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【第86話】夕花との夏休み

「明日には陽花のメンテナンスが終わる。そうしたら、入れ替えだ」


 麗香さんの口から出た言葉に、胸がきゅっと締めつけられる。

 メンテナンスが終われば陽花が戻ってくる。それは嬉しいことのはずだ。けれど――同時に夕花とのお別れを意味していた。


「今生のお別れというわけではないんだ。夕花とも約束しただろ、また会えるって」


 麗香さんは淡々と、しかしどこか優しい声でそう言った。

 ……夏休みに遊びに来ていた親戚が帰ってしまうみたいなものか。次の休みにまた会えるなら、ただ待てばいいだけだ。


「それに、今日は一日、夕花との時間があるんだ、有意義に使えば良い」


 ああ、それで朝の五時半に叩き起こされたのか。俺は「なんでこんな早朝に」と不満を漏らしていたけれど……ちょっと反省。


「そんなに、辛気臭く考えてると、夕花に心配されるぞ。しっかりしてくれお兄ちゃん」


「……そうですね。折角なんで、今日は夕花と夏休みを満喫したいと思います」


「そう、その調子だ。どこか行きたいところがあったら車は出すから言ってくれ」


 うん。遠慮して時間を無駄にするのは一番もったいない。ここは麗香さんの好意に甘えよう。――当日まで秘密にしていたのは、この人のせいなんだし。


* * *


 リビングに戻って、三千花と天音ちゃんに「明日、夕花と陽花が入れ替わる」と伝える。二人とも少し寂しそうな顔をしたが、すぐに「だったら今日を楽しみましょう」という話になった。


「夕花は、どこか行きたいところあるの?」


「うん、湖がみたい!」


 おっ、渋い選択だな。まあ、中身は陽花だから、小学生が行きたそうなレジャー施設とかは選ばないか。


「オートマタ博物館も面白いがな……」


 いや、それは、麗香さんの趣味でしょ……アンドロイドがオートマタ博物館見に行くとかシュール過ぎる……


「海と湖、どっちも見られるなんて、すごい一日なんだよ!」


 そうだよな、どっちも生まれて初めて実物を見るわけだから、貴重な体験になるな。


「そうね、夏は海っていうイメージがあるけど、湖の方が涼しくて良いわよね」


 さすが、海なし県出身の三千花は、湖推しなんだな……って、さっきまで海にも感動してたくせに。


「あの、私も行って良いんでしょうか?」


 天音ちゃんが、心配そうに尋ねてくる。うーん、勉強合宿の名目で連れてきてるんだけど、昨日、けっこう分からないところも復習できたから大丈夫なんじゃないかな?


「そういえが、天音ちゃん、志望の大学ってどこなの?」


 大前提として、志望校のレベルを聞いてなかったけど、これで超難関校に行きたいとかだったら、こんな遠くまで連れてきてってことになってしまう。


「大学と言うか、地球科学科に行きたいんです。地質学とか、鉱石とかに興味があって……ジュール・ベルヌの地底旅行を読んだら、もっと調べたくなっちゃって……」


 そういえば、前に言ってたっけ「地球科学科」……ってあれ?どこかで聞いた学科だな。


「地球科学科なら、うちの大学にもあるんだけど、それは知ってるのかしら?」


「はい、できれば、皆さんと同じ大学に行きたいです!」


 ……そうなんだ、それは初めて聞いたけど、それって……


「天音ちゃんの成績なら、問題なく合格できるわよ……きっと」


 地球科学科は、志望する人も限られてくるので、今の天音ちゃんのトータルの学力からすると、安全に合格できる圏内ではないかと思う。


「千葉の方にもあるんですけど、遠いので、滑り止めにしようかと……」


 うん、そこって多分、国立大学だよね? そっちの滑り止めがうちの大学なんじゃないかな?


「えーっと、まあ、油断しないに越したことはないけど、ちゃんと夜勉強すれば、今日の昼間くらい息抜きしたって大丈夫じゃないかな」


 むしろ、ここに置いていかれて、一人で勉強しているより、昼間リフレッシュして、夜集中してやった方が、効率良いと思う。


「じゃあ、一緒に行っても良いんですね!」


 天音ちゃんの表情がパァッと明るくなる。やっぱり連れて行った方が良いな。


「天音お姉ちゃんも、一緒に行こう!」


 そうと決まったら、早速出発だ。


「じゃあ、車を出すから、飲み物は準備して行ってくれ。冷蔵庫にミネラルウォーターと麦茶は入ってるはずだ」


 こうして、みんなで湖を見に行くことになった。


 ――夕花との夏休みは今日で終わり。だからこそ、全力で楽しもう。


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