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【第82話】勉強合宿はじまる

『ピンポーン』


 ドアのチャイムが鳴ったので、玄関に行ってスコープを覗く。

 来訪者は天音ちゃんだった。今日は勉強合宿渡と称して、一泊する予定だ。


「どうぞ」


 とドアを開ける。


「涼也先生、今日はよろしくお願いします」


 といって頭を下げる天音ちゃん。この辺は相変わらず礼儀正しい。


「あがって、狭いけど」


 いつもなら「ちらかってるけど」というところだが、今日は昼間徹底的に掃除した(させられた)ので、まったくちらかっていない。


「おじゃましまーす」


 一泊とは思えない大きさのボストンバッグを持っているので、靴を脱ぐときに一旦預かってみるが……ものすごく重い……何が入ってるんだ?


「ごめんなさい、重いですよね、分からないところがある参考書とか、全部持ってきちゃったんです」


 おおっ、しっかり勉強する気で来てくれたんだ。まあ、受験生だし、当たり前なのかな。まだ日も暮れてないから、たっぷり勉強する時間はあるな。


「あっ、天音お姉ちゃん、こんにちは!」


 夕花が部屋から飛び出してきた。


「こんにちは陽花さん……でいいんですか?」


 そういえば、詳しく説明してなかったな。


「ごめん、ちょっとしか説明してなかったからもう一度せつめいすると、陽花の大人の筐体がメンテナンス中で、今はこの子供筐体の中に入ってるから中身は陽花なんだけど、流石に同じ名前だと困るから、『夕花』って呼んでる。あと、『さん』付けじゃなくて、『ちゃん』付けで呼んだほうが良いかも」


「分かりました。夕花ちゃんですね……夕花ちゃん、今日はよろしくね」


「うん、おいしいご飯作るからね」


 ご飯作れるのって顔してるけど、中身は陽花だから……


「お料理は得意だから任せて!」


「えっ、あ、うん、じゃあお願いします」


 天音ちゃんも中身が陽花だということに気づいたみたいだ。まあ、しゃべり方が違うから本当に子供かと思っちゃうよね。


「見た目と違和感がないように、しゃべり方も子供っぽくなってるから戸惑うよね」


「あっ、でも、その方がしゃべりやすいです」


 さすが天音ちゃん。順応性高いから、大丈夫そうだな。


「じゃあ、部屋にどうぞ」


「はい、失礼します」


 部屋に入ると、当然三千花がいる。正座をちょっと崩したみたいな座り方だけど、昼間掃除してたからジーンズを履いている。足痺れないかな?


「こんにちは、三千花さん、今日はお世話になります」


「あっ、そんなにかしこまらなくても大丈夫よ、私もお世話になってるだけだから……勉強頑張ってね」


「ありがとうございます! それで、もし良ければでいいんですが、教えて頂けるところがあればと思って、数学以外も持ってきちゃったんです」


「そうなのね、大学受験の問題分かるかしら……歴史とかなら教えられると思うけど……」


 無意識に、歴女カミングアウトしちゃってるけど、大丈夫か? 見た目には出してないだけでけっこう緊張してるのかな。


「それで、これ、つまらないものですが!」


 ボストンバッグから、菓子折りを取り出して、三千花に渡す天音ちゃん。何が入ってるのかと思ったら、そんなのも入ってたのか。


「えっ、私に? こういうのは、家主の涼也さんに渡したほうが良いんじゃないかしら」


「いえ、涼也先生には、母から講師代を預かっていますので」


 と、封筒を手渡された。なるほど、俺はバイトだけど、三千花には、もし分かれば教えてっていう体だから、菓子折りにしたのか。こういうやり取りはよく分からないけど賢いな。


「そうなのね……中身はお菓子かしら? それなら、お勉強の合間の休憩のときに、みんなで頂きましょうか」


 という感じで、何とか落ち着いた。じゃあ、勉強を始めようか。


「それじゃ、夕花はご飯作るから、のぞかないでね」


 いや、鶴の恩返しか!


「……けっして、のぞいては、いけませんよ」


 人の思考を読むんじゃない……でも、何となく、かまって欲しいことは分かった。


「分かりましたよ、おつうさん、決して見ないと約束します」


「かならずですよ」


 そういって、夕花は台所に向かった。


「えーっと、今のは?」


 天音ちゃんが目をパチクリさせて聞いてくる。


「鶴の恩返しでしょ、夕花ちゃん色々知ってるのね」


「あっ、なるほど……でも、夕花ちゃんあんなやりとりするんですね、本当の兄妹みたいでした」


 まあ、陽花が生まれたときから一緒に居るわけだから、兄妹みたいなもんだけど……


「他の人にはあんまりしないけど、涼也さんにだけはするのよね」


 その『涼也さん』って呼び方されると、怒られるような気がして、ちょっとやだな……


「まあ、とにかく、こっちは勉強頑張ってくださいっていうことだと思うから、始めようか」


「はい、今、参考書出します。夏期講習の数学、進みが早くって、分からないところいっぱいあるんですけど、良いですか?」


 三千花が、数学は任せたわよというアイコンタクトを送ってくる。まあ、バイト代ももらってるし、ちゃんとやりますよ。


 こうして、特に問題もなく勉強合宿が始まった。


 俺も三千花も分からないところがあったら夕花に聞くっていう手があるけど、小学生の姿で教えられたら、受験生としてはちょっとメンタル的にくるものがあるかもしれないな。


 このまま、問題なく終わってくれたら良いなと、一瞬思ったが、これはフラグではと思って、考えないようにした。

 果たして、この合宿、どうなることやら……

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