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第11話(中園弦元の部)

「突然押しかけてすみません。私、篠崎綾といいます。中園 弦元つるもとさんに壽工房の櫛のことをお聞きしたくって、押しかけてしまいました」


突然の訪問にも関わらず、中園家は私を快く迎えてくださった。

「中園です。弦元は私の親父です。わざわざ遠いところをよくいらっしゃいました。さ、上がってください」

中園さんは息子さんのご家族と一緒に住んでいた。


「親父はちょっと耳が遠くなっているけど、話す分には大丈夫です。98歳ですが、まだまだ元気で。さ、奥へどうぞ」

奥の居間に案内される。居間のソファーには中園弦元さんと思しき老人が座って待っていてくれた。ガッチリとした体格で、昔は柔道か何かをやっていたのかな、などと勝手な想像をする。


「こんにちは。お邪魔しています。私、篠崎綾といいます。80年前に中園さんが一之江誠爾さんの櫛を壽工房に届けてくださったとお聞きしました。その時の話をお聞きしたくて・・・」

と改めてご挨拶する。


「ああ、よく来て下さった。あなたがアヤさんですか。どんなお人が訪ねてくるのかと、ずっと、ずっと待っておりました。これでようやく征爾さんとの約束を果たせる。さ、お座りください」

私は小さなテーブルを挟みソファーにいる中園さんの正面に腰を掛ける。


「アヤさん、あなたは篠崎の家のお人なんじゃなぁ。冨美さんによく似ていらっしゃる。懐かしい・・・」


「冨美・・・、篠崎冨美ですか?私の曾祖母をご存じなのですか?」


「ええ。篠崎冨美さん。よく知ってますとも。旦那さんの宗正さんもよぉく知っております。海軍では宗正さんと誠爾さんには可愛がってもらいましたよ」

中園さんは目を細め嬉しそうに微笑む。


「曾祖父もご存知なのですね!中園さんに櫛を託した誠爾さんと私の曾祖父宗正は親友だったと聞いています」

櫛の包みに同封されていた誠爾さんの辞世の句が曾祖父の無二の親友の句と同じだった事から導き出した事実関係を確認する。

「誠爾さん、宗正さんはすごく仲が良かった。幼馴染だそうじゃ。二人には本当に良く面倒をみてもらいました」


わたしは持ってきていた写真を中園さんに見せる。

「あの、誠爾さんはこの方ですか?」

と言って写真を中園さんに手渡す。中園さんは写真をご自分のお顔に近づけてしっかりと見る。

「ああ!そうです!これは冨美さん、宗正さん、誠爾さんのお三人です。三人とも本当に仲が良かった。こんな写真が残っておったのですなぁ。本当に懐かしい」

やはり、この写真の青年が誠爾さんなのだ!繋がっている。誠爾さんと曾祖父は繋がっていたんだ!


私は改めて写真の誠爾さんを見つめる。メッセージのやり取りから感じた実直な性格と写真に写る凛とした青年が重なり、私の中で誠爾さんの人物像が形成される。


「あの、さっき仰っていた約束って何ですか?」

「約束とはあなたの事です。平和な時代になったらアヤさんという人が訪ねて来るかもしれない。その時は、ことの経緯を話してやって欲しい、と言われてました。いつになるかわからんから、お前はしっかりと長生きしろ、と。生きてあなたにお会いできました。ようやく約束が果たせました」


「中園さんが櫛を壽工房に届けて下さったと伺いました」

「ええ、そうです。これからそのことをお話しします。当時の戦争のことを話さなくてはなりません。辛いし悲しいことです。でもお話ししなくてはいけません。聞いて下さいますかな?」

戦争、という言葉を聞いてキュッと胸が締め付けられ体温がスッと下がった感じがした。でも私は逃げてはいけない。

「はい。もちろんです。どんな話でも最後まで聞きます。キチンと向き合いたいんです!」

中園さんに私は決意を伝える。


「そうですか。では聞いて下さいますかな」

中園さんは話し方はゆっくりだけど、話し出したら止まらなかった。私は、この櫛のこと、そして誠爾さんと曾祖父のことを聞くことになった。



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