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【第73話】和朝食と、ちょっとした勘違い

すみません。投稿遅くなりました。

――トン、トン、トン、トン。


 包丁の小気味いい音が台所から聞こえてくる。

 意外と早く起きたつもりだったのに、ベッドにはもう誰もいなかった。


「あら、おはよう。やっと起きたのね」


「おはよう……って、まだ八時前だけど」


「いつも何時に起きてるの? 一限に間に合わないじゃない」


「いや、一限はなるべく入れないようにしてる。バイトの次の日とか、絶対起きられないし」


 そう答えながら、ふと思う。――陽花はどこに行ったんだ?

 部屋にもいないし、台所にもいないようだが。


「陽花ちゃんなら、お風呂洗いと洗濯をしてくれてるわよ」


 ……お手伝い、ってレベルじゃないだろう。見た目は小学生でも、中身は陽花なんだから、完全に“プロの仕事”だ。


「あっ、涼也お兄ちゃん、おはよう!」


 洗面所から戻ってきた陽花が、にこにこと駆け寄ってきた。よく見ると、鼻の頭に洗剤の泡がついている。


「泡、ついてるぞ」


 俺が手でとってやると、陽花はちょっと照れくさそうに笑った。


「だって、お風呂洗うの届かないから、湯船の中に入って洗ってたんだもん」


 ……完全に小学生モードが板についてる。違和感ないせいで、こっちまで本当の妹みたいな対応をしてしまう。


「そういえば、食材って残ってたっけ?」


「さっき、コンビニで買ってきたの。野菜も良心的な値段で売ってて、いいお店ね」


 えっ……いつの間に? 俺が寝てる間に、バイト先のコンビニまで買い物に行ってたのか。何時に起きたんだよ。


「大したものは作ってないけど、大根と油揚げのお味噌汁と、ほうれん草のおひたしと温泉卵。あと、納豆はネギだくにしてあるわ」


 純和食の朝ごはんだ。……なんか心が安らぐ。


「納豆食べられるって知ってたっけ?」


「当たり前じゃない。だからつゆだくじゃなくて、ネギだくにしたのよ」


 そうだ。牛丼屋で散々食べてたっけ。一緒に食べたことなかったから忘れてた。


「ご飯も勝手に炊いたわよ。気持ち良さそうに寝てたから」


 起こさないように気を遣ってくれてたのか。外出してたのも気づかなかった。


「自分の家だからなんでしょうけど、あんなに無防備に寝られるものなのね」


 ……寝てる間に変なことされてないよな? いや、三千花だって昨日、ベッド入った瞬間にスヤスヤ寝てたけどさ。


「まあいいわ、とにかく朝ご飯にしましょう」


 ちゃぶ台に並んだ料理は、まるで昭和の朝ごはんみたいだ。生まれてないけど……


「すごーい! おいしそう!」


 陽花が目を輝かせているけど、もちろん食べられない。……見てるだけでも満足そうだ。


「いただきます」


 まずは味噌汁をひと口。やさしい味わいだけど、油揚げのおかげで物足りなさはなく、ちょうどいい。

 ほうれん草のおひたしは、かつお節と醤油が効いていて絶妙。

 ネギだく納豆は、納豆とネギの割合がほぼ同じで、シャキッとした食感が新鮮。

 温泉卵と組み合わせればタンパク質もしっかり摂れて、野菜もカバー。……体にやさしい献立だな。


「私の実家、いつもこんな朝ご飯だったから、同じにしちゃったけど……良かった?」


「ああ、うん。胃にもやさしいし、これなら毎日でも食べられるよ」


「…………」


「…………」


「今のって……もしかして、涼也お兄ちゃんが三千花お姉ちゃんにプロポーズしたの?」


「いやいやいや! プロポーズはさすがに違うから!」


 確かに「毎日食べたい」なんて言ったら、そう聞こえるけど! 違う! そういう意味じゃない!


「ちがうのよ、陽花ちゃん。これは、この人が普段コンビニ弁当とか外食ばっかりだから、本当は毎日こういう食事のほうが胃にやさしいっていう意味よ」


 ……うん。完全にその通りなんだけど。

 これ、もし本当にプロポーズだったら、やんわり断られたってことになるよな。


「……どうしたの? なんか違った?」


「いや、違わない。というかその通りなんだけど……プロポーズじゃなくても、毎日食べたいっていうのは本当だよ」


「…………」


 気まずい。……普段から自分の気持ちをあんまり言わないのがいけないんだろうけど、たまに素直に話すとこれだ。


「ごめん。ただ朝ご飯がおいしかったってだけの話。他意はないよ」


「……いいよ……」


「えっ?」


「いいって言ったの。陽花ちゃんを預かってる間は、毎朝ご飯作ってあげる」


「あ、ありがとう」


 ……なんかOKもらえた。やっぱり言ってみるもんだな。


 こうして俺と三千花と陽花の、プチ同居生活が本格的に始まるのだった。

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