第13話(綾を織りなす)
私は何も言えなかった。ただ、だだ目に涙を浮かべ鼻水を啜りながら、必死に中園さんの話しを聞くだけだった。
なんて悲惨な状況だったのだろう。
なんて悲しい出来事だったのだろう。
中園さんはかなり言葉を選んで話してくれた。本当はもっと血生臭く、凄惨で、目を背けたくなる様な筆舌に尽くし難い残酷な光景がたくさんあったのだろう。
戦闘機からの機銃で撃たれてしまった誠爾さん。撃たれれば当然、命はない。それを承知で身を挺して曾祖父を守ってくれた。
迫ってくる機銃の前に飛び込むなんて怖かったよね。たくさん撃たれて痛かったよね。一人で海に取り残されて寂しかったよね。海の中で苦しかったよね。寒かったよね。悲しかったよね。誠爾さん、もっと、もっと生きたかったよね。
ひいおじいちゃんも辛かったね。自分を後回しにしてまで誠爾さんを助けようとしたのに。悔しかったよね。助けたかったよね。
なんでもっと早く気がつかなかったんだろう?私は大和の行く末を知っていたのに。ひいおじいちゃんの話しをもっとちゃんと聞いていたら気がついたのかな?未来から何かできることはなかったのかな?助けてあげることはできなかったのかな?
誠爾さんの最期を思うとたくさんの想いが押し寄せてきて、感情が決壊した。
「親父ぃ、話しすぎだ。お嬢さんが泣いてしまったじゃないか!」
息子さんが、中園さんをたしなめる。
「いいえ・・・違うんです。ただ・・感情が・・溢れてしまっただけで」
自分でももはや涙か鼻水かわからない。ぐしゃぐしゃに泣き濡れた顔をハンカチでおさえながらなんとか言葉を発する。
「・・・大丈夫です。私は中園さんの話しを聞きに来て、知りたいことが知れました。本当に大丈夫です。話してくださってありがとうございます」
私は鞄の中から和紙の包みを取り出す。
「これ、届けて下さった柘植の櫛です。それからこれはその包みに同封されていた誠爾さんの句です」
私は柘植の櫛と誠爾さんの辞世の句を中園さんに見せる。
「届いて良かった。受け取って下さって良かった。これであの世で誠爾さんに顔向けできます」
中園さんは嬉しい様な悲しい様なホッとした様な、なんとも言えない表情をしているが、その目は潤んでいる。
改めて誠爾さんの句を見つめる。
我も花も 護国に散れど 花はまた
永代を経て 綾を織りなす
綾は私だ。私のことだ。きっとそうだ。誠爾さんは未来を知っていたから。未来に希望を抱いていたから。散ってもまた咲いて、花咲く季節を繰り返して、繰り返して・・・何年も何十年も繰り返して・・・。そんな長い月日を経て、いつの日にか私に繋がって欲しい、私の生きる平和な未来に繋がって欲しい、皆が自分の人生模様を織りなして欲しい、という誠爾さんの願いなんだ。




