【第75話】夕花とホームセンター
「じゃあ、いってきます」
「いってらっしゃい」
「お昼頃にはもどるわね」
三千花は一旦、家に追加の荷物を取りに行くことになった。
そんなに長く泊まる予定ではなかったので、色々持ってきたい荷物があるみたいだ。
「三千花お姉ちゃん行っちゃったね」
「そうだね、俺たちはどうしようか」
俺がそう言うと、夕花は腕を組んで少し考えるような仕草をする。
小学生サイズで真剣に考えるポーズは、ちょっと微笑ましい。
「お買物に行きたい!」
「うん、良いけど何を買うの?」
「お昼ご飯の材料!」
なるほど。普通の小学生なら「お菓子!」とか「アイス!」だと思うけど、夕花は中身が陽花だ。つまり俺たちのために昼ご飯を作ろうってことなんだろう。
「三千花お姉ちゃんが戻ってくるまでに、お料理作るの!」
そう言ってから、ちょっとモジモジしながら、こう続けた。
「あと、夕花欲しい物があるの……」
ん? なんだろう?
「……その、お料理するのに届かないから……踏み台が欲しいの……」
ああ、なるほど、確かに、調味料の棚にも届かないし、コンロもシンクも高すぎるな。
「分かった。じゃあ最初にホームセンターに行こうか」
早速、戸締まりをして、ホームセンターに向かう俺たち。しっかりと手はつないでいる。まあ、親戚の子を預かってるなら、迷子にならないように、手を繋いでてもおかしくないだろ。
* * *
ホームセンターに到着すると、もう一つ欲しい物があったと思い出す。
「ちょっと待って、先に作りたいものがあるんだ」
「うん、分かった! 何作るの?」
俺は、合鍵を作ってくれるコーナーを指差す。ここで、三千花に渡す合鍵を作ってもらおう。
「合鍵作るの?」
「うん、三千花も合鍵持ってたほうが良いでしょ」
「三千花お姉ちゃん、彼女だもんね」
そうなんだよね、女の子に合鍵渡すのって普通はすごい意味深だけど、付き合っててしばらく同居するという設定なので、持ってないほうが不自然だ。
「三千花お姉ちゃんきっと喜ぶよ」
本当に喜ぶのか?それはちょっと分からないけど、俺が出掛けてる間、全く外に出られないんじゃ困るから、必然的に持ってた方が良いよね。
――家の鍵を店員さんに渡して、合鍵を作ってもらう――しばらく時間が掛かるみたいなので、その間に踏み台を見つけることにした。
「おっ、これなんか良いんじゃないか」
俺は折りたたみ式の踏み台を見つけて、夕花に見せてみる。
「うん、これなら高さもちょうど良いし、夕花が居ないときはしまっておけるね」
商品を見る目が、ちょっと小学生っぽくないけど、夕花がOKしてくれたということは、これで大丈夫ってことだな。
早速、レジに持って行って購入する。折りたたんであるから持ち運ぶときはコンパクトだ。
「そろそろ、合鍵も出来てる頃だから、行ってみようか」
観葉植物とか、野菜のたねとかを興味津々で見つめている夕花にそう言うと、うんっ!と元気に返事して合鍵コーナーに向かう。
何か植物を育てたかったのかな?……でも、夕花が帰っちゃったら、俺が育てないといけないってことだよね……枯らしちゃったら責任問題になるからやめとこう。
「合鍵できていますよ、こちらです」
店員さんが、合鍵を渡してくれる。
「一緒に、キーホルダーはいかがですか?」
色んな種類のキーホルダーが並んでいる……このタイミングで言われたら絶対買っちゃうな……商売上手だ。
「この猫さんが、かわいいよ!」
夕花が、丸まった猫のデザインのキーホルダーを選ぶ。俺が選んでもセンス無いって言われそうだから、これにしとくか。
「じゃあ、このキーホルダーも一緒にください」
「ありがとうございます! 今袋に入れますね」
小さな紙袋に合鍵と一緒に入れてくれたので、お会計を済ませる。
――こうして、ホームセンターの買い物を終えて、スーパーに向かった。
* * *
スーパーに着くと、リーダーは夕花だ。
俺はカゴをもってるだけで、夕花が食材を選んだ食材がどんどん入っていく。
俺はと言うと、
「アイス食べたいな、これ買って良い?」
「うん、冷凍庫は空っぽだから、お兄ちゃんの好きなの買えばいいと思うよ」
子供と大人が逆転してる気がするが、この暑さなら三千花も食べるだろうから6本パックを買っていこう。
――レジに行くと、店員のおばさんが、
「あら、お兄ちゃんと一緒にお買物、偉いわね」
と声をかけてくれる。実は夕花が買い物のリーダーで、俺の方がお手伝いなんだけど、夕花がニッコリ微笑むと、おばさんも目を細めて喜んでくれた。
家に帰ったら、三千花が帰ってくるのを待って、お昼ご飯を食べて、合鍵を渡すだけだな……
なんか、急に緊張してきた。果たして、本当に喜んで受け取ってくれるのか? 俺が一人で空回りしてるだけだったらどうしようと、色々考えてしまう。
まあ、渡してみないと、こればっかりは分からないな……買う前に相談してからにすれば良かったかな……悶々と考えながら、家路に着くのだった。