【第67話】お弁当とお泊まり計画?
「ソレデハ、ワタシタチはコノヘンデ」
「はい、気をつけて、いってらっしゃい」
サマンサは、高木さんと池袋に行くらしい。
どんなところに案内してもらえるのか、楽しみで仕方ない様子で、目がキラキラしている。ソワソワという擬音が似合いすぎる。
「悠二先輩、また描いてくるんで、よろしくっす」
「アヤぽん、期待してるん、よろしくー」
……おい、俺が連れてきたのに、悠二とばっかり話してないか?
茜ちゃんに言い付けるぞ。
「私は、このあとバイトだから、もう少ししたら行くけど、今日は食べにくるの?」
いつもなら研究室帰りに牛丼コースだけど、今日はそうはいかない。
「じつは、お弁当持ってきてて……」
「えっ、自分で作ったの?」
いやいや、そんな訳ない。
「えーっと、陽花が作ってくれて……」
なぜか、浮気を問い詰められてるような気分になる。
「えーーっ! 陽花ちゃんが作ったの! みせてみせて!」
思っていたのと違う反応だ。
……が、まあ、あの圧倒的“新妻感”を醸し出しながら作っていた姿を知っているのは俺だけなので、外から見ればこういう反応になるのかもしれない。
「これだけど」
「えっ、スゴ。アスパラベーコンとオムレツ風卵焼き、ミニハンバーグにブロッコリーとタコさんウインナー……卵焼きもハンバーグも冷凍じゃなさそうだし……朝からどれだけ手間かけてるの?」
そうなんだ。定番の組み合わせだから普通だと思ってたけど、確かに少量ずつ違うおかずを作るのは大変だ。
「そうなん……この前もっと種類あるお弁当作ってもらったん……もっと褒めてあげればよかったっしょ……」
ん? なんか悠二に飛び火してるけど、それ茜ちゃんに作ってもらったってことだよな。あの子なら前の晩から仕込みしてても不思議じゃない。
「二人とも果報者ね……って、茜ちゃん受験じゃないの? 頻繁にデートしてるわけ? 大丈夫なの?」
「管理栄養学科のある大学に指定校推薦決まったって、そのお祝いに遊園地に行ったっしょ」
なるほど。学校側からも茜ちゃんの料理スキルは認められているわけだ。文化祭でも大活躍してたし、家庭科の成績も良さそうだしな。
「そうなんだ、おめでとう……って、それなら悠二くんは良いけど、陽花ちゃん泊まったのって、一昨日の夜じゃなかった?」
またしても疑惑の目がこちらへ。これは向田さんの都合だから不可抗力だって。
「次の日の朝、トラブルがあって、向田さんが迎えに来れなくて、もう一日預かることになったんだよ」
「そんな、親戚の子を預かるみたいに言うけど、どっちかというと、陽花ちゃんにお世話されてたんじゃないの?」
鋭い。まさにその通りだ。もしかして陽花から情報が行ってる?
「はい、掃除とか洗濯もしてもらいました」
「やっぱり、そんなことだろうと思った……今度陽花ちゃん来るとき、一緒に泊まろうかしら」
ん? 三千花が一緒に泊まる?……修羅場……にはならないよな?
別に構わないけど、早苗さんに見られたら説明がめんどくさい。
「まあ、泊まりたいなら構わないけど……」
「本当? じゃあ、今度陽花ちゃんが泊まるとき教えてね」
なんか妙な流れになったけど……陽花が一緒とはいえ、女の子がうちに泊まることに。これは……ラッキーなのか?
『はい、今度は是非一緒にお泊りしましょう』
突然、陽花がスマホから声を発した。そういえばアプリを起動したままだった。
「ありがとう、陽花ちゃん。色々お話ししましょう」
俺抜きでガールズトークされる未来が見える……やめてくれ。
「そういえば、話長くなっちゃったけど、早くお弁当食べないと駄目なんじゃない?」
そうだった。そもそも、お弁当を食べようとして話が脱線したんだったっけ……じゃあ、さっそく頂こう。
「アスパラベーコン1つもらうわね」
『どうぞ、召し上がってください』
律儀に爪楊枝を刺してあったせいで、1つ三千花に奪われた。しかも陽花の許可つき……残り2本は死守せねば。
「ハンバーグも、端っこの方で良いから、ちょっと頂戴」
『はい、そちらもどうぞ。できれば感想を頂ければ嬉しいです』
ミニハンバーグも、1口サイズに切ってあったせいで端の1欠けを取られた。
「アスパラもちょうど良い歯ごたえになるように火が通ってて、ハンバーグも玉ねぎが少し大きめに切ってあって、絶妙な食感だわ、味付けもこの温度で食べるとちょうど良い塩加減……計算し尽くされてるわね」
普通に美味しいと思って食べてたけど、普段料理する人だとこういう違いが分かるんだな。
『貴重なご意見ありがとうございます。今後の参考にさせていただきます』
いやいや、レストランのアンケートじゃないんだから……
こうして、陽花のお弁当を味わう二人を不思議そうに眺める悠二。
俺たちの関係って、傍から見たらどう見えてるんだろう――
陽花を入れて3人で一夜を明かせば、何か変わるのかもしれないな……そんなことを考える、昼下がりだった。