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第7話(誠爾の部)

自身の使命を定め、迷いを断ち切った誠爾であったが、一つだけ気掛かりなことがあった。航海科として乗員している無二の親友、宗正の事だ。


宗正は幼馴染の冨美と祝言をあげ夫婦めおととなったばかりだった。誠爾と宗正、そして冨美は幼いころから、いつも三人で一緒にいた。兄弟の同然の宗正と冨美が夫婦になり家族ができたことは、誠爾にとってはこの上ない喜びであった。


これから大和は玉砕覚悟の戦いに挑むことになるやも知れぬ。独り身の誠爾としては、その使命に迷いはない。しかし宗正には、これからの家族の為にも何としても生き延びて冨美と幸せな人生を送って欲しかった。そしていつか生まれた子が未来の日本を創り、それがアヤの生きる未来に繋がるのだ。


4月に入り、美しく櫻が舞う季節となった。徳山での束の間の時間に誠爾は宗正と櫻を見ながら酒を酌み交わした。


「誠爾、貴様とこうして酒を酌み交わすのは最後になるかも知れんな」


「そうだな」


「いつかきっと櫻の下でまた会おう。二人で立派な最期を遂げよう」


「いや、宗正。貴様は生きろ。俺とあの世で再会するのは貴様が人生を全うした60年後だ。冨美と共に生き、子と共に生き、未来の日本を、新しい日本をつくれ」


「なんだと!誠爾!貴様は自分は国のために尽くすが、俺には軟弱に逃げろと言うのか!」

誠爾は宗正に胸ぐらを掴まれた。


「違う!そうではない。俺が言いたいのはそんな次元の話ではないのだ。もっと崇高な、未来の日本のためだ!」

言い終わらぬうちに頬に衝撃を受けた!宗正に殴られたのだ。


「誠爾、いくら貴様でもこれは許せん」

宗正は尻餅をついている誠爾を睨んでいる。


口の中が切れた様だ。口角から滲む血を拭いながら立ち上がり誠爾は続いける。

「聞け、宗正。今、国を護るのと同じく、いや、それ以上に戦争が終わった後の日本の未来を創ることが必要なのだ!」

「逃げろ、と言っている様にしか聞こえん!これ以上言うならもう一度殴るぞ!」

「命を賭して国を護るのは俺がやる。そして未来の日本は宗正、貴様に命を賭して創ってほしいのだ、託したいのだ!」

再び誠爾は頬に衝撃を受け、後ろに吹っ飛んだ。

「誠爾、親友だと思っていたが、ここまでの様だ」

尻餅をつく誠爾に一瞥をくれ、宗正は去ってしまった。


 理解してもらえないのも無理はないのかもしれない。追い込まれた戦況の中、今は誰も彼もお国の為に尽くすことしか考えられないのだ。


以降、誠爾が艦に戻っても宗正は言葉をかけて来ることはなくなった。


艦での僅かな自由時間を見繕い誠爾は図書室に赴きアヤに向けて近況を書いた。


<満開の櫻を見ました。無二の友がいつかきっと櫻の下でまた会おうと言うので、貴様は生きろ、再会するのは貴様が人生を全うした60年後のあの世だ、と言ったら、大喧嘩になりました。二発殴られました。>


いよいよ戦況が差し迫ってきた。4月5日。大和総員に甲板への集合がかかった。そこで、沖縄海上にて艦船攻撃を行う旨が伝えられ「本作戦は特攻作戦である」と告げられた。


いよいよ来たか、と誠爾は思った。ちらっと宗正を見ると、周囲の仲間と、よしやるぞ、立派に散ろうじゃないか、と鼓舞し合っている。


その日、誠爾はもしかしたらこれが最後になるかもしれないと思い、図書室に赴いた。アヤからの返事はないが、アヤに向けて最後の文を書いた。


<徳山の地を発ちます。覚悟は決めました。無二の親友とは喧嘩をしたままですが彼には妻がいます。将来、子もできることでしょう。必ず私が彼を生かして帰します。文のやり取りはこれで最後になります。これから戦艦大和は最後の作戦の為、出撃します。もしアヤさんに機会があれば、指宿にある壽工房を訪ねてください。>


そして、本をしっかりと閉じ紙紐できつく結んだ。


4月6日、少尉候補生や傷病兵に退艦命令が下った。艦に残る者たちは皆、死を覚悟し、最後まで立派に、お国のためにと決意を表明している。そんな異様な雰囲気の中、君が代を皆で斉唱し万歳三唱をもって少尉候補生達は退艦した。


そして徳山から戦艦大和は最後の出撃に向かった。



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