第6話(誠爾の部)
もし、この文が時間旅行をしていると仮定するのならば、アヤは全く別の時間、場所から返事を書いている可能性がある。
どのように返事をしたらよいのだろうか?今、呉にいる事実。これに齟齬が生じるかどうか試してみたらどうだろうか?
何か反応を見せる筈だ。
<アヤさん お返事が書けず大変申し訳ない。今、呉におります。>
停泊地を徳山に移す作戦が完了し、最近は僅かだが図書室に行ける時間を見繕える。翌日、図書室に行ってみると返事が来ていた。
<ここ、東京です。どういう意図でそんな架空の設定をお書きになるのですか?ヤマトホテルや武蔵屋旅館もどこにあるのですか?ネットで調べましたが大昔、戦争中に戦艦がそう揶揄されていたという記事しかでてきませんでしたよ>
意味が解らなかった。だがある意味、腑に落ちた。やはり時間旅行をしているのだと。そう受け止めると、いくつか見えてくることがある。
戦争中にヤマトホテルと揶揄された事実は過去の出来事として伝わっている。戦争の行方は読み取れない。だが、少なくともアヤが生きる時代には戦争は終わっている。しかもアヤが生きている時代から見れば「大昔」にだ。感覚的には10年、20年ではないのであろう。数十年も昔に戦争が終わり、自由に文を書ける時代、女性も当然のように大学に通える時代になっているのだ。そして高品質な紙、美しい印刷、滑らかなインクなど、技術も凄まじく進化している。東京はアヤの生きる未来にも存在し、櫻は美しく咲き誇っている。
そして、何よりも誠爾が強烈に感動したのは、同じ文字、同じ言葉を使う日本人がそこにいる!他国の言語を強いられるような時代にはなっていなかった、という事実だ。
現状、戦況は悪化しており、海軍も戦線を後退、縮小させている。大本営も玉砕を主張する者と、敗戦が確定的になる前に少しでも有利な条件での講和を主張する者で揉めていると聞く。誠爾はもはや日本には未来はないのか、何のために命を懸けて戦っているのかと気持ちがぐらつくこともあった。
だが未来の日本を垣間見て、誠爾は自分の使命がわかったような気がした。
未来に日本はあった!いや、国家として日本があるのかはわからない。戦勝国の属国になっているのかもしれない。しかし、同じ文字、同じ日本語が残っているのは間違いない。他の言語を話す国とはなってはいないのだ!
この国に未来がある、未来の世界線においてもこの国が存在することをわかった今、そこに繋がるものを護っていかねばならぬのだと決意した。




