶ドルジェは、師のテンジンの部屋の前で立ち止まった。木製の扉の向こうから聞こえるはずの、規則正しい朝の読経の声がない。代わりに、まるで宇宙の鼓動のような、深く、ゆっくりとした呼吸音だけが漏れ聞こえてきた。


「師父......?」


 彼の声は、薄い空気に吸い込まれるように消えた。


 ドルジェの心に、奇妙な予感が芽生えた。それは恐怖ではなく、むしろ畏敬にも似た感情だった。二十年間師事してきたテンジンの教えが、突然、頭の中で鮮明によみがえってきた。


「死は終わりではない、ドルジェよ。それは、より大いなる旅の始まりに過ぎない」


 師がかつて語った言葉が、今、現実味を帯びて響いていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