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【第69話】取り扱い注意と、すれ違いの電車

「ミニ陽花さんの取り扱い注意点ですが……」


 子供版陽花とか、小学生陽花とか、呼び方を色々考えた末、結局「ミニ陽花」に落ち着いた。まあ、呼びやすいから良いか。


「筐体は可能な限り軽量化するため、カーボンを多用しています。そのため、強い衝撃を与えると、金属のように曲がるのではなく、人間の骨のようにポキっと折れてしまいます」


 ……なるほど、交通事故とかに巻き込まれないように、ちゃんと見てないと駄目ってことか。手をつないでおいた方が良いかもしれない。


「そして、バッテリーは軽量化のため、従来のリチウムバッテリーと、開発中の固体電池が使用されていますが、リチウムの方がなくなると、急激に出力が低下しますので、おんぶや抱っこをしてあげてください」


 なんかもう、人間の子供と変わらないな。疲れて歩けなくなっちゃって、お父さんがおんぶするみたいなものか。


「最後に、GPS機能は付いていますが、地下鉄など位置測定が難しい場合もありますし、迷ってしまうと、大人に保護されて、引き渡しに特別な手続きが必要になる場合がありますので、くれぐれも1人にしないでください」


 そうか……親戚の子を預かっているというのも、作り話な訳だし、厳しいチェックが入ったら、証明ができないもんな……普通に歩いてると視界から外れそうだし、本当にちゃんと見ておかないと。


「以上が注意点になります。大丈夫そうですか?」


「はい、分かりました。可能な限り、ずっと手をつないでおいて、目を離さないようにします」


「スマホ版の陽花さんと話せば、ミニ陽花さんにも伝わります。万が一の場合はスマホから連絡を。ただし、ミニ陽花さんが圏外だと通信はできませんのでご注意を」


「なるほど……絶対に1人にしないようにします」


「私も、なるべく手をつないでおくようにします」


 三千花も真剣にうなずいている。しかし、もう少し小さい子のサイズなら3人で手を繋いでても違和感無いかもしれないけど、今の陽花のサイズってどうなんだろう。


「涼也お兄ちゃん、三千花お姉ちゃん、手つないで!」


 そう言うやいなや、ミニ陽花は俺の右腕と三千花の左腕を同時に抱きしめるように腕を絡めてきた。……いや、近い近い! 三千花ともこんな至近距離って、色々ともたないんですけど。


「ちょ、ちょっと、3人で手をつなぐのは無理があるわね、1人ずつにしましょう」


「そ、そうだね……じゃあ俺は少し後ろから見てるよ」


「それでは、陽花さんをよろしくお願いします」


 向田さんは、俺たちのやり取りをバッサリ切り捨て、実験室から送り出すのだった。


* * *


 仲の良い姉妹みたいに、三千花の腕に抱きつく陽花。そして、それを数歩後ろから見つめる俺。


「…………」


「…………」


「ちょっと、ストーカーっぽいわね、隣に並びなさいよ」


 ひどい言われようだ……まあ、俺も自分でそう思ったけど……


「バッテリーはどれくらい持つの?」


「はい、リチウムは90%残っていて、固体電池は100%に近いです。何もなければ、リチウムだけで帰宅しても50%は残っていると思います」


 小学生の声で、その説明口調はやめて欲しい。とはいえ、この容姿で普段の陽花の声を出されても周りがびっくりするから、しょうがないけど。


「そうよね、駅まで着いて、電車に乗っちゃえば、そんなにバッテリーは使わないわよね」


「たしかに、迷子にでもならなければ、大丈夫かな」


「…………」


「…………」


「ちょっと! 三千花お姉ちゃんも、涼也お兄ちゃんも、フラグみたいなこと言わないで!」


 ……確かに。でも、それ最初に言い出したの陽花じゃない?……いや、向田さんの説明のときから、その傾向はあったけど。


「ここから、地下鉄には乗らないといけないけど、いつもそんなに混んでないから大丈夫よね?」


 三千花さん……あなたはどうして、そういうことを言ってしまうのですかね……

 それぞれ、胸に不安な気持ちを抱えつつ、地下鉄の駅に到着した。


* * *


「ちょっと、何でこんなに混んでるの?」


 盛大にフラグを回収した三千花がそんなことを言う。駅のホームに着くと、そこは普段の数倍の人で溢れかえっていた。


『架線故障の影響で、上下線とも大幅な遅れをもって運転を行っております。お急ぎの方は他の路線への振替乗車を行っておりますので、お近くの駅係員までお申し出ください』


「これは、振替輸送っていっても、一旦逆方面の電車に乗って、そこから乗り換えないと駄目だよね、このまま列に並んで、少し落ち着くまで待つしかないんじゃない」


 こういうときは焦らずに、混雑が緩和するのを待つのが一番だ。


「陽花ちゃんは大丈夫そう?」


「うん、待ってるだけなら、そんなに疲れないから大丈夫だよ」


 ここでは、「バッテリー」とかいう単語を出さないように話してくれて助かる。

 みんな、冷静に対応してくれてるから、まあ、時間はかかるけど、ちょっと待ってから帰ろう。


* * *


 ようやく、途中駅で折返し運転するようになった電車が、少しずつ来るようになって、何人かずつ、電車に乗れるようになった。


「次の電車に乗れそうね」


「うん、だけど、3人一緒に乗れなそうだったら、もう一本待とう」


 ――電車が到着して、ドアが開いて、何人か降りてくる。ちょうど3人は乗れそうなスペースが出来たので、三千花と2人で陽花をガードしつつ電車に乗り込む。


「……何とか、乗れたね」


 と、ホッとしたそのとき――


「あっ、すみません、やっぱり降ります!」


 電車の奥からサラリーマン風のおじさんが人をかき分けて出てきた……


 ……が。

 そのおじさん、どうやら陽花に気付いていなかったらしい。思いきり陽花を突き飛ばすようにして、一緒に車外へ飛び出してしまったのだ。


 ほんの一瞬の出来事。何が起こったか理解する間もなく、俺も三千花も慌てて降りようとした――が、無情にもドアが閉まった。


 そして、電車は、今までの遅れを取り戻すように、すぐさま走り出してしまったのであった。

ごめんなさい、長いので次回に続きます。

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