第14話(一陣の風)
7月、私は祖父と共に曾祖父と曾祖母のお墓参りをした。墓前に着くと祖父は目を閉じ頭を下げて何かを伝えるようにぎゅっと力を込めて手を合わせている。音もなく祖父の頬を涙がつたう。
曾祖父は誠爾さんに救われた。曾祖父が生きて帰ってこなければ、祖父も生まれなかったし、そうなれば当然私も存在しない。
私は今、自分がここにいることは奇跡のような出来事だ、と感じた。身を挺して命を継いでくれたおかげなのだ。今、みんなが必死に大切な誰かを護っていたことに胸が熱くなる。
これは美談なんかじゃない。戦争の引き起こす悲劇だ。起こってはいけないことなんだ。人を殺して国の勝敗を決めるなんて、国家の愚行だ。たくさんの人が死にたくさんの悲しみを生む愚かな行為は絶対にしてはいけない。
今も昔も多くの人はそう思っているだろう。それなのに、なぜ戦争が起きてしまうのだろう。資源やエネルギーなど国として必要なものはあるのだろう。政治体制、民族、宗教など守りたいものもあるのだろう。でもそれらを成し得る手段が戦争であるのはあまりにも短絡的だ。巻き込まれてしまった人達は誰かの幸せを護るために、未来を護るために、取り返しのつかない犠牲を払うことになる。そのことを忘れてはいけないんだ。
私も手を合わせ、心の中で報告する。
ひいおじいちゃん、誠爾さんが救ってくれたんだね。そのお陰で私がいるんだね。誠爾さんの他にもきっと多くの人に助けられたお陰で、みんなが命を紡いでくれたお陰で、私が今ここにいるんだね。ありがとう。哀しい出来事だったね。こんな悲劇は絶対繰り返してはダメだよね。
中園さんはお元気でした。ひいおじいちゃんやひいおばあちゃん、そして誠爾さんのことを話してくれたよ。私はもっとちゃんとひいおじいちゃんやひいおばあちゃんの話しを聞いておけばよかった。誠爾さんの辞世の句も忘れていました。ごめんなさい。本当にごめんなさい。
誠爾さんとは再会できたかな。仲直りできたかな。私は誠爾さんから柘植の櫛をもらったよ。80年越しの不思議な贈り物なんだけど。ひいおじいちゃんは信じてくれるかな。大切に使うから誠爾さんに会ったらお礼を伝えておいてね。
ひとしきりの報告を終えた時、一陣の爽やかな風が私の頬を撫でた。風の行く先に一片の櫻の花弁が見えた気がした。




