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【第95話】姉の意外な評価

「ねえ、ねえ、三千花ちゃんは、涼也のどこが良かったの?」


 ブーッ……思わずビールを吹き出しそうになった。それは、付き合ってる彼女を実家に連れてったときに言うやつじゃないのか?


「心理学科なんでしょ? 男心を手玉にとるなんて、お手のものなんじゃない? どうして涼也みたいなのと、友達になってくれたの?」


 そういう意味か……言うことがいちいち、口うるさいおかんみたいでハラハラする。少しずつ精神が削りとられていってるような気がするのは気のせいだろうか。


「えっ、えーっと、心理学は恋愛にはマイナスというか、裏表が分かってしまうので……だから、そういうの無くて、分かりやすい人の方が良かったんです」


 えっ、それって、俺のこと言ってくれてるのか……いや、分かりやすいって褒められてないのか? 友達になるには裏表ない人が良いって話だよね?


「ほら、涼也、こんな綺麗な子に、そんなこと言ってもらえるなんて、いつから、普通に女の子と仲良くなれるようになったの? もう、お姉ちゃんからは卒業なのね、ちょっと寂しいわ」


 いやいや、あなたのところに入門した覚えは無いが……しかし、高校のときは男子クラスのせいで、仲の良い女子は居なかったのも事実だ。


「そういえば、小学校のとき仲良かった早耶(さや)ちゃんとは連絡とってないの? この前会ったら、ちっちゃいときクリクリだった髪の毛をストレートにして、すごい美人になってたわよ」


 うん、仲良しの女の子の話が、小学校まで遡るって、我ながら聞いててどうかと思うが、事実なので仕方ない……しかし、小学校以来会ってないのに、いきなり連絡取るとか逆にハードル高すぎるだろ。


「ええっと、涼也先輩は高校の時にお付き合いしてる方とか、いらっしゃらなかったんですか?」


「それが、聞いてよ、高校で理系選択したら、男子クラスっていうのになっちゃって、学校中からBLの巣窟みたいって言われてて、彼女なんかできるわけないわ」


 その呼び名は初めて聞いたな……どおりで女子が近づかないはずだ……廊下で女子たちが「今日、男クラの前の廊下通っちゃったー」「きゃー、うそー、やだー」とか騒いでいたのはそういう意味だったのか。確かに、すき好んで男クラの彼氏を作ろうとは思わんな。


「えっ、そっ、そうなんですね。じゃあ、ずっと今みたいに硬派だったんですね」


 いや、この話のどこが硬派だったんだかさっぱり分からないけど、大丈夫かな天音ちゃん。間違ってお酒飲んじゃったりしてないよね。


「硬派って、天音ちゃんって面白いわ。そうね、小学校のころ、早耶ちゃんと一緒にお風呂入ったりしてたけど、それ以来だから、そうなのかもね。ほら、もっとジュース飲んで良いわよ」


 といって、お酒を勧めるようにジュースを無理やりコップに注ぐ姉……いや、小学校っていっても、1〜2年の頃だよね? 確か、一緒にビニールプールで遊んだ後、姉貴にひん剥かれて風呂に叩き込まれた記憶があるけど……


「おつまみができました。味付けは塩だけですので、七味をつけて召し上がってください」


 と、陽花がつくねを持ってきてくれる。いや、メチャクチャ美味しそうだ。

 

 板前さんよろしく終始おつまみ作りを担当してる陽花に「こんなに可愛いのに、お料理も上手だなんて、うちにも来てくれないかしら」などとのたまう姉だが、おまえなんかに絶対に娘は渡さん。


「ほら、三千花ちゃん、お料理もきたから、飲んで飲んで」


 と、三千花にビールを勧める姉……いや、さっきのジュースもそうだけど、それって三千花と陽花が買ってきたやつだよね? 自分が買ってきた分はほとんど自分で飲んじゃってるし、何しにきたんだ一体。


