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【第96話】姉からの説教

「ただいまー」


 ん、だれもいない?……って、そんなこと無いな、電気ついてるし、話し声が聞こえるから、夢中になってだれも気づかないだけか。


「陽花ちゃん、涼也に家事以外でしてあげたいことはないの?」


「あるのですが、今はできないので」


「えーっ、じゃあ、陽花ちゃんにそういう機能はついてないんだ」


「そうですね、今のところ、必要ないということになってます」


「今のところってことは、将来的にはできるかもしれないのね」


「はい、私はできたほうが良いと思いますので、将来的に機能をつけてもらいたいです」


 ……って、何の話ししてるんだ。これ、俺が聞いちゃって良い話なのか? そういう機能ってどういう機能だ?


「ただいまー」


 だれも聞いてないみたいだったから、大きめの声で言って、部屋に入る。


「あらおかえりー、早かったわね。そんなに近いのね天音ちゃんち」


「ああ、うん、バイト先をはさんで、同じくらいの距離だから」


「そういえば、同じコンビニでバイトしてたのよね、そこで知り合ったんだ、良かったわね」


「そうだね、バイト先でもしっかりしてたし、受験勉強も理解が早いから何かこっちが助けられてるみたい……って、そういえば、何の話ししてたの?」


「えーっ、それ聞いちゃうんだ。エッチねー」


 えっ、やっぱりそっち系の話? しまった、聞いちゃいけなかったかも。


「そうですよ、できるようになってから、言おうと思っていたんです」


「えっ、あっ、ごめん、先に聞いちゃって」


「それで、できるようになったら、一緒に行って欲しいところがあるんですが……」


「そうなんだ、ここじゃ駄目なの?」


「はい……その、声が隣に聞こえてしまいますので……」


「そっ、それは、確かに別の場所の方が良いかも……」


「じゃあ、一緒に行ってくれますか? カラオケボックス」


「へっ? カラオケボックス? えーっと、それって?」


「はい、歌えるようになって、涼也さんに聞いて欲しいんです」


「あっ、カラオケね。うん、行こう、カラオケボックス」


 どうやらボカロのように歌う機能だったらしい。


「そうだったのね、ごめんなさい、お姉ちゃん勘違いしちゃったわ、アハハ」


 いやいや、「アハハ」じゃない、お陰でこっちも盛大に勘違いしちゃっただろ。


「あ、もしかすると、そういうことをする機能ですか……それは不要ですし、私には理解できません」


「…………」


 まあ、そりゃそうだよな。見た目は人間と同じだからって、人間と同じ欲求があるわけじゃないんだから理解できないよな。


「そ、そういえば、三千花はお風呂だよね?」


「そうね、あんまり飲みすぎると、入れなくなっちゃうかと思って、先に入ってもらったわ」


 大丈夫かな? 既に結構酔っ払ってるみたいに見えたけど。


「私が様子を見てきますね」


 といって、陽花が様子を見に行くと――


「あー、はるかちゃん、きてくれたんだー、いっしょにはいろー」


「はい、心配ですので、一緒に入らせていただきます」


 うん、やっぱり酔っ払ってるみたいだけど、陽花が一緒に居てくれるなら大丈夫だろう。


 そんな中、姉貴がいきなり俺に真顔で切り出してきた。


「……涼也、あなた、三千花ちゃんと付き合ってないのよね」


「な、なに、急に、付き合ってないけど……」


「まったく、昔っからそうね……早耶ちゃんも”涼ちゃんのお嫁さんになる”って、言ってくれてたのに、ただ喜ぶだけで、ちゃんと返事してあげなかったじゃない」


「いや、それは……俺も嬉しかったから、分かってくれてると思って……」


「ちゃんと、言葉に出して言わないと伝わらないこともあるのよ、むしろ、伝わってるからこそはっきり言葉にして欲しいことだってあるんだから」


「えーっと、それって、どういうこと?」


「こうやって、家に来てくれてること自体、ものすごい勇気が要ることなのよ。無駄にしないで」


「う、うん、分かった」


「あんなに良い子が、今までフリーで残ってることが奇跡的なことなのよ。ぐずぐずしてると、誰かに取られちゃうわよ」


「そっ、それは、そうだけど……」


「じゃないと、今のあなたじゃ、逆の線だってあるんだから」


「え? 逆の線? どういうこと?」


「そんなの、自分で考えなさい。人生に一度あるかないかのモテ期真っ只中なんだから、大切にしろってことよ……あと、自分が成長したからとか自惚れないことね、そういうめぐり合わせなだけだから」


「いや、まあ、自惚れはしないよ……」


「そう、分かってるなら、何も言わないわ。今の状況に感謝するのよ」


「うん、それは、分かってる」


 ……くっ、こういうところが、姉貴に頭が上がらない原因のひとつだな。確かに、今のこの状況には感謝しないと。


 ――そのとき、お風呂から出た三千花が戻ってきた。


「すみません、お姉さん。さきにおふろはいってしまって……」


「全然良いのよ、私、まだ飲みたかったから。どう? 少しすっきりした?」


「はい、おかげさまで、すこし酔いがさめました」


 確かに、さっきよりは酔いがさめてるかもしれないな。話し方も少しだけまともになってきてる。


 と、思ったら、陽花も部屋に入ってきた。しかも、バスタオル1枚巻いただけの格好だ。思わず2度見してしまった。


「ごめんなさい、着替えを持っていくのを忘れました」


 いや、忘れたと言うより、三千花の様子を見に行っただけなのに、無理やり一緒に入らされたからだろ。


 陽花がそそくさと、バッグから着替えを取り出して、脱衣所の方に向かうと――


「陽花ちゃん、あんまりゆっくり入ってないわよね。もう一回私と一緒に入りましょう」


 と、姉貴が、陽花を連れて行ってしまった。


「「…………」」


 パジャマ姿の三千花と2人きりになる。


 普段、あれだけ軽口を叩き合えるのに、こうやって2人きりになると、何を話したら良いか分からなくなる。


 姉貴の話は確かにその通りで、そういうことを言ってくれるところには感謝しているのだが……


 逆にそういう話をされた後で、何を言えばいいか分からなくなる……そんなヘタレな自分が居るだけだった。

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