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【第93話】家に帰るまでが伊豆旅行です

「三千花さん、荷物お持ちしますよ」


 行きは車だったので良かったのだが、麗香さんは実験室に残ってしまったので、電車で帰ることになった。


「ありがとう、陽花ちゃん、ちょっとの間で良いので、お願いします」


 電車で帰るには、重い荷物を持って帰らないといけないということで、パワーアップしたという陽花が荷物持ちを買って出てくれている。


「天音ちゃん、荷物持とうか?」


「いえ、先輩はずっと運転してくれて疲れてるんですから、大丈夫ですよ」


 バイトでビール瓶運んだりしてるから、重いのは大丈夫なんだけど、天音ちゃんは頑なに荷物を預けようとしない。


「私もジュースの箱くらいは運んだりしてましたから、このくらいへっちゃらです」


 ……確かに24本入ったジュースの箱もそこそこ重いのに、天音ちゃんは台車に積んで運んだりしてくれてたっけ。とはいえ、この駅は乗り換えで歩く距離が長いんだよな。


「しかし、三千花の荷物はかなり重そうだな……」


「追加で取りに行った分まで全部持っていっちゃったから……帰りは少し置いて行ってもいいかしら。後で取りに行くから」


 まあ、ちょっとくらい置いていっても良いけど、何を置いていくのか気になるな。開けたりはしないけど。


「化粧品とか、シャンプーとか家でも使うものは持って帰るわ。置いていくのは主に洋服ね」


 そういえば、泊まりに来てから1回も同じ服着てないな、それだけたくさん持ってきたってことか。しかし、置いて行って良いのか?


「洋服は置いていっても家にあるから大丈夫よ、下着は持って帰るけど」


 そうだね、それは持って帰った方が良いと思うよ。置いていかれたら気になってしょうがないから……


 ――階段を登って、ようやくホームに到着する。


「陽花ちゃん、荷物ありがとう。ここからは大丈夫よ」


「それではお返しします。また重ければ言ってください」


 天音ちゃんは、最後の階段でだいぶ息が上がっていた。


「体動かすのは好きなんですけど、最近勉強ぱっかりで、全然運動してなくて……」


 確かに、運動は普段してないと体がなまるからな。まあ、受験だからしょうがないけど。


 ――電車が来ると、車内は思ったより空いていて、冷房も効いていて助かった。


「私は、座ったら寝ちゃいそうだから、立ってることにするわ」


「先輩は、疲れてるんだから、座ってください。寝ちゃっても起こしますから大丈夫ですよ」


「それでしたら、天音さんも隣に座ってください。その方が起こしやすいでしょうから」


 陽花が、天音ちゃんを俺の隣に座らせる。だが、先に船を漕ぎ出したのは天音ちゃんの方だった。まあ、伊豆でも勉強したりしてたし、疲れたんだよな。


 三千花が「良いから、あなたも寝なさい」というアイコンタクトを送ってくる。陽花も「大丈夫ですよ、着いたら起こしますから」という表情をしている……ここは甘えておくかな……


* * *


 ハッと気づくと、だいぶ寝てしまっていたようだ。三千花を見ると「あら、ちゃんと起きたのね」という顔をしている。


 右肩に妙な重さを感じて視線を落とすと、天音ちゃんが寄りかかって寝ていた。


 再び三千花の方をみると、生暖かい視線を送ってくるが、「もう少し寝かせておいてあげなさい」という表情だ。しかし、なんで俺、こんなに三千花と陽花の表情読めるようになってるんだろう。


 陽花の方を見ると、「メンテナンスで、色々細かい表情が出来るようになったんですよ」と言っているみたいだが、それだと、三千花の方は説明がつかない……まあ、色々やらかしたりして、そのときに顔色をうかがったりしてたからかな。


 ――もうすぐ駅に着くというところで、三千花が天音ちゃんを揺すって起こす。


「ほら、天音ちゃん、もうすぐ着くわよ」


「ふえっ……わ、わたし寝ちゃって……ごめんなさい。先輩を起こすなんて言ってたのに」


「あっ、いや、大丈夫だよ。天音ちゃんもたくさん勉強して疲れてるんだから、少しでも休めて良かったよ」


 それに、寝ている天音ちゃんに寄りかかられるという役得もあったので、俺としては全然オッケーだ。と思っていたら、三千花から冷ややかな視線を送られた。これはあきれられてるな……この表情だけは前から分かるやつだ。


* * *


 駅からは、また陽花が荷物を持ってくれたりして、無事に家に到着した。

 狭いアパートだけど、ドアを開けた瞬間の安堵感はやっぱり格別だ。帰ってこれる場所があるって、ありがたい。


 ……でも、


「やっぱりちょっと狭いかな……」


 夕花がいなくなった代わりに陽花が加わって、ほぼ大人4人。そりゃ狭く感じるわけだ。


「学生の一人暮らしにしては広い方よ。ご両親に感謝した方が良いわね」


 三千花に言われて、確かに、そうだなと思う。この部屋の家賃を払ってくれてるんだから、感謝してもし足りないことはない。


「私は買い物に行ってくるわね」


「三千花さん、一緒に行きましょう」


 三千花と陽花が買い物に行ってくれるらしい。じゃあ、その間少し、天音ちゃんの勉強みてようかな。


「天音ちゃん、明日からまた塾だけど、その前に整理しておきたいところとかある?」


「はい、ちょっとまだあやふやなところがあって……」


 早速、ボストンバッグから、参考書を取り出す。これやっぱり重たかったんじゃないかな。だから寝ちゃったっていうのもあるのか……まあ、バイトのときからそうだけど、ほんと頑張り屋さんだな。


「じゃあ、行ってくるわね」


「うん、お願いします。気をつけて」


 ――こうして、とんぼ返りの伊豆旅行も幕を閉じ、ようやく本来の勉強合宿に戻ることになった。


 夕花とお別れした寂しさに浸ってる暇なんかないな……ここは一緒に居てくれるみんなと、みんなが集まれる部屋を借りてくれてる両親に感謝だな。


 そんなことを思っていると、「ピンポーン」とドアのチャイムが鳴った。


「涼也ー、居るんでしょー、開けて―」


 絶対に忘れることのないこの声……まさかの、姉・静華の襲来だった……

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