「あら、三千花ちゃん、ちょっと顔赤くなってきたけど、大丈夫?」


「はい、このくらいならだいじょうぶだとおもいます。しんぱいしていただいてありがとうございます」


 ホントに大丈夫かな? 結構酔っ払ってる気がするのは俺だけだろうか?……


「ちょっと、ハイペース過ぎたかしらね。もう少しゆっくり飲みましょう。それにして、酔っ払った三千花ちゃん可愛いわ」


 いや、ペースが早いのは、あなたに付き合って飲んでるからだよね……しかし、三千花よりたくさん飲んでるはずなのに、やけに冷静な分析だな……酔っ払った三千花が可愛いのも含めて、ここは同意しておこう。


「はい、次は小籠包と、海老蒸し餃子です。お好みでからしをつけてお召し上がりください」


 急に中華料理入ってきたけど、うちの台所で作ったんだよな。プロの料理人でも、あそこでこれ作れるかな? 手間と量が釣り合ってない気がするけど、すごいとしか言いようがない。


「はるかちゃーん、すごいわー、ありがとー」


 三千花が酔っ払って、陽花に抱きついている……しかし、酔っ払うとこんな風になるんだな。うらやまし……いや、けしからん。


 その後も、大根とホタテのサラダ、もつの煮込み、なすの湯びたし、鯛のカルパッチョなど、脈絡がなさそうで、姉が「ちょうどこれ食べたかったのよねー」という料理が次々と運ばれてくる。


「美味しいです陽花さん、こんなに色んなお料理が一度に食べられるなんて、夢みたいです」


 それは、初めて居酒屋に行ったときあるあるだけど、そうか、まだ居酒屋とか行ったこと無いんだな……あっ、そういえば未成年なんだからそろそろ、家に送っていかないと。


「食べてばっかりですみません。食器の片付けとか手伝います」


「大丈夫ですよ、作りながら洗ってますから、もう、洗い終わっちゃってます」


「あっ、じゃあ、このお皿だけでも……」


 といって、自分の食べたお皿と、食べ終わっている姉貴のお皿を洗ってくれる。


「良い子ねー、涼也にはもったいないわー」


 いや、だからそれは、彼女連れてきたときに言うやつでしょ……天音ちゃんは照れながらもお皿を洗ってくれる。お願いだからやめてあげて。


「えーっと、じゃあ、私はこの辺で失礼します。ご馳走さまでした」


 といって、ペコリと頭を下げる天音ちゃん。ポニーテールが揺れて、律儀さを倍増させてる。うん、尊い。


「じゃあ、送っていくよ。荷物は俺が持つけど参考書とか忘れ物ない?」


「えーっと、はい、大丈夫です……っていうか、荷物は私が持ちます」


「大丈夫だよ、このくらい、持ってるうちに入らないから、じゃあ、行こうか」


「あっ、はい、それでは、静華お姉さん、三千花さん、陽花さん、おやすみなさい」


「まなねー、天音ちゃん、おやすみー」「おやすみ、あまねちゃん」「おやすみなさい。天音さん、お気をつけて」


 と、みんなと挨拶が終わって、玄関を出た。


* * *


「お姉さん、良い人ですね。私もあんなお姉さんがいたら良いのに……」


 いや、それは、天音ちゃんの純真なフィルターを通してるからそう見えるだけで、実際にあんな姉貴がいたら、心休まらないことこの上ないから。


「やさしいし、とっても美人で、行動力もあって、うらやましいです」


 同意できるのは行動力のところだけかな。


「あんな、姉で良かったら、いつでもあげるけど……」


「えっ……それって……」


 うつむいて顔を真っ赤にする天音ちゃん。そんなに姉貴のこと気に入ってくれたんだな。まあ、確かに、あれだけ傍若無人に見えて、周りからの受けは良いんだよな。


「姉貴が来るときは、いつでも来て良いから」


「はいっ! ありがとうございます!」


 満面の笑顔で、そう応える天音ちゃん。うーん、癒やされるな。


 家に送り届けると佳乃さんから、大変感謝された上に、アルバイト代までいただいた。


 そして、見送る天音ちゃんは、ペコペコと頭を下げたあとで、いつまでも、笑顔で手を振ってくれたのだった。

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