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【第92話】元気なお別れ

「ここまで来ればもう分かるかな?」


 高速のインターを降りて、夕花のナビ通り進むと、あっという間に実験室のあるビルの通りに入った。


「地下に駐車場があるから、そこに停めてくれ」


 麗香さんがいつも来るとき使ってるところか、ビルに直接入れるのか。


「そこを左に曲った入り口から入ってね」


 夕花が場所を教えてくれる。ここまで完璧に案内してくれて、初めて運転するワンボックスカーだったけど、まったく不安なくたどり着けた。ホント感謝だな。


 ……地下駐車場に入ると、入り口のゲートのところで止められる。これどうすれば良いんだろう。


「このカードを使ってくれ。実験室のスタッフなら無料で停められる」


 麗香さんからカードを受け取って機械に入れると、ゲートが開いた。まあ、陽花のメンテナンスの仕上げを担当してたんだから、行きもここから陽花を連れて行ったっていうことだな。


 空いているスペースに駐車すると、緊張が解けたのか、どっと疲れがでた。夕花が隣で色々しゃべってくれて、楽しいドライブだったけど、慣れない車を運転した疲れは溜まってたみたいだ。


「ちょっと休みたいです」


 そう言うと、陽花が隣に来て、体を支えてくれる。ん?ちょっとパワーアップした?


「モーターの性能が上がりました。主要なところだけですが、これなら介護もばっちりできます」


「えっ、いや、大丈夫だよ、一人で歩けるから」


 流石にこの歳で介護の世話になるというのは気が引ける。まあ、この先介護もアンドロイドに任せる時代がくるのかもしれないから、お試しみたいな感じかな。もしかして、実験データとられてるのかも……


 しかも、体が密着するから、正直、ドキドキしてしまう。これをデータに取られてたらやだな。


「夕花が、手つないであげる」


 といって、手を引っ張られる。いや、孫に手を引かれるおじいちゃん状態だなこれ。


 とはいえ、嫌とは言えず、なすがままに引っ張られて、エレベータの方に向かう。三千花も何やら微笑ましい顔で見てる。


「実験室についたら、しばらくお別れなんだよ」


 夕花に先に言われてしまった。そう、あとちょっとでお別れだ。


「陽花お姉ちゃん、涼也お兄ちゃんをよろしくね」


「もちろんですよ、今日も家まで送り届けますから」


 あれ、今日は陽花が泊まってくれるのかな。誰も居ない家に帰るという寂しさからは逃れられるみたいだ。


「じゃあ、私ももう一泊しようかしら。元々、陽花ちゃんと泊まる約束だったから」


 そうか、陽花の別筐体が小学生で、しかも言動も小学生になっちゃったから、当初の目的は果たせてないよな。


「うれしいです。一緒にガールズトークしましょう」


 ……やっぱり、俺の部屋でガールズトークするんだ。それって、俺はどうすれば良いんだろう。


「良かったね、お兄ちゃん。これで夕花が居なくても大丈夫だね」


 そう言われると、大丈夫なのか不安になるというか。初日にいきなりはぐれたのが大きかったのかもしれない。夕花が居なくなると、あのときの感情がよみがえってしまうような気がする。


「平気だよ、お兄ちゃん。夏休みが終わった夕花は、おうちに帰って、学校に通ってるって思ってくれればいいよ」


 そうか、そうだよな。毎日学校に行ってるからその間は会えないと思えばいいのか。それならしかたないな……そう思うと、少し気持ちが楽になった気がした。


「先輩、私も居ますから……いっぱい勉強教えてください。そうすれば、冬休みなんてあっという間に来ますよ」


 天音ちゃんも励ましてくれる。そうだな、受験生に勉強教えなきゃいけないんだから、寂しがってる暇なんてないよな。


「私も、呑みに行くくらいなら付き合ってやるからな」


 それは、俺が付き合わされるんじゃないのかな? 麗香さんが寂しいから俺が呑みに連れていかれるんだと思うけど……


 そんな他愛もない話をしているうちに、もう、実験室に到着してしまった。


「うん、じゃあ、夕花はここでお別れするね。また、冬休みに行くから待っててね」


 もちろん、待ってないわけがない。


「三千花お姉ちゃんもバイバイ、楽しかったよ!」


「うん、私も楽しかったわ。バイバイ、また冬休みに会いましょう」


 三千花が夕花を抱きしめてる。やっぱり、三千花も寂しいよな。


「天音お姉ちゃんもまたね! お勉強がんばってね」


「ありがとう夕花ちゃん。次会うまでにいっぱいお勉強しておくね」


 次に夕花と会うときは受験目前だな。合格祈願とか行かなきゃかな。


「麗香お姉ちゃんは……メンテナンスよろしくお願いします」


「そうだな、バッテリー周りも大幅に入れ替えるみたいだし、見た目もバッチリ整えてやるからな」


 まあ、麗香さんはメンテンナンスする側の人間だから、複雑な感じだな。


「お兄ちゃん、夕花のこと、ホントの妹だと思っていいからね。じゃあ、バイバイ!」


「ああ、もちろん本当の妹だと思ってるよ。また冬休みな! バイバイ!」


 ――とうとう、夕花が行ってしまった。


 賑やかな夏休みが終わったって感じだな……また、日常に戻るのか……


「ちょっと、なに夏が終わったみたいになってるのよ。大学生は9月まで夏休みでしょ」


 三千花が現実に引き戻してくれた。そうか、まだ夏休みは終わってないのか。


「今日は帰ってビールでも飲みましょう。付き合うわよ」


「私も、お水なら飲めるようになりましたから、お付き合いしますよ」


「えーっと、私も夜勉強してから帰るって連絡しちゃったので、ジュースならお付き合いします」


「みんな……ありがとう。じゃあ、帰って飲もうか」


 心にぽっかり空いてしまった穴のようなものは、みんなが埋めてくれるみたいだ。


「じゃあ、夕花は責任持って預かるから、またな」


 麗香さんが背中を叩いて気合をいれてくれる。


「はい、夕花をお願いします」


 ――こうして、夕花とはしばしのお別れとなったけど、みんなからの励ましを受けて、何とか耐えられそうな自分がいる。


 別れ際、元気にバイバイして、寂しさを感じさせないようにしてくれた夕花。そして、寂しくなんかさせてくれない仲間がいて、今年の夏休みはまだまだ、終わらないな。


 一緒に居てくれる仲間と残りの夏休みも元気に過ごそう。そう心に決めるのだった。

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